プロローグ
行き詰った時の適当な作品なので深く考えていません。
く、暗い……。
自身が目を開けているのか、それとも閉じているのか全く分からない。
いや、全身に感覚がない。
立っているのか、触れているのか、手足があるのか、音がするのか、明るいのか、誰かいるのかさえ分からない。
自分が生きているのかもわからず、俺は……寝ることにした。
そう、あれは俺が死んだ日だ。
俺はいつものように高校へ登校しようとしていた。
いつもの時間・手順で起き、食べ、着替え、自転車を漕ぎ、学校へ行く。
その後も同じように授業を受け、昼食を取り、部活をして帰宅した。
勉強はできる方だがしなければ落ちる。
運動もできるがする気が全くない。
部活は武道をしているが日常で使えるとは限らず、強くなったと実感することもない。
ただ、周りより達観し、捉えるのが慣れ、対処が出来るようになっただけだ。
そして、帰り道。
俺は何を考えていたのか、いつもよりボーっとしてしまいいつもの道からそれ、一本道を行きすぎてしまったのだ。
だが、家まではどのみちからも繋がっているため引き返らずにそのまま漕いで帰ろうとした。
だが、俺の運命はそこで終わっていた。
そこで引き返していれば俺は殺人鬼に遭うこともなく、慌てて引き返したところで車に轢かれることもなく、最後に殺人鬼の手によって無残に殺されることもなかった……。
まあ、最後に一矢報いナイフを奪って殺してったがな!
殺人鬼の名は京堂啓介。
巷で有名となった殺人鬼で、自前のナイフを使い、どのような技術で行っているのか知らないが綺麗に解体された死体が置かれ、翌朝発見されるという事件の犯人だ。
これまでに五人がそのナイフの餌食となり、俺はついに六人目の餌食となり、同時にその事件に終止符を打った人物だ。
どうして殺したのか知っているかというと武道をしていたからなのか体力はそこそこあり、元から反射神経が良く逃げた時に刺された位置が腕だったのだ。
その後は混乱し頭の中も真っ白になっていたが、視界に映った瞬間に自転車からぶつかるように地面に片足を付き、後ろ側を迫り来る車にぶつけ、自分も体に力を入れず足を捨てる覚悟で上半身を護った。
勿論全身にありえない衝撃が来たが咄嗟に頭を両腕で庇ったこともあり、上半身は無事で両腕は骨が折れ、両足は死んでしまった。
そこで思ったのは親に迷惑をかけるだった。
親は迷惑だと思っていないかもしれないが、俺は迷惑をかけていたと思う。
そうとしか思えないのだ。
壁に激突したが両腕で庇い、そのおかげで両腕も満足に動かなくなったが命だけは繋いだ。
このままで死ぬのは間違いないが、下半身の痛みがない代わりに頭はあり得ないほど痛かった。
痛いということは良きれるということだと理解し、スマホを痛む手で取り出すと緊急通報のボタンを押し血濡れの手では持ち切れず地面に落としたが、つながったのを音で確認すると相手の言葉を聞かずに震える声で場所と大まかな内容を出来る限りの声で喋った。
だが、そこで意識を失わなかったのが幸か不幸かスマホから安心して目を離し上を見ると、そこには殺人鬼が薄ら笑いを浮かべてナイフを突き立てようとしていたのだ。
虫の息で、目の前で撥ねられた俺にそこまでするのか! と普段怒らない俺の穏やかな心に憤怒の炎が燃え上がり、目を見開きまだかすかに生きていた左手でナイフを掌に突き刺して止めた。
何かの漫画で読んだ気がする。
それで咄嗟にできたのだろう。
その後は自分が叫んでいるのか分からないが、兎に角気合を込めて死に掛けの右手を骨が砕ける音を聞きながら二本以外の指を握り締め、左手を俺の方へ引きながら殺人鬼の驚き見開いた眼球にその二本を揃えた指を突き入れた。
生暖かい感触と溢れ出る暖かく熱い血液、硬い感触が指から伝わり一瞬気持ち悪いと感じたが、俺はそんなことを隅にポイ捨てすると指を引き抜き、片目を抑え立ち上がろうとした殺人鬼の腕を引き戻しこちらに倒れてくる顔面を思いっきり殴りつけた。
その瞬間俺の右手は死に、殺人鬼の鼻は折れ、前歯が全て折れていた。
俺に初めてそこまで力があることを知った。
だからといって何もないが。
最後に緩んだ手からナイフを取り上げ、安全だった口でナイフを引き抜くとまだ動く左手でナイフを持ち上げ、左手を使って前のめりに倒れるとその瞬間に左手を振り上げ殺人鬼の喉元へ突き刺した。
奴は気絶でもしてたのか大絶叫を上げのた打ち回っていたが、ナイフを抜き力もないのかそのままピクピクと動き最後には動かなくなってしまった。
それから痛みでよくわからなかったが隣のスマホから音が聞こえなくなっており、このやり取りを聞いた受付の警察が察知したのか数分後に警察が来た。
俺にとっては長い長い時間だったが。
俺はすぐに声をかけられ、震える声でしなくていいと言われるのに説明をした。
もう自分が駄目なのはわかっていたからだ。
なら、最後にこの一連の騒動が早く済むようにと思ったのだ。
警察の人は悲痛な顔で僕の話を聞き始め、どうにか全部言い終えたところで体から糸が切れた人形のように力が抜け、そこで死んだのだとわかった。
恐らく家には迷惑をかけるだろうが、殺人鬼を倒したとしてお金がもらえるのではないだろうか。
確か奴は500万の賞金首でもあったはずだ。
最後に聞いたのは「安心しろ。お前のおかげで殺人鬼は死んだ」だった。
それだけでも俺は救われた気持ちになった。
何もせず同じ日々を過ごしていた俺の最期、はこの近辺に住む者達の不安を払拭したのだからな。
皆万々歳だろう。
俺も万々歳だった。
常に死ぬのなら誰かのために死にたいと思っていたからだ。
俺が死んでも悲しむのは両親しかいない。
別にいじめられているわけではない。
ただ、友達がいても上辺だけの関係だった。
そんな人物が悲しむはずがない。
一週間も経てば俺のことは忘れているはずだ。
ま、そういうことで俺は感謝されながら死んだのだ。
あの反撃が出来たのは日頃の武道の成果と自分の命の価値が低いことだろう。
いつから低くなったのかはわからないが、そう考えるようになって同じ毎日でも楽しく思えるのだ。
最悪の状況を常に考え、行動していくことで誰かを護れる自分を想像してきた。
そのおかげで今回皆を護れたのだからいいだろう。
まあ、殺されるだけというのも俺はいやだったからな。
意外に負けるのは悔しいのだ。
順位などは構わないが、勝負に置いては悔しいのだ。
頬に冷たい物が落ちる感触があり、それを拭う。
そして、目を開ける。
その表現は寝る前の自分が言ったことに矛盾し、若干おかしい気もするが俺は目を開けたのだ。
すると先ほどとは違い、景色に色があり、匂いがあり、手や足や体に感覚がある。
俺の上には何やら穴倉の様な場所にいるが、今の俺にはそれが心地よく、夢の中で思い出していた記憶が……なぜ俺は生きている!?
確かにあの時死んだはずだ!
それに痛みがない。
麻痺している可能性もあるが、ならば感触があるのはおかしい。
恐る恐る手を動かし、布の中から顔の前まで持ち上げるとそこには浅黒く紫色の肌をしたか細い腕があったのだった。
俺は悲鳴を頭の中で上げ、目を軽く見開くというリアクションを取るとその後は冷静にその腕の観察を始めた。
これが俺の性格でやり方だ。
何事もポーカーフェイスというか驚いた時等は小心者だとばれないように表情を動かさない。
そして、その後はすぐに冷静となり状況分析を始めるのだ。
手を握ってみると意外に爪が長く食い込んでしまった。
だが、これだけでわかったことがいくつかある。
この身体は元々の俺のものではないこと、力が強いこと、以外に頑丈なのだ。
食い込み痛いと感じたがそれは想像以上に力が強かったことからの幻痛で、本当はほとんど力が加わっていなかった。
そして、痕はすぐになくなった。
肌は壁に埋め込まれた石の光りに当たり、怪我一つない物だとわかった。
だが、腕が短い。
このことから考えられるのは転生、あるいは前世が蘇ったのだ。
恐らくこの身体の記憶がないことから転生に近い物が起きたのだろう。
まあ、別にかまわない。
まだ生きろと言うのなら生きてやるが、この身体から見るにここは地球じゃあねえな。
まさか異世界というやつか……。
なら、まずはこの状況の確認と世界を知り、生き方を学ばなければならない。
俺は小説のような主人公にはなりたくない。
恐らくこの身体には力はそこそこあっても、体は小さく、健康でもなく、何より今の俺は赤ん坊と同じだ。
やり方を教えてもらえれば生きられるだろうが、そこまでこじつけられなければ意味がない。
だから、世界と生き方を学ぶ。
そしてこの身体から察するに敵がいるはずだ。
定番の魔物や人間だな。
魔族ではなく人間を入れたのはこの身体が魔族だと思うからだ。
こんな色の人間がいてたまるかっての。
まあ、魔族だけの世界だとしてもこの穴倉? 空で生きなければいけないな。
……魔族だよね? ま、魔物じゃないよね?
どうやら、ここは洞窟の様な場所で、俺が寝ているのは土で出来た穴倉の中のようだ。目の端には光石とよくわからないカラフルな植物達。そして、横を向くとそこには湧き水のようなものを発見した。
まず俺は重い体を無理やり起こし、這いずるように湧き水まで移動した。
そこまで行き安堵するとまずは自分の体を確かめる。
「……普通だ。いや、美形だが」
まあ、五歳児ぐらいの子供のようなのであれだが、思っていたよりも魔族ではなく、角もなければ牙もない、普通に肌の違う人間だ。
まずは悲観することはない、と水を救って飲むと体に染み込むという表現が正しく、飲んだ瞬間に体の中で活力になっていくのが分かった。
気が済むまで飲み、体が動くようになってからこれからどうするか考えることにした。
やはり、生きる為には戦い方も学ばなければならない。
そのためにはこの洞窟から脱出しよう。
その後はまた考えればいいだろう。
あと、極力人との接触を避け、同じような人に話し掛けよう。
俺がそこで生きる決意を決めると足元の方から這いずっているような音が聞こえてきた。
俺の他にもいたのか! と喜び後ろを向くとそこにはゲームで言う【スライム】的存在がいた。
『キュアアア』
「うおっ!?」
スライムのどこに声帯があるのか知らないが、何とも言えない甲高い声が洞窟内に響き襲い掛かって来た。
俺は慌ててその場から立ち上がると【スライム】の広範囲飛びつきから逃げ出した。
【スライム】はべちゃりと音を立てて地面へ叩き潰されたトマトのように広がった。
自滅か……?
と、思ったがフラグだったようで逆再生されるかのように元のまん丸くちょっと可愛い姿に戻った。
どうやら相手さんはまだやる気のようだ。
俺は習っていた武道の構えを取るとゆっくりと前進してくる【スライム】の横へ走り、ぷよぷよボディーに突きを放った。
だが、【スライム】の身体はゼリーのような感触で、打撃攻撃は吸収してしまうようだ。
そのまま飲み込まれそうになった腕を引き戻し、何か弱点はないか観察する。
俺の反射神経がいいのか、相手の動きが鈍いのか分からないが避けるのは苦ではない。
だが、このままでは何も変わらない。
俺は壁まで走るとよく見えない【スライム】の身体に壁から採った光石を投げつけた。
するとスライムはそれを飲み込み、体の中が照らされた。
体の色は半透明の青色で、大きさは五十センチほど、溶けたゼリーかアイスクリームのようだ。
そして、体の中に光石とは別に同じ大きさの石ころが入っていた。
「そういえばよく【スライム】って核があるっていうよな。じゃあ、あれを取れば倒せるんじゃね?」
俺はそうと決まれば手短な石ころをいくつも拾い上げ、左手で抱きかかえながら誘導していく。
どうやら【スライム】は音に反応するようなのだ。
俺は湧き水の方へ近づき立ち止まって音を消すと丁度一メートル先ぐらいの地面に石を投げつけた。
ピクリ、ぷるん。
【スライム】は身体を震わせると石を投げた場所へ近づいてきた。
俺はその調子だとほくそ笑み、もう一つ石を投げた。
すると【スライム】の移動速度が上がり、手の届く位置に【スライム】がやって来た。
俺はゆっくりと背後らしき場所へ移動すると光石で照らされる体の中にある、もう一つの石に向かって手を付き込んだ。
ズボッと半液体状のものに突っ込む音が盛大に聞こえ、肩まで突っ込むと確かに掌の中にその石が握り込まれた。
俺は何か攻撃される前に手を引き抜き石を地面へ叩き付けて壊した。
『キュアアア~……』
【スライム】は身体をびくりと震わせると気の抜けるような声を上げてその場で消えてなくなった。
そしてその場に新たに残ったのは袋に入ったゼリーのようなものと紫色の石だった。
俺は思うにこの紫色の石は魔石、魔物の核ではないか、この袋のゼリーは倒した報酬的なものではないのか、と。
俺は何とも言えない気持ちでその二つを持ち上げるとそこで初めて自分の格好を見た。
俺の格好はみすぼらしい服とズボンだった。
防御力は1しかなさそうだ。
とりあえず、【スライム】に突っ込んだ腕がひりひりするので先ほどの水をかけ洗うと嘘のようにそのヒリヒリ感がなくなり、この水も普通のものではないことが分かった。
「回復水……いや、命水にしよう」
とりあえずもう一度水を飲んで眠くなったので穴倉に戻って就寝した。