第100話「真・暗黒世代」
勝ち越し弾を打たれたその回の裏。打席に立つのは黒鉄大哉自身。自分の投球で2点も与えてしまったことを、宮城やチームメイト全員に謝りたいという気持ちでいっぱいだった。そんなことを考えながら打ち返した打球は、ショートゴロに抑えられる。
続いて、1番四方が打席に立つ。しかし、そんな彼も、打ち返したはいいが、レフトフライに倒れた。そして、2番本田。彼のバットコントロールの良さも、茅場の鋭く動くムービングの前に凡打となり、ピッチャーゴロで3アウトとなったのだ――
――ゲームセット。
鉄日高校 1-2 明徳高校。
明徳高校、春の選抜高校野球大会――優勝。
帰り道に試合をTV中継で見ていたクロ高の4人は、ただただ黙っていた。しばらくしてやっと口を開いた今宮が重そうに言った。
「黒鉄をあそこまで打ち崩せるとは……あの5番、えげつないな」
「知多哲也――暗黒世代の二年生で5番センター。俺らが考えているよりもずっとやばいやつなのかもしれない。全国への壁が、また一つ高くなった気がするよ」
新田はじっと彼を見つめながら言った。
試合後のインタビューに答えるのは、エース茅場清と、本日2HRの知多哲也の二人。まずは茅場にマイクが向けられる。
「鉄日高校は良いチームでした。それでも僕は練習してきたことをただやるだけでしたので、ある意味では、非常に気持ちが楽だったと思います。ただ、このまま夏勝ち上がれるとは思っていないので、さらに練習し、春夏連覇を目標にしていきたいと思います」
「ありがとうございました。では、続いては……暗黒世代と呼ばれながらも、黒鉄投手から2ホームランの彼、知多哲也くんにお伺いしたいと思います。優勝おめでとうございます」
アナウンサーが高い声で知多に話しかけた。知多はおもむろに口を開くと、カメラ目線でこう言った。
「ええ。今回の結果には、多くの人の支えがあったからこそだと、痛感しています」
そう言ったうえで、マイクをアナウンサーからふんだくる知多。困惑するテレビ局の人をよそに、知多は言い放った。
「……今大会、2年生は『暗黒世代』と呼ばれています。自分たちは、こう呼ばれることに対し、劣等感を抱きつつも、絶対に負けたくない、という想いを、心の奥底に常に持ち続けていました。また、黄金世代、白銀世代の先輩たちの背中を常に見つめ練習してきたことや、同世代にスーパースターになりうる存在が現れていなかったことも、モチベーションの向上に繋がっていたと思います。だから、暗黒世代と呼ばれて……本当に良かった。と自分は痛感しています。宣言します。夏は、もっと自分たちの代が活躍します……。暗黒の前では、金も銀も、輝くことは、できませんから――」
テレビのカメラを前に堂々と言い切った知多哲也。困惑するアナウンサーらをよそに、テレビの前に座っていた白銀世代たちは、燃え上がった。そして――彼らも……。
「……知多哲也、かっけえ……」
寮のテレビを見ながら、古堂黎樹は恍惚とした表情をしていた。
「……いや、やべえんじゃねえの。こんなやつが全国に現れたってことは、俺たちもうかうかしてらんねえぞ」
大滝はその隣で深刻そうな表情でつぶやいた。鷹戸は相変わらず画面を強く睨んでいる。
「いや、だからこそ面白いんじゃねえか。全国には、暗黒世代であるってことを跳ねのけて結果を出したやつらがいるんだ。俺たちもこうしちゃいられねえ。練習だ練習!!」
いきなりグラウンドへと向かう古堂。そんな彼の高まる鼓動は、とどまることを知らないのであった――




