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第15章 文化祭の開始11

「お前は狂ってる」


「アハハ! そんなの分かり切ってる事だろ? まあ、親の仇を打つためだけに、化け物になる奴には言われたくないね~」


「あぁ、そうだな……俺もお前と一緒だよ。もう狂ってる……すべてを投げ出しても……俺はお前を殺す以外に考えが浮かばない……」


 雄介は滝沢を睨みながら、変わり果てた自分の姿を確認し、寂しそうに言う。

 今まで得て来たもののすべて、友人、家族、知人、雄介は滝沢を殺した後で、このすべての関係を無くす覚悟で、滝沢の目の前に立っている。


「あはは!! 結局私が壊さなくても、あんたはもうこいつらとの関係をすべて捨てる気でいたって? あははははは!! 本当に最高だよ! ならなんのために、雄介! お前はこいつらと関わった!」


 雄介はクラスメイト達や友人たちの顔を見る。

 皆、雄介と滝沢を恐れ、恐怖で顔をゆがませている。

 そんなクラスメイトを見た雄介は、胸が苦しくなるのを感じた。


「さぁな、ただ生活してったら自然と集まってきた。ただそれだけだ……なのに……」


 雄介は、瞳に涙を浮かべる。

 自分の変色した右腕で拳を作り、前に突き出して、震えた声で続きを話す。


「本当は……お前を殺して、みんなの前から居なくなるだけのはずだった! なのに………なんでこんなに……辛いんだ……」


 雄介は涙を流して滝沢にそう告げる。

 しっかりと滝沢を睨んでいるはずなのに、その表情から恐怖は感じられない、その場に居た全員が雄介から悲しみの感情を感じていた。


「アハハは! なんだい? あたしを殺せなくなったかい? それとも、自分が殺す姿をこいつらに見て欲しくないのかい? 昔っから雄介は泣き虫だねぇ~」


「黙れぇぇ!! お前が……知った風に俺を語るな!」


「アハハ、せっかくだから教えてあげようよ。雄介の体やそこに寝てる、使えないクズの体の事をさぁ~」


「なんだと!」


「あんたらだって気になってるんだろ? 雄介の体の変化や、強さについて……」


 その場に人質として連れてこられた全員が同じ意見だった。

 知りたい、一体雄介は何者で、あの薬は何なのか、皆知りたかった。


「教えてあげるよ~、あたしらの研究は超人を人工的に造る事だった……」



 超人計画、それがすべての始まりだった。

 戦争、紛争、争いに必ず重要になるもの、それは人間だ。

 兵器を操縦するのも人、武器を使うのも人。そこで組織は考えた、すべての基礎となる人間自身を超人にし、あらゆる戦闘行為に対応させ、商品として売り出すという考えだった。

 組織の幹部は研究機関を設立させ、クローン人間による人体実験を開始させた。


「はぁ……はぁ……」


「やはり失敗か……体に適応しない」


「このガキは、どこから連れて来たんだ? 足が付いたら、やばいぞ?」


「あぁ、滝沢さんが檜山元研究員の家を襲撃しただろ? その時に生かして連れて来た、檜山研究院の子供だと」


「あぁ、そういう事か……男の方はともかく、女の方は馴染み初めている……やはり男と女では差がでるようだ……」


「ホルモンの関係か? それとも個体差か?」


 森の中の廃病院の地下、そこが研究所だった。

 周囲がすべて真っ白っで、液体の入った透明な容器が壁際に並び、研究員は皆、白衣で研究を行っている。

 幼い子供が連れて来られて数日。早くも研究の成果が出始めており、研究員は全員が早く結果を出そうと必死だった。


「おい、次はこれだ。改良を加えはしたが、どうなるか見当がつかん。安全を考えて、実験室には数人の研究員で入り、投与を開始しろ」


 大きな全面ガラス張りの部屋に、幼い子供が一人、うつろな目で天井を見上げている。

 研究員数名は、その部屋に入り幼い男の子に、薬を投与し始める。


「慣れるもんなんだな、最初は注射器を見ただけで泣いていたのに」


「まぁ、投与がしやすくなって良いだろ?」


 薬を投与し終えると、研究員は全員部屋から出て、男の子の状態を確認する。

 すると、数秒で変化が現れた。

 まずは瞳が赤く染まり、体の皮膚がうっすら黒くなり始めている。


「おぉ! 成功だ!!」


「やはり、ホルモンバランスだったか! よし始めよう」


 続いて始まったのは、戦闘テスト、金で雇った傭兵たちと子供を戦わせ、身体能力のテストを図る。


「アレックス君、あまり舐めてかかると死ぬぞ」


「はん! 俺様がガキに負けるかよ! 早く扉を開けろ!」


 子供の居る部屋のドアが再び開く、ずかずかとアレックスは中に入り、笑みを浮かべている。

 元アメリカ陸軍所属のアレックスは、力に自信があり、子供相手に負けるなんていう想像は、一ミリもしていなかった。


「おい! ジャパンのクソガキ!」


「………」


 子供は何も答えない、ただたちあがって、アレックスの元にゆっくりやってきた。


「ハハハ! 何を言っても言語が違うんだ! 何も答えなくて当たり前か! じゃあ、さっさと要件済ませて、俺は金をもらう事にしようかね~」


 アレックスは子供の方を向き、構のポーズをとる。

 しかし、子供は何もしない、ただアレックスを見上げて立っているだけだ。


「いくぜ! 死ね! クソガキィ!!」


 アレックスが子供めがけて、片井拳を振るう。しかし、次の瞬間、アレックスは口から血を吐き体が動かなくなっていた。


「……な……なに…!」


 恐る恐るアレックスは、自分の腹部を見る。

 子供の拳が、、アレックスの腹部にめり込んでいる。

 あばらが折れたような気がする、それ以上に内臓を圧迫され、アレックスは息が出来ず、意識を失い、倒れ込む。


「やった! 成功だ!!」


「試作品の完成だ! タイプPはこのまま細かい調整をしよう!」


 研究員は、子供の勝利に喜ぶ。

 普通ならあり得ない、しかし、子供が大の大人をしかも一撃で倒すことが出来た。その結果が、彼らには研究の成功を意味し、喜ぶべきものだった。


「……ごめん……なさい……」


 子供は、自分の手を見ながら涙を流してそうつぶやく。


「……お父さん、お母さん……」


 変わり果てた自分の姿を見ながら、子供は両親の事を思う。

 ここに来て数日、子供は毎日のように実験に利用され、心が壊れる寸前だった。


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