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03,地下室に眠る

愛馬を駆っていざ王城へ、目的は壁磨き。そこへ忍び寄る倉庫番と言う名の不吉。




 髪の結い紐を片手でほどき、額にかかる前髪を掻き上げる。砂の混じった風が横様に吹きつけ、ミラーは思わず目を細めた。

 役目を終えた馬車が去り、ミラーはアリスと共に詰所の前に残された。簡素な門をくぐり、前庭に敷かれた石畳の上を歩く。そして入り口に辿り着き扉を押し開こうとして、ミラーははたと動きを止める。後ろについていたアリスも一緒に止まり、周囲に視線を巡らすミラーを真似た。

 ミラーが顔の前に人差し指を立て、振り返る。二人は向き合ったまま耳を澄ました。

 すると、微かな風の乗って、沸き立ったような声と何やら、金属音。アリスはきょとんとしてその音を聞いていた。が、ミラーにはそれが何の音であるかなど、考えるまでもなくわかる。

「先に戻っていろ」

 アリスの横をすり抜け、すれ違いざまにミラーは言った。返事を待たず足早に前庭を横切り、建物の角を曲がる。

 綺麗に刈られた裏庭の芝が見えてくる。そして、名ばかりの柵を挟んで向こう側に、鍛錬場と騎士たちの住まう宿舎がある。

 思った通りの人だかりが、柵に沿うように出来ていて視界を遮っていた。何者かを囃したてるような声と激しく打ち合う音が大音量でミラーの耳に入ってくる。

 くすんだ金髪を靡かせ、ミラーは大仰な身振りで人垣に歩み寄る。

 僅かな空気の揺れとその気配に振り向いた団員たちが、深青色のマントを身につけたミラーに目を留め、青ざめた顔で道を開ける。

 場を埋め尽くしていた人垣にたちまち一本の道が出来、ミラーの前が開けた。

 ミラーはゆっくりとその道を進む。そして、人の輪の中心、見物の対象になっていた人物を目の当たりにし、案の定の結果にがっくりと肩を落とした。

 湧いていた声援は徐々に静まり、剣と剣のぶつかり合う音だけが残る。昼下がりの静寂を切り裂く剣戟の音に、木々の鳥たちが飛び去ってゆく。

 火花を散らし衝突する二本の剣。切っ先が前髪をかすめようと、突きが衣服の肩口を裂こうと、双方は怯まない。

 脇に立つ縄巻きの丸太が巻き添えを喰らって真二つになる。別の物は上半分が弾け飛び無惨な姿を残す。切れ切れになった縄の舞い散る中、対峙する二人の団員は周囲に目もくれず打ち合った。

 やがて、剣二本分の距離を置き、二人は静止する。

 斜に構えた暗緑色の瞳と鋭く尖る漆黒の瞳とがぶつかり、前者は口元で微笑し、後者は眉間に皺を寄せてそれに返す。

 一房の縄が二人の間に落ちたのを合図に、両者は同時に地を蹴った。


 一際鋭い金属音が轟く。そして周りの団員達が息を呑む音と風の音以外、一切の音が消え、水を打ったような静けさが鍛錬場を支配した。


「ここまでだ」


 数秒続いた沈黙を破ったのは、自分の存在にさえ気付かない二人を見かね、間に割って入ったミラーの怒声だった。

 一方の喉元に切っ先を突きつけ、もう一方の剣を片足に踏みつけ、ミラーは茫洋と笑う。淡い緑色の瞳に射すくめられた二人は、驚きを隠せないといった顔でそれを見返していた。

「随分とまあ、楽しそうだな。なぁ? ルド・ナセル副団長殿」

 わざとらしく言ってミラーが刃を押し進めると、それを突きつけられた相手が一歩下がる。握っていた剣を取り落とし、ルドと呼ばれたその男は両手を上げて掌を見せた。

「いえ……あの……」

「新入団員達への指導はどうした。訓練の時間はまだ終わっていないだろう」

「も、申し訳ありません」

 黒い目を伏せ、言葉もないと頭を下げるルドの様子に、ミラーは満足げにゆっくりと剣を下ろす。それを素早く鞘に納めると、剣を踏みつけられ地に膝をついていたもう一方の男に目を向けた。

「さて。……お前は、よほど私の命令が聞きたくないらしいな。今日は大人しくしていろと、そう言っておいたはずなのに」

 ミラーの体重のかかった剣を両手で支え、クライスは片膝をついたまま地面を見つめていた。見下ろされているのがわかったが、顔を上げることは出来なかった。

「罰を受けるにあたって、何か言いたいことは」

 無機的な声がクライスの肝を冷やす。額に滲んでいた汗が冷や汗に変わり、気持ちが悪い。ギリギリと刃を踏みしめられ、手に掛かる負担が徐々に大きくなる。

「ありません」

「だろうな」

 言葉が返ってくると同時に、力の限りに踏みつけられた剣がクライスの手を弾き、音を立てて落ちた。

 今朝から、ミラーには叱られっぱなしだ。今の彼を見る限り、もう取り付く島もなさそうである。痺れる指をさすりながら、クライスは観念し、顔を上げた。

「申し訳ありませんでした。反省文でも雑用でも、何でもやります」

 困り果てた顔で見上げるクライスを流し目に捉え、ミラーはにやりと笑う。それを目にしたクライスは何かを察知し、表情を凍らせた。

「そこまで言うなら、研究所の件も込みで王城の外壁磨きをやってもらおう」

 心なし――寧ろ、心底――か楽しげなミラーの言葉に、クライスは目の前が暗くなるのを感じた。

「なに、真っ平らな壁を拭くだけだ。たいしたことじゃあない」

 遠巻きに二人のやり取りを見ていた団員たちが、クライスに哀れみの視線を送る。

「さあ、各自訓練を再開しろ」

 興を殺がれたというように、取り巻いていた団員たちはぞろぞろと鍛錬場の奥へ向かう。 腕を組んでルドとクライスを見比べるミラー。細く整った眉を片方だけ上げ、呆れたような声で問う。

「打ち合いに至った経緯は?」

「副長がつっかかって来たんです」

「それはお前が遊んでいるからだ」

 クライスが返答するとそれに間髪容れずルドが反論した。二人は、ミラーを挟んで睨み合う。

 馬が合わないのか何なのか、二人の仲はクライスの入団当初より他者をして犬猿と呼ばしめる程に悪かった。どうやら根本的な性格そのものが噛み合わないらしく、互いの力を認め合ってはいるものの、訓練に対する姿勢や任務における殺生の是非など、事ある毎に衝突していた。

 歴史ある騎士一族の当代、実直で義侠溢れる副団長ルド。

 一方、数少ない一般民の出で、根は真面目だが少々奔放不羈に過ぎる団員のクライス。

 相容れない原因は、やはり好き嫌い以前の問題なのかもしれなかった。

「寄ると触ると喧嘩ばかりして、譲歩という言葉を知らんのか。お前たちは」

 両腕を広げ大袈裟に肩を竦めると、ミラーは首を振りながら踵を返した。地に被さるマントの影が、音もなくミラーの後を追う。

「ルド、お前は反省文だ」

「はい」

「連帯責任で今日は全員晩飯抜き。宿舎の給仕にそう伝えておけ」

 振り向き様にそう言って詰所へと戻っていく後ろ姿を眺めながら、二人は無言で立ち尽くした。

 鼻先の尖ったルドの横顔をちらと見やり、クライスは一呼吸置いて切り出す。

「じゃあ俺は、壁磨きに行ってきます」

 すると、足許に転がった剣を拾いながら、ルドが意外そうな顔つきでクライスに向き直る。

「……本当にやるのか」

「ええ、まあ」

 これ以上怒らせる訳にもいかないので、とクライスは苦笑して見せる。そして自分の剣を取り上げ鞘に収めると、眉を寄せるルドに向かって申し訳程度に頭を下げ、宿舎の方面に歩き出した。

 訓練に励む団員たちの中、次第に小さくなっていくクライスの姿を見送り、ルドは手に持った剣を一振りして鞘に走らせた。金属の重なる音が一つ、背後の建物に響く。

 柄から離した手を強く握りしめ、第一撃を打ち合った瞬間に掌を走った衝撃を思い返す。 クライスが両手で薙いだ剣を、ルドは片手に受けた。弾かれこそしなかったものの、右掌がびりびりと痺れ、あと一歩で押し負けるというところであった。

 ここ数年の新入団員の中では、クライスの伸びは目を見張るものがある。いつだったか、ミラーが自慢げにそう言っていたことがある。ルドにとっては生意気で多少気にくわない点のある後輩だが、ミラーにすれば、優秀で可愛い弟子なのかもしれない。実際、ミラーの口から一番弟子という言葉を聞いたこともある。二言目には、奴の内に天賦の才を感じるのだと、そう言っていたことも覚えている。

 ルドは、それに半信半疑で相槌を打っていたのだが。

 今なら、その言葉にも素直に頷ける。

 世襲的に騎士となる者が多い中、血筋により受け継がれるものを持たないクライスは、努力を以て、入団試験に合格したという。

 ミラー曰く、クライスは入団してからも読んで字のごとく血の滲むような努力をしたのだと。朝から晩まで鍛錬場に入り浸っていることもあったと、今のクライスを見る限りにわかには信じがたい点であるが、長きに渡って彼を見てきたミラーが言うのだ。それは事実であるのだろう。

 今、クライスは区分された中隊の隊長という肩書きを持っている。およそ一年前、クライスは十八の時にその称号を受け取った。ルドが中隊長となった年より二つ若く、それが異例の昇格であったことは、言うまでもない。

 才器とは血によって与えられる物ばかりではない、とルドは考える。

 この王都の、国のあらゆるところに、非凡な才は眠っているのだ。クライスのように揺り起こされる者もあれば、その命が朽ちてさえ気付かれず消えてゆく者もある。

 騎士団への門が、民衆にもっと広く開かれていたら――運命がきっと彼らを導いてくれるであろうに。

 今この瞬間も、日の目を見ることのなかった才が、王や国民を護る誇りを抱けぬまま、人知れず掻き消えてゆく。そうやって失われる力一つが、どれだけ得難いものであることか。その力一つで、どれだけの命を救い護れることか。

 自分一人が憂えても仕方がないとはわかっているが、どうしようもなく考えてしまう。

 護り戦える者が少ないと、傷つくのはいつだって罪のない人々なのだ。

 我々騎士団が護るべきは、王の命だけではない。王と人々の命、そして心を、護らねばならない。たとえ、護る為に振り下ろした剣が他国の罪なき人を斬り、その心を傷つけても。たとえ、何かを護る為に別の何かが犠牲になり、奪われ損なわれる、その大きな矛盾に気付いても。

 護るためには、戦わねばならない。

――理性的な行いは、時として理不尽な犠牲を伴うものだ。

 もう十年近く前になるだろうか。当時ルドの所属していた隊の隊長であったミラーが、国境線上の街を巡る闘争の鎮圧後、亡くなった人々の墓を前に、重々しく口にした言葉だ。普段饒舌なミラーがその日それ以外の言葉を発しなかったことで、記憶に残っていた。

 その言葉を低く呟いたのち、ミラーは足許を埋め尽くす土の盛り上がりの一つ一つに純白の花束を手向けた。そして手許に残った一束を吹きすさぶ風に流し、じっと空を見上げていた。

 天高く舞い上がる白い花びらが、飛び立ってゆく鳥達のように見えた。地上に漂う悲愴感とは裏腹な青空の下で、ルドは拳を胸に押し当てて祈った。

 犠牲となった命達へ。どうか、せめて、安らかに。


 失われてゆく命を前に、自分はあまりにも無力だった。正義として掲げた剣では、人を傷つけることは出来ても癒すことは出来なかった。

 戦いの影には、善悪を問わず失われる命がある。そのことを思うといつも、居たたまれない気持ちになった。


 生ぬるい風が頬を撫で、焦げ茶色の髪をさらう。漆黒のマントの翻る様が、正面を向いたままのルドの目の端に入った。

 多くの人間がいるはずの鍛錬場は、ひっそりと静まっていた。皆、暑さの中で黙々と剣を振るい、いつ訪れるかもわからぬ有事に備え、己を鍛えている。

 ルドはまだ高い位置にある太陽に目を細めながら、彼らの剣が何かを護る為に振るわれる物であり続けることを願った。




*****




 何故、こんな事に――……

 薄暗い地下室。地上に続く階段と倉庫を隔てる扉の前で、クライスは一人立ち尽くしていた。そして、今に至るまでの自分の行動を、冷静に思い返した。


 宿舎に寄った後、馬を駆って王城へやって来た。そんなに急いだつもりはなかったのだが、門番に壁を磨きに来たと伝えるとひどく驚かれた。

 軍部の制帽をかぶりそれと同じ深い緑色の制服を着た警備の男は、その報せはたった今聞いたばかりだと言った。そして、片手の親指で背後を指すので見てみると、格子状の居丈高な門の向こう側、美しい造形の前庭を城に向かって歩いて行く背中の曲がった老人の姿があった。臙脂色の法衣の裾を引きずるように、その老人はゆったりと城の中に消えていった。

 随分と早いんだな、と男は驚いた顔のまま言った。クライスからすれば、先刻決まったばかりなのにもう話がつけてあるという、ミラーの仕事の速さの方がよほど驚きだった。

 男は、まあ、と一つ咳払いをし、中に入ったら地下に下りろと告げた。そこにいる倉庫番に頼めば必要な物はだいたい揃うだろう、と。クライスは厳つい顔の男に礼を言い、細く開けられた城門の隙間から庭園に滑り込んでいった。

 城壁の中、そして城の内部に入るのはこれが二度目だった。とは言っても、入団の式典の為に訪れた前回とは、あまりにも状況が違うが。

 日溜まりの庭は明るく、整然と並べられた木々の緑や、真っ直ぐに城へと続く道の脇に咲いた花々の色彩が眩しかった。まるで一枚の絵画のようなその風景を感覚的に楽しみながら、クライスは浮かれた気分で城に踏み込んだ。そんなはずもないのに、王に招かれた客人にでもなったような心地だった。

 白塗りの大きな扉を開けると、何とも言えない空気が肌に伝わった。夏だというのに妙にひんやりとしていて、クライスは思わず身震いをした。

 城門をくぐった後は意外と開放的だ、という印象は、前に来たときとなんら変わりなかった。広い、城内。澄み切った冷たい空気が喉を通った。

 顔が映るのではないかと思うような床を、なるべく足音を立てないよう進んでいくと、その先に現れた広間にちらほらと人の姿が見えた。そして、彼らはクライスに気が付くと恭しく腰を折った。同じようにして挨拶を返しながら、クライスは彼らが皆法衣を纏っていることに気付いた。

 法政部の役人は、仕事の関係上一日のほとんどを城で過ごす。確かそんなことを昔習った気がするのだが、うろ覚えなのは法政には興味がなかった為だろう。

 そんなこんなをしながら、十五分程だろうか、クライスは地下室へ続く扉や階段を探した。一階部分をうろうろと歩き回り、ようやく見つけたかと思うと、そこは入り口のすぐ側だった。注意力散漫な自分に呆れ、壁に手をつきながら急な階段を下った。

 階段を下りきったところで、目の前に金属の格子戸が現れた。取っ手を見ると、ごちゃごちゃと絡まった細い鎖が石壁に取り付けられた鉄環と繋がっていた。鎖には小ぶりな南京錠が一つ付いていて、どうやらそれが鍵の役割を果たしているらしかった。

 いくつもの木の扉が並んだ倉庫の内部は、そこからでもほぼ全体を見渡すことが出来た。が、警備兵の言っていた倉庫番らしき人影はなく、気配もない。どこからともなくやってきた風の抜ける音が、耳元を通り過ぎるばかりだった。

 試しに、と取っ手を持ち前後に軽く揺すってみたが、じゃらじゃらと鎖のこすれる音がするだけで、やはり鍵が掛かっているようだった。

 どうしようかと考え、クライスは階段に座り込んだ。と、そこで何気なく南京錠を見やった。

 なんと、鍵が刺しっぱなしになっているではないか。

 反射的に飛び上がり、クライスは鍵のつまみ部分を持って右に左に動かしてみた。すると、カチャン、という小さな音と共に鍵が開き、繋がれていた鎖の端が垂れ下がった。

 ひょっとして、クライスがここに来るとわかっていてすぐに開けられるようにしておいてくれたのだろうか。と一瞬思い、まさか、と首を振る。きっと、たまたま持ち場を離れた倉庫番が、間抜けなことに鍵を取り忘れたのだろう。

 いやしかし、運が良かった。と、クライスは心の中で笑った。

 そうして開いた戸の中に入っていったのだが、取っ手にかけた鎖に、鍵の刺さった南京錠をぶら下げたまま放っていったのが、何よりの失敗だった。


 何故、ではない。間抜けな自分が悪いのだ。

 事の次第を回想し終えると、長い溜息を吐き、クライスはがっくりと項垂れた。そして格子を両手に握りその間に頭を押しつけている自分を、まるで囚人のようだなどと思いつつ、南京錠を取っておかなかったことを深く後悔した。

 外側にある取っ手、そこに巻き付けられた鎖。しっかりと掛けられた南京錠は、鍵が抜き去られている。扉はびくともしなかった。

 もう二時間以上、この地下倉庫に幽閉されている。途方に暮れて、困り果てたすえ、クライスは笑いが止まらなくなった。寒々しい倉庫の壁に、乾いた笑い声が反響する。

 愚か者、と自分を罵ると、思い出したくもない先程の失敗が思い出された。


 一つ一つ扉を開けてやっと探し当てた清掃用具の倉庫の中で、がちゃがちゃと鍵を掛けるような音を聞いた。一瞬、動きを止めて音を聞き、次の瞬間、扉の外に出た。が、そこは何の変わりもなく、がらんとしたまま。気のせいか、と思いクライスは暗闇の中で雑巾を探す作業に戻った。


 このとき気付いていれば良かった。階段に向かって大声でも出していたら、閉じこめられずに済んだかもしれない。

 しかし悲しいかな。事の重大さに気付いたのは、引っぱり出した脚立やバケツ、なんとか見つけたぼろ雑巾を手に地上に戻ろうとしたときだった。

 本当の所どうなのかはわからないが、おそらくあのとき、鍵を取り忘れたことに気付いた倉庫番が戻ってきたのだろう。そして、クライスが律儀にも扉を閉めていた為に、中に人はいないものと考え、彼は今一度鍵を掛け直したのだ。可能性としてはアリだ。大いにアリだ。それだけに、閉じこめられる以前にその考えに至らなかった自分が情けなかった。


 クライスは格子戸に背をもたして座ると、静かに目を閉じた。笑い声も寂れ、石壁に囲まれた地下は地上から切り離されたような静けさに占居されていた。

 そのうち、きっとまた倉庫番が来るだろう。

 そんなことを考えているうちにうとうととしてきて、クライスはそのまま、ゆっくりと眠りに就いた。

  



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