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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
1.秋大会
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第10話「新田静」

 練習試合の日の朝、4時に起床する古堂。顔を洗う。昨日の夜のことを思い出して、張り詰めたような表情になる。

(昨日の新田先輩……どうして……)


――9番、ピッチャー、鷹戸

監督のあの言葉を思い出す古堂。悔しさと同時に見てしまった尊敬する先輩の表情。監督の采配に疑問が残る古堂。昨日の監督の投手陣を集めた時の言葉を思い出す。

――三浜の投手陣は左投手が多く、打撃陣は左に慣れている。それに新田には打たれ弱いという弱点があるからな。弱点を晒すくらいなら先に球速のある鷹戸を起用し、少ない回をしっかり投げぬいてもらいたいという思いからだ。しっかりと投げぬいてお前には自信をつけてもらいたい。

(監督はああ言ってたけど、正直一年生に先発取られたら、新田先輩もどうしたらいいのかわからなくなるよな……)

練習着を着てグラウンドに向かうと、本日先発の鷹戸が走っていた。

(あ、あいつ……)

鷹戸を見て、思い出すのは小豆を指して言ったあの言葉――

――球速ないから変化球主体。そんな甘いもんじゃねえよ。実際変化量も多いかと言われたら微妙。あれがピッチャーやってられるのが不思議なぐらいだ。そんなに俺らの世代って雑魚ばっかかよ。

軟投派を馬鹿にするかのような発言を思い出す古堂。あのときは自分と彼との差を見せつけられたような気がして食って掛かった古堂だったが、今思うと、暗黒世代と言われている自分たち全体の代に苛立ちを覚えているかのようだった。

(そうか……白銀世代に勝ったことに対してどう思ってるんだろうな……)

無意識のうちにじっと鷹戸を眺めていた古堂。鷹戸もこちらの視線に気づいたようだった。

「何だよ」

静かに問う鷹戸。目は相変わらず鋭くこちらを睨んでいる。

「……いや、何でもない」

――チームのため、とは言ってもそう簡単に割り切ることなんてできない。特にエースナンバーを背負っている以上、そうやすやすと渡せるものでもない。

無言でランニングを始める古堂。鷹戸はランニングを終えるとブルペンへと向かっていくのだった。


 午前中、試合を想定した練習が始まる。左でシュートを投げる三浜の先発を想定して、古堂黎樹がバッティングピッチャーとして投げる。

「おっ、超朝練のコドーじゃん! よろしく頼むぜ~」

相変わらず軽い口調の田中。大滝進一の後を継ぐこととなる一番バッターとはさぞかし荷が重そうだが、彼なら大丈夫そうだ、と不思議と思わせた。

(守備は上手いけど、バッティングはどうなんだろ……)

古堂はシュートを投げる。試合を想定した全力投球だ。しかし、田中はしっかりとミートさせて飛ばす。

「おお! いいじゃん。静から教えてもらったんだろ? いい武器にしてんじゃねえか」

軽く当てておきながら古堂のシュートをほめる。複雑な気分だ。

続いて二番の今宮。彼にも軽く当てられる。

(さすが白銀世代の先輩たちだ……)

「気にすんなよコドー。お前の球ごとき俺らが打てないわけないだろ!」

今宮の言葉は全くフォローになっていない。

「……まあ俺らはほぼ毎日新田の球打ってるからよ。お前の変化球なんてたかが知れてるぜ」

「そ、そうですか……」

「んー。まあ練習試合だし、新田が先発落ちしたことをお前は気にしなくてもいいぞ。それに、あいつは打たれ弱い。三浜の打撃陣は結構強いからな」

(今宮さん……監督と同じこと言ってる)

心の中を読まれたような気がしてぞっとする古堂だった。


 金条は鷹戸と今日の午後のピッチングについて相談していた。

「俺は基本ストレート……ツーシームとジャイロボールは投げ分けできるけど多様はやめてほしい。あとスプリットも一応投げられる」

「ああ。じゃあ基本ストレート中心で……あんまり慎重になりすぎるのもあれだし、内角どんどん攻めていこう。コントロール乱れそうだったら首振ってくれていいからな」

金条は練習試合の反省から鷹戸に気を遣う。

「いや、隅投げられる」

鷹戸の言葉。金条は笑った。

「わかった。サンキューな」

金条はその表情の奥――心の奥に張り詰めたような黒い塊を持っていた。

(新田さんが先発落ちしたのは俺があの変化球取れないからだよな……)

自分には郷田さんほどの捕球力はないことは彼自身一番よく分かっていた。それをなんだか監督から改めて遠回しに言われたような気がしていたのだった。



 午後、始まる練習試合。クロ高の先攻。三浜高校の先発、柴川しばかわの投球を見る。

「球速は140km。古堂よりちょっと早いくらいだな。それよりも警戒すべきはバッティング。クリーンナップ勢は軽く外野に運ぶパワーを持っている。警戒するように」

「はい!」

キャプテン今宮の言葉を受け、チームメイト全体が返事をする。ベンチに戻っていく新田に声をかける伊東。

「なあに……高みの見物してろお前は! エースがそんな顔でどうする!」

「伊東……」

三枚目風の見た目の伊東が変顔をして新田を笑わせる。新田の表情も幾らか明るくなる。

「……そうだな」


 打席に立つのは田中。柴川のシュートを初球からしっかりと捉えて二遊間を抜けるヒットを放つ。

(ははは……静の球に比べたら余裕だよな)

続いて二番今宮が送りバントを決めて進塁。三番山口が左中間へのクリーンヒットを決め、先制点を入れた。

(ふむ……クロ高の白銀世代はピッチャー含め4人。4、5番が一年生と聞いて落ちぶれたものとも思ったが……少数精鋭といった感じだな。せ、先発も一年生か)

厳しい顔をする三浜高校の監督、築根宰治つきね えいじ

大滝や伊奈などもヒットを打ち、この回3点を入れる。投げては鷹戸が三浜打線を抑えぬく。一巡目は、白銀世代と呼ばれたクリーンナップたちを外野へのフライに抑えぬいた。

(あの鷹戸の重い球を外野まで悠々と運ぶか。金条も低めにリードしていたことだろうに)

クロ高の監督、絹田幸二郎も顎をさすって三浜高校打線を警戒する。

 そして、8回の裏、鷹戸が投げた一球目を三浜の四番坂東ばんどうがスタンドに叩き込んだ。

「ふははは!! この球威モンスターTAKAKOから俺BANDOが強烈なアーチぃ!」

ソロホームランで一点を返す三浜高校。その後、五番にもヒットを打たれ、六番バッターにも打たれて1点差まで詰め寄られる。しかし、鷹戸は何とか下位打線は凡退に抑えた。

(うむ……鷹戸の球速と球威に慣れてきた頃か)「古堂、ブルペンにいる新田を呼んで来い」

「あ、はい!」

古堂にとって、新田の投球を見るのは夏以来だ。そして、交代して登板する新田。

(ちっ、まだ投げられたってのに……)

悪態をつく鷹戸。絹田が話しかける。

「どうだった、坂東は?」

「大坂ほどの繊細な選球眼はないっすね。ただ今叩き込まれたのはボール球でしたし、やはり警戒が必要だと思います」

「わかっているならそれでいい」


 古堂は新田の投球練習を見ていた。相変わらず鋭い変化球。金条の捕球の様子にも力が入っているようだった。

(やっぱこええよあのスライダー……。次はシュート……コドーの受けなれてるから大丈夫なはず……)

シュートを要求した金条。新田は頷き投げる。左打席側にえぐりこむシュート。とりこぼす。

(え、全然コドーとはキレが違う……)「す、すいません!」

「気にするな」

優しく微笑む新田。金条は息を吐く。

(俺がしっかりしないと……投手を活かすも殺すも俺次第)

新田の投球。一球目はツーシーム。沈む直球を打ちころがし、一番バッターをゴロに打ち取る。二番バッターをスライダー、カーブ、そして最後のストレートで三振に抑えとる。

(キレのある変化球、おまけに緩急……ストレート柴川よりはええし……)

三番バッターも三振に打ち取る。

(うちの上位打線を走らせすらしないか……)

築根は相変わらず難しい顔をしている。そして9回裏、4番坂東との勝負。

「FOOOOOO! 変化球モンスターNITTA! お前との勝負楽しみにしていたぞおお!」

「坂東……お前なんて今は怖くないぜ」

一球目にいきなり投げたのは、ナックルだった。

「Oh!」

空振りした。ワンストライク。揺れる魔球にバットが掠ることすらない。そして、その投球はここにも収まらない。

(うげあ……取れない……)

金条はとりこぼしてしまう。ランナーがいないからという理由で試してみたはいいものの、全く持って入らない。二球目もナックル。しかしとりこぼしてしまう。

「気にするなよ! 三球目しっかり行くぞ!」

ラスト一球は微妙に外に外したシュート。空振りをさせて坂東を三振に打ち取った。

「さすがだな……くそっ!」

坂東は悔しそうに戻っていく。結局5、6番バッターも打ち取ってゲームセット。3-2でクロ高が勝利した。

(や、やっぱ新田先輩ってすげえ)

今日は登板しなかった古堂。しかし、彼にとっては、登板と同じぐらいに価値のある練習試合となったのだった。

「新田先輩……」

「おっ、どうした鷹戸」

「……セーブ、ありがとうございます」

「まあまあ、抑えるのがリリーフの仕事だから。でもさ……次はお前がこれやる番だからな」

鷹戸に向かって笑いかけた新田。鷹戸は少し誇らしげに笑って答えるのだった。

「はい」


 (今回の練習試合はそれぞれ課題を見つけてくれただろうか。何より一年生……そして新田をしっかり活かせる態勢が作れるかどうかだな)

絹田監督の見つけ出した課題は2つ。ここ一発の長打力。そして、捕手。秋大会まで残り三週間、どこまで改善させられるか、絹田監督は笑いながら築根と握手を交わすのだった。

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