第104話「春大会」
春大会当日。前泊していたチームは次々と球場に集まっていく。藤崎高校、初巾高校、鶴工業高校、武里高校、三浜高校、鉄日高校、そして……黒光高校。
「おっ、いきなりお出ましとは、数奇な運命やな」
クロ高の団体にいきなり話しかける関西弁の男――一瞬で誰だか悟る者がほとんどだった。
「よう道中。そんなの運命って言われたらたまったもんじゃねえぜ」
そう、話しかけてきたこの男こそが道中桔平。藤崎高校の中心選手だ。今宮の返しに、満足そうに笑う道中。
「秋はハッ高にボロ負けしてもたからなあ。お前らに勝ってハッ高にリベンジしたるねん」
「目先の勝負を見過ごすとは、愚の骨頂だな」
互いに煽る道中と今宮。
「ちょっ、道中さん何やってるんですか! 行きますよ!」
「待てや余介。今ちょっとゴアイサツしてんねん」
どうでもいいといった表情をした余介と呼ばれたこの男、金口余介。暗黒世代ながら、藤崎高校で正捕手を務めている者だ。
「すみませんほんとに、試合ではどうかお手柔らかにお願いします」
金口が目を細めて今宮に笑いかけたのを、今宮は逃さない。
「手堅く勝ちますのでどうかご遠慮なく」
(今宮も煽り上手だよなあ)
チームメイトが感心している中、開会式の時間が近づいていた。
8チームが整列している。一番右端から、鉄日高校――昨年の春大会は優勝、夏は準優勝、秋は優勝し、北信越大会でも優勝。明治神宮大会と選抜大会でも準優勝を果たすという、全国トップレベルの実力を持つ高校だ。絶対的エース黒鉄を守りの軸に、4番地村を絶対的な攻めの軸に置いた、超攻撃的スタンスが特徴のチームだ。
(茅場……三好……知多……そう、あんの舐めたインタビューしやがった知多哲也ってやつを、俺は絶対に忘れねえ……)
(黒鉄さんがいつになく闘志燃やしてる……夏まで待ちきれないんだろうなあ)
黒鉄が歯を食いしばるのを、女房役の迫田は震えながら見ていた。
次に、三浜高校――低めに外れたボール球でさえホームランにするという規格外のパワーを持つ坂東剛治郎を中心としたクリーンナップが特徴の打ち勝つスタイルのチームだ。
「HAHAHA!!! 久しぶりの表舞台にBANDO登場!!!!」
(うるせえなあ)
坂東の大声に耳を塞ぐのは、キャプテンで左腕エースの柴川辰次。苦労が絶えない様子だ。
次に、鶴工業高校――古くからの堅実なスタイルで、確実に点を取るチーム。守備からしっかりとリズムを作るそのスタイルは、絶対的な存在を手に入れずとも揺るがない安定感を生み出している。
「……初回から初巾か。ナックルボール打てる?」
「打たなきゃダメでしょ」
キャプテンの長田楽は苦しそうに言った。
続いて、福富商業高校――古くからずっと強豪であり続けた高校。エースで4番の高月広嗣と、白銀キャッチャー、後藤陸の名物バッテリーが特徴の、白銀世代を軸に置いたチームだ。
「寺田! 調子は!?」
「ばっちりです!」
「ならいい!! 安心してリリーフを任せられるぜ!」
キャプテンの高月は、左投手でレフトを守る寺田に確認を取り、高笑いした。
「後藤も、クロ高にリベンジするために燃えてるだろうな」
「その前に、三浜と鉄日をどう抑えるかだろ。やばいぞ二つとも」
同じく白銀世代の仙田と荒牧も笑った。
武里高校――目立った選手こそいないが、夏には確実にチームを完成させてくることで有名なチーム。初戦から鉄日と当たることを嘆いている者が多かった……。
そして、初巾高校――特徴のある選手を、見事にまとめ上げるキャプテン、白里一哉を中心に、アメリカ人の血を持つスーパー高校生、レイモンドや、ナックルボーラー柏木、強肩強打の捕手、白里虎次郎など、一癖ある選手が多く、変わった攻め方が特徴的なチームだ。
「あとデカい大会はこれと夏の二つだけかあ。感慨深いものがあるな」
「……いや、別に……俺はプロ入りする予定だし」
白里兄が感慨に浸るのを、レイモンドは一刀両断していた。
藤崎高校――エース道中を軸にした、超高偏差値な高校だ。攻め方も、セオリーから外さないでいて、手堅く、選手の特徴をよく生かしている。
「さあ! 打倒クロ高! 打倒ハッ高! 打倒テッ高!!」
声高に叫ぶ道中。周りが諫めても落ち着かない。
そして、開幕戦――初巾高校VS鶴工業高校が始まった。
「ナックル打つぞおらぁ!」
鶴工業の先頭打者は意気込むも、柏木のナックルはバットに当たらない。
「前よりも曲がってね?」
「確実に精度上げてきてるな……」
今宮と田中は観客席で唸る。そして、次の投球に震撼した。
「ストライクッ! バッターアウト!」
先頭打者が三振に倒れる。ストレートだ。
「インコースにズバリと決まるストレート。ナックルをカットしようと必死になってるバッターからしたら苦しいもんだな」
「配球変わったね……」
今宮の口に、山口も深刻そうな顔をして柏木の投球を見ていた。
「多分、バッターの性格によってガンガン変えてくるよ。今宮や僕みたいな、いくらでもカットしてミートできるバッター相手には、ストレートでタイミングをずらし、遊や大滝みたいな、ストレートを一発飛ばせるバッター相手なら、ナックルで仕留めてくる」
「厄介だな……秋とは違うってか」
結局9-0で初巾高校が鶴工業高校相手に圧勝した。クロ高VS藤崎の試合は、明日である。
「柏木の攻略も大事だが、まずは藤崎――道中だ。絶対に打って勝つぞ。片や全国優勝目指してるチーム、片や県内トップレベルを狙うチーム、どっちが強いかは明白にしてやらねえとな!!」
今宮がチームメイト全体を鼓舞した。それに呼応するチームメイトたち。
その日の宿泊場は、念に念を重ねたミーティングが行われていた。主にベンチ入りメンバーだけで行われていたが、そこには新一年生の有望株と思われる者らも数名参加していた。
「下評判によると、新二年生にキープレイヤーが数人入部したみたいだ。まずは、キャッチャーの金口余介。こいつは、昨年の秋はベンチだったが、春でレギュラーの座を奪っている」
「……まあ強かな印象は受けたぜ」
実際に言葉を交わした今宮が言う。
「んで、一番打者の長永安春。選球眼が良く、カット打法で球数を稼ぐのが得意らしい」
「体力の無い新田さんにとっては、厳しい戦いになることが予想されますね」
金条が新田の心配をする。
「まあ、あまり長引くようだったら、コイツ専用シフト作ってもいいんじゃないか?」
外野手の山口の提案に、新田も頷いた。
「あとは二遊間。球際も良いし、何より打球予測に優れてる。上背が無いが、お前らタイプだ」
絹田監督が今宮と田中を指して言う。
「まあ、少なくとも県内じゃ、俺らに敵う二遊間はいねえよな」
「高い所は無理だけど……」
(道中さんそのものが一番の脅威なだけあって、それ以外はうちと同等かそれ以下か。最近先輩たち調子良いし、きっと勝てるはず。絶対に落とさないように抜かりなくやらないとな!)
古堂は心の中でぐっと意気込む。鷹戸もその横で静かに闘志を燃やしていた。
「さあ、明日に備えて早く寝ろ」
絹田監督の言葉を皮切りに、全員がそれぞれの部屋へと戻っていった。
次の日の早朝、新田と古堂が宿泊場の周辺をランニングしていた。
「新田さん、緊張してますか?」
「ああ……。公式戦は、あの敗けた試合以来だからね」
思い出すのは、北信越大会の二回戦、対清龍戦。新田は、芳賀山や丸田と言った主要選手に打たれ失点し、鷹戸がコントロール不調によりランナーを貯め、抑えとして登板した古堂が決勝点を与えてしまうという試合内容だったことを、二人は鮮明に覚えていた。
「もう、あんな不甲斐ない試合はしねえよな」
「もちろんっす。お互いに……ですよね」
新田の言葉に古堂もエールを返したのだった。
オーダー
先攻 藤崎高校
1番センター、長永安春 2番ショート、井口翔人 3番サード、原田水 4番ピッチャー、道中桔平 5番ファースト、江ノ森大輔 6番キャッチャー、金口余介 7番ライト、海原泰人 8番セカンド、井口急人 9番レフト、片津瑛
後攻 黒光高校
1番セカンド、今宮陽兵 2番ライト、小林翔馬 3番ショート、田中遊 4番サード、大滝真司 5番センター、山口寿 6番ファースト、伊奈聖也 7番キャッチャー、金条春利 8番レフト、佐々木隆 9番ピッチャー、新田静
春の県予選大会一回戦第二試合、藤崎高校VS黒光高校が始まった。




