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第20章 ただいま 7

 翌朝、雄介は学校に行くのが少し憂鬱だった。

 なんだかんだ言って、記憶喪失だった状態で学校に行ったのは一回だけ、二日後に記憶戻りました、なんて言ってあっさり復活するのはなんだか恥ずかしかった。


「気が重いな……」


 雄介は制服に着替えながら、教室の皆や優子、慎になんて言ったら良いかを考えていた。


「まぁ……やっぱ最初は謝らないとだよな……」


 迷惑をかけたことをしっかり謝ろう。

 雄介が今何よりも先にやるべきことはそれだった。


「あいつら……なんていうかな……」


 記憶が戻った自分にみんなは何というだろうか? そんなことを雄介は考えながら、リビングに降りていく。

 結局昨日は織姫達と晩飯を一緒に食べ、酔っぱらって眠ってしまった徹を雄介と玄が車まで運んで、御開きとなった。


「おはようございます」


「おはよう、もうすぐで朝ごはん出来るわよ」


「おはよ、昨日はよく眠れたかい?」


 いつもの朝、いつもの日常。

 雄介はそんな日常が、どうしようもなく嬉しかった。

 しかし、そんな日常に非日常がやって来た。


「ゆ~く~ん」


「ひっ! ど、どうしたんですか? 里奈さん……」


「昨日、織姫ちゃんが来たんだってね……」


「あぁ、里奈さんは遅くに帰ってきましたもんね……」


 昨日、里奈は生徒会の仕事が山のように残っていたらしく、それらを片付けていて遅くに帰って来た。

 その頃には、織姫たちはもう既に帰った後であり、ややこしい事にならずに済んでよかったと、雄介は思っていたのだが……。


「もぉ~ユウ君? 話をそらさないの~。ユウ君は一体いつから、女の子を部屋に連れ込んじゃう悪い子になったのかな~?」


「里奈さん! フォークをこっちに向けないでください! っていうか、誰から聞いたんですか?!」


「それは今朝、ユウ君の寝顔を見に部屋に侵入したら、ユウ君の部屋から女の子の匂いがしたからだよ!!」


「色々突っ込みたいですけど、とりあえず勝手に部屋に入らないでください!!」


 雄介の手を掴んで拘束し、朝ごはん用のフォークを突き付ける里奈。

 顔は笑顔なのに、後ろから今まで一番どす黒いオーラを放ちながら、里奈は雄介を問い詰めていく。

 そんな様子を見かねた紗子は、持っていたお玉で里奈の頭を叩く。


「痛!!」


「全く、朝から何やってるの? 危ないでしょ?」


「危ないのはユウ君の貞操よ! お母さんこのままじゃいずれユウ君、童貞じゃなくなっちゃう!!」


「それは何? 自分が襲うって言う予告なの?」


「そうとも言えるわ!」


 横で聞いていた雄介は背筋に寒気を感じた。

 聞いていた紗子も頭を押さえながら玄に言う。


「玄、どうしましょう。私たちの娘、とんでもないブラコンの変態みたい……」


「ええっと……里奈、兄弟仲が良いのは良いけど、ちゃんと一線引くのは大事だよ?」


「大丈夫よ! 血はつながってないから、結婚出来るわ!」


「「そういう意味じゃない」」


 里奈のとんでも発言に、紗子と玄は声をそろえて言う。

 聞いていた雄介も身の危険を感じ、部屋のドアに鍵でもつけようかと思い始めていた。


「まぁ、私たちが家にいれば、里奈の行動を制限できるから、大丈夫でしょ?」


「そういえばお父さんとお母さん、いついなくなるの? 早く雄介とラブラブだった頃の二人暮らしに戻りたいんだけど?」


「この子は……」


 ハッキリ言う里奈に、紗子と玄はガックリと肩を落とす。


「一回、家を離れるけど、一週間くらいで戻ってきて、それからは家から通勤するわ」


「僕もそんな感じだね、今の仕事を引き継げる状態にしてこないといけないし……」


「なるほど、一週間……ユウ君、来週はお姉ちゃんと二人で寝ましょ」


「お断りします」


 そんな話をしている間に、もう出かけなくてはいけない時間になってしまった。

 雄介は急いで朝ごはんを食べ、スクールバックを持ち、玄関に向かう。


「大丈夫? あんまり無理は駄目よ?」


「はい、大丈夫です」


「私もいるんだから大丈夫よ。ユウ君を悪く言う人が居たら、半殺しにするから」


「里奈さん、それは逆効果なのでやめてください」


 頼もしいんだか、頼もしくないんだかわからない姉を見ながら雄介は肩を落とす。

 しかし、味方がいることはうれしかった。

 昨日の感じだと、学校全体にあの事件の噂は流れている様子だ。

 クラスの連中は、大体の理由なんかを知っているから、雄介の事をあまり悪く言う奴はいないが、他のクラスや先生はどうだろうか?


「あ、そろそろ行かないと、じゃあ行ってきます」


「行ってきまーす」


「はい、行ってらっしゃい」


 雄介と里奈は二人そろって家を出た。

 通学中は、隙を見ては里奈が雄介に抱きつこうとしてくるので、雄介は里奈にばかり注意を向けていた。

 そして、あっという間に校門前についた。

 今の今まで、クラスの連中や知り合いには会わずにここまでやって来たため、今からクラスに向かうとなると、この前とは違う緊張が雄介を襲う。

 加えて、学校行った瞬間、雄介に向けられる視線が多少あった。

 その視線は決して良いものでは無く、どちらかというと、嫌な視線だった。

 そんな二つの不安様子を抱え、雄介がため息をついていると、里奈が優しく手を握って来た。


「大丈夫、雄介の周りは、きっと優しい子ばっかりだから」


「里奈さん……」


 なんだかんだと無茶苦茶を言う里奈だが、いざという時や自分が不安な時。

 いつも励ましてくれるのは里奈だった。

 そんな里奈に感謝しつつ、雄介は顔を上げて校内に入る決意をする。


「里奈さん、いつもありがとうございます。もう、大丈夫です」


「じゃ、今度デートしようね」


「考えておきます。じゃあ、自分は行きます」


「うん……」


 里奈は握っていた雄介の手を離し、雄介を見送った。

 本当は里奈自身が一番心配だった。

 学校内は、あの事件と雄介の話でもちきりなのを里奈も知っている。

 だからこそ、姉として雄介の事が心配だった。


「雄介……」


 正直冗談で言っていた半殺しの話だが、本当に頭に来たら、自分はやってしまうのではないだろうかと、里奈は思っていた。

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