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第17章 帰宅と登校13

*


「大丈夫? やっぱり私も……」


「いえ、大丈夫です。慎も一緒に行ってくれると言っていますし」


「そう……なら良いけど…」


 雄介が退院してから数日、記憶を無くした雄介の始めての登校日がやってきた。

 心配する紗子を他所に、落ち着いた様子の雄介。

 朝から紗子は何回も同じことを尋ね、その度に雄介は同じ言葉を繰り返していた。


「大丈夫です。心配なのはわかりますが、紗子さんだって仕事があるでしょう?」


「そう…だけど……」


 紗子は心配だった。

 また雄介がムチャをしないか、またボロボロになって帰ってきたらどうしようか……。

 そんな事ばかりを紗子は考えてしまっていた。


「私もいるし大丈夫よ。それに……あんまりうれしくないけど、ユウ君を好いてる子がクラスにいるし……」


 二人の会話に里奈が混ざってくる。

 複雑そうな表情を浮かべながら話す里奈に、雄介は苦笑いを浮かべる。


「ホラ、早くいかないと遅れるから、もう行こ!」


「じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい…」


 リビングを出て行く、雄介と里奈を不安そうに見送る紗子。

 文化祭での事件もあり、紗子は一層過保護にになりつつあった。


「大丈夫かしら……」


「大丈夫だよ、紗子」


「玄……でも……」


 不安そうな表情の紗子を安心させるために、玄が優しい笑顔を浮かべながら紗子に言う。

 それでもやはり紗子は心配だった。


「あの子は、僕たちの子だ。信じよう……」


「……そうね」


 紗子は玄に言われ少しだけ安心する。

 その頃、雄介と紗子は慎と合流し、学校に向かっていた。


「なんだろう……この感じ、懐かしいような……」


「そりゃあ、いつもお前が通ってた道だからな」


 雄介の隣を歩く慎が、雄介に向かって眠そうに言う。


「はぁ……お母さんにはあぁ言ったけど……本当に大丈夫?」


 里奈が心配そうに、雄介の顔を覗き込む。

 紗子にあぁは言ったが、実際は里奈も心配だった。

 学校に行けば、里奈も学年が違う。心配になるのは当然だ。


「大丈夫ですよ、心配しすぎです」


 雄介は笑顔でそう言い、里奈を安心させようとするが、里奈はそれだけでは安心できなかった。


「やっぱり…副会長と言う権限を利用して、一日一年生の教室に…」


「そんな職権乱用やめて下さい……」


「大丈夫っすよ。俺もいるし、それに堀内や江波、加山だっているんです。悪いようにはならないっすよ」


「逆に心配になって来たわ! 主にユウ君の貞操が!!」


 慎の言葉に、里奈は更に心配を募らせる。

 恋敵が同じクラスと言うだけでも心配なのに、頬とは言え、キスまでされた間柄、心配にならない方がおかしい。


「やっぱり私もユウ君のクラスに……」


 校門前まで来てとんでも無い事を言い始める里奈。

 しかし、そんな里奈の言動を止め、首根っこを掴んで引っ張って行く女生徒が居た。


「やっと来たわね里奈! さっさと生徒会室行くわよ!! どんだけ生徒会休めば気が済むの! あんたは!!」


「あぁ……離してよ佑美ちゃん~、ユウ君の! ユウ君の貞操が~」


「やかましい! さっさと行くわよ!!」


「ゆ~く~ん!」


 涙目で引っ張られて行く里奈を雄介と慎は見送り、そのまま校門前で立ち尽くしていた。


「どうだ、久しぶりの学校は?」


「久しぶりって言っても、覚えてないから始めてきたのと変わんないよ……」


 校門前で校舎を見ながら雄介は慎にそう言う。

 懐かしいような、でも何も覚えていない、そんな感覚に雄介はなっていた。


「じゃあ、行くか。まずは職員室に行くんだっけ?」


「うん、記憶の事もあるから、石崎先生が最初に職員室に顔出せって……」


「まぁ、そうだよな、じゃ行くか……」


 そう言って雄介と慎は校舎の中に入って行く。

 職員室に向かう途中で、慎は雄介に校舎内の説明を簡単にしていく。


「あれが理科室だ」


「へー、結構広いんだね……」


 廊下を話しながら歩く二人。

 そんな二人を見て、他の生徒はコソコソと何かを話し始める。


「……おい、あいつって」


「あぁ、あの事件の……」


「あの血だらけで暴れたっていう? 怖いわぁ……」


 明らかに良い話ではない。陰口を言われている事に、雄介は直ぐに気が付いた。

 雄介は不思議と気にならなかった。


「……気にすんなよ」


 慎が眉間にシワを寄せながら雄介に言う。

 雄介よりも慎の方が気にしている様子だ。

 雄介はそんな慎の様子を見て思わず笑ってしまった。


「なに笑ってんだよ?」


「いや、そうするよ」


 そんなこんなで、二人は職員室につき、ドアを開ける。


「失礼しまーす」


「失礼します」


 入って行った瞬間に、職員室の先生全員の視線が雄介に集まってきた。

 雄介は、ここでもか、そう思いながら中に入り、椅子にもたれ掛かってだらける石崎の元に行く。


「先生、来たぜ」


「ん? おう、ご苦労。久しぶりだな、今村。その後どうだ?」


「まぁ、相変わらず記憶は戻ってなくて……あ、でも傷は完治しました」


「ん、そうか」


 石崎と話す傍ら、近くで背の高い眼鏡の先生と白衣の先生が何やらコソコソ話をしているのが聞こえて来た。


「……石崎先生も物好きだ……あんな問題児を」


「………フフ、また問題を起こさなければ良いですがね。記憶が無いというだけでも厄介なのに……」


 そんな先生たちの話が聞こえてきて、雄介は事件の大きさを実感した。

 話でだけでしか聞いては居ないが、随分と大きな事件としてテレビでも放送されたらしい。


「英語の湯島と科学の木島か………」


 慎にも二人の話が聞こえたようで、二人の名前を呼びながら二人を睨む。

 慎が何かしないか心配にすらなっているなか、動いたのは慎ではなく石崎だった。


「御二人とも、暇ならさっさとポッドのお水を汲んできてはくれませんか? 今日の当番は御二人ですよ。赤坂先生がお茶を飲みたいと言ってましたから……」


「い、今行こうとしていたんですよ」


「そうですかなら良かったです。あと、私のクラスの生徒に文句があるなら、直接言ってください。不愉快だ」


「な、なんだと!」


「教育者としてどうかと思いますが? 陰口と言うのは……」


「ならハッキリ言わせていただきます!」


 背の高い眼鏡の先生は、ズンズンと石崎の元にやってくる。

 白衣の先生はその後ろに続き、おどおどとしている。

 そんな二人が来ても、石崎は机にもたれリラックスするのを止めない。

 周りの先生すべての視線が、石崎の机に向けられる。


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