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異空転記~異なる空の下へ~  作者: 鵬 龍稀
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プロローグ~魂の切望~

言い訳を…初投稿です…。

のりと勢いで始めました。落下地点は不明です。

行き当たりばったりの為、矛盾、問題点、色々出てくると思いますが、ひろーーーーーーーい心でご覧下さい。

 普段と変わらない日常になるはずだった。助手席には出勤の為に作ってもらったお弁当。いつもの道をいつも通りに走る。会社までの、快適とは言えないまでも運転好きにとっては短いドライブ。

 そんな平穏を一瞬にして壊されるなど、考えても居なかった。

 目前に迫る、驚いた表情の運転手。片手でハンドルと煙草を持ち、もう片手には携帯電話。最も、携帯電話と言いつつ、形状からスマホか、リンゴのアレか。

 スマホやリンゴのアレは、運転中は操作し難いらしい。……運転中に携帯を操る事が交通法で規制されている事は知っていますかー? とにかく。前方不注意も甚だしい。

(もうねー、反対車線よ? ココ)

 スピーカーからは最近嵌ってエンドレスリピートの曲。現実逃避が何の救いにもならないと解っていても、愚痴は出てきてしまう。

 全ての音が消え、視界だけに全神経が集中する。スローモーションの様に飛んで来る対向車との正面衝突まで後数瞬。一応反射的にブレーキやサイドブレーキ等、減速は試みたが、一方の努力で事故が防げるなら何の問題も無い。

 相手方が減速もせず、猛スピードで突っ込んで来れば努力は泡と消えるだけだ。

 無意識に腕が動いたのか、慌ててハンドルを切ろうとしている様子が見て取れるが、衝突する方、される方、お互いに残された距離は余りにも短い。

 残された道はぶつかるのみ。

(あーあ……)

 呟いたのか考えただけなのか、その思考から一瞬の後に強い衝撃と鈍い痛み。そして体内から嫌な音が聞こえた。追突の衝撃により爆発的に開いたエアバッグの反動で、手首に軽い擦過傷が出来る。

(おー、フロントガラスが蜘蛛の巣。うわー…)

 ロックが掛かったシートベルトのおかげで、ヒビが走るフロントガラスとご挨拶は避けた。エンジンも停止し、お気に入りの曲も流れていない。

(廃車~? もー……)

 気に入った車種が発売され、何回かのカスタマイズの後、漸く買い換えてから半年経っていない。新車と言っても差支えが無いくらい大切に乗られているのが解る程、キレイに手入れされたボディ。その車体前方が無残な姿に形を変える。

(保険…、あー、いけるな。1か2? 3とか来たら抗議する…)

 ぶつかった衝撃の所為なのか、体の自由が全く利かない中、思考だけが走り始めた。

 そして浮かんで来る思い出の数々。

(え。走馬灯…? ちょっと、やばく………ぇ…)

 ちょっとした事故。程度では済まない。薄れていく意識と、黒く塗りつぶされる視界。そして、競り上がって来る温かい何か。

 それが何なのかと言う事を考える前に、彼女の意識は闇へと沈んだ。


▽   ◇   △   ◇   △


 鈍い痛みに意識が揺り起こされる。

(何、暗い……、硬い………。夜…?)

 意識を失う前考えたのは、白に統一された室内か、最悪花畑。

(予想外に三途の川ー?)

 河川敷に放り出されているのであれば考えられない事は無い。むしろ、周囲の薄暗さから、その可能性の方が高いと思われた。

(とりあえず、起きますか)

 横たわったままで現状把握も難しい。死んだのであれば死んだとして、これからどうすればいいのか考えなければならない。

 起き上がろうと力を込めた刹那、激痛が全身を駆け抜けた。

「……はっ………くぅ……」

(死んでも痛いって、聞いたこと無いですけど!?)

 趣味で読んでいた良くあるテンプレ的な小説では、白い部屋に神様か、お花畑でキャッキャウフフ。どちらも生前の痛みとは縁が切れていたはずだ。

 言葉にならない悲鳴を上げ全身から力を抜く。起き上がる事も出来ず、力を込めた所為か体中で痛みが渦巻く。

 痛みには強い精神が災いしたのか、再び意識を失う事が出来ない。

(も……ホント、ココ、ドコ)

 声を出そうにも、喉や胸に走る痛みで言葉を紡ぐ事すらままならず、唯一自由に動かせる目を使い周囲の様子を知ろうとするが、情報を得るには暗すぎて有力な手掛かりは得られなかった。

 その上、視線を動かそうとすれば反射的に首が動こうとする為、その痛みにも呻きをあげる羽目になったのは体中の激痛に比べれば些細な事である。

「気が付いたか。………原初の世界より来たりし者よ」

 フワリと空気が動くと同時に、呼気が楽になり痛みが若干ながら弱まる。

 次いで響いてきた声音に視線を向けた。

「だ……れ…」

 低く落ち着いた、それでいてどこか憂いを帯びた声。何も無い状況であれば確実に聞き入る様な、そんな声。

「我はロスティグクス。グラディニア帝国皇帝の位に在る」

 耳から入って来た単語を頭の中で何周か周回させる。

(………はい。知らない国名来たよー)

 幾ら世界地理に疎くとも、さすがに『地球上の国名』は大体解る。そもそも、昔ならばともかくとして、現代社会に『帝国』を名乗る国は無い。

「私……は…っ……」

「無理に話さなくていい。緩和はしたが、痛みは強いはずだ」

 声の位置が近付いたと思えば、直ぐ傍に膝を付いているロスティグクスの姿。

 残された痛みがかろうじて意識を繋ぎ止めていた。

「これ以上緩和すれば、色々と支障が出る故、すまぬ」

「い……え…」

 途切れ途切れでも、話せるようになったというだけで大分マシなのだ。今の段階でこれ以上を望むつもりも無い。

 ロスティグクスとの会話が終わるまで、意識は持つかと完結させ、ゆっくりと視線を合わせた。

「突然の事で驚いている事だろうと思う。だが、我とて残された時間が無き故、手短に話す。………原初の世界の者よ、勝手な願いである事は重々承知しているが、どうか我が願いを聞き届けて貰いたい」

 瞳に宿る光は真剣そのもの。社会人になり、世間の荒波に揉まれて人を見る目も身につけたと思う。だからこそ判断せざるを得なかった。彼の、ロスティグクスの願いが本気であり、そして切望しているのだと。

 瞼を閉じ、静かに呼吸を繰り返す。何度か繰り返した後、覚悟を決めてロスティグクスを見上げた。

「聞くだけは、聞き……ましょ…ぅ?」

 内容も知らない内から安請け合いは出来ない。そもそも、死に掛けの身である。何を望まれ、何が出来るのか、全く解らなかった。

「すまぬ…。我が后の子として、その御霊を譲り受けたい」

 何を言われたのか、一瞬脳が理解する事を拒絶した。だが、聞かなければ前に進まない。

「ゆず………ったい…て、……………死に、掛けて……ますが?」

 消えようとしている者に対して望む願いではない気がする。もしくは、消えようとしている者だからこそ望むのだろうか。

「それは肉体の死だ。原初の世界の者よ。

 汝の御霊は今尚、澄み渡り煌いている」

 肉体の死。告げられた言葉に本能が恐怖に震える。解っていた。死ぬだろうと言う事は。だが、改めて突きつけられると耐え難いものがあった。

「御霊……、私………は、消える……?」

 死んでしまえば関係ない。肉体が滅びても御霊…、魂が残ると言うのなら輪廻転生を繰り返すのだろうが、八百万の神を崇めると言うだけあり、宗教概念は限りなく薄い。

 神社仏閣に加えて教会、寺院。様々なモノをマルッと飲み込み、世界は在った。

 引っ掛かるのは、ココが識っている世界ではないという事だ。葛藤を悟ったのか、ロスティグクスが言葉を繋ぐ。

「どうやら、言葉が足りなかったようだ…。

 本来であれば、汝の御霊は原初の世界で輪廻し、転生を重ねるはずであった。だが、我が后の仔が危うく……。故に我は数多の世界の者に請うた。我が子と同じ魂を持つ者は居ないかと……」

「それ……が、……私………、だった……」

「そうだ」

 ロスティグクスの子と同じ魂の所有者。似た魂ではどこかに必ず弊害が出る。故に同じ、同一の魂を請うた。

「賭け…であった。同一の魂を持つ者が居ても、その者の同意を得る事が出来ねば御霊に手は出せぬ。

 我が子、后の仔と同一の魂を持ち、そして寿命が尽きようとしている者。この二つの条件を満たさねばこうして話をする事すら出来ぬのだ」

 それは、本当に賭けだったのだろう。見つからなければ子供が死ぬ。口調から察するに、見つかる可能性はほぼゼロに等しい。それでも、親として何かをしなければ己を許せなかったのだろう。

 厳しい条件。こうなってくると、己の死が本当の事故によるものか、故意なのか解らなくなってきた。

「無理は強いぬ。原初の者達との取り決めでもある。断られるならば、……諦めよう」

 伏せられた視線に思案する。諦めると言っているが、諦めきる事は出来ないだろう。

 救う手段が目の前に在るのだ。本音を言えば何が何でもと言った所か。握り締めた両手が小刻みに震えていた。

「……条件」

 色々考えを巡らせるが、痛みに思考が分断される。そして、僅かずつではあるが意識が明滅を始めている。残された時間は余りにも少ない。

「……っ……! 何でも、叶える事が出来る事は何でも……っ」

 目を開け続ける事も困難になり、仕方なく瞼を閉じる。何かを施そうと動くロスティグクスを僅かに上げた片手で制する。

「可能で……あれば…、記憶…と、知識は、このまま……で」

 まっさらなまま生まれてきて欲しかったかも知れない。だが、全てを忘れるという事を選択出来るほど、達観出来ていない。記憶や知識があることを悔やむ事があるかもしれない。だが、今出せる妥協点が記憶と知識の確約だった。

「それは、元より…、そのつもりだ。……………原初の世界の者よ…、心から、感謝する」

 ロスティグクスが頭を下げた所為か、長い髪が投げ出されたままの指先に降って来た。手触りの良い髪に指先を絡め、本当の、最期の願いを音に乗せる。

「トワと…。最期に……」

「……………トワ。我等の救い主…。必ず護ろう。我が、我等が……トワ」

 優しい声音。安堵からか、硬さが取れたロスティグクス本来の声。

「心から、感謝する」

 掠れていく視界の中で、安心したように微笑む姿が目に止まる。

 トワ―都和―。己の名。恐らく、もう二度と呼んでは貰えないだろう。

 これから何が待っているのか、想像も出来ない。痛みを緩和した術も、未知の世界のものである。

 だがそれでも、この選択を後悔しないように生きようと思う。己の魂を望んだロスティグクスの為に、そして、新たに生を受けるだろう、己の為に。

 薄れていく意識で考える事が出来る事はたかが知れている。最期に、ロスティグクスの笑みを脳裏に焼き付け、意識は暗転した。


▽   ◇   △   ◇   △


 黒い髪と、理性を宿した黒の瞳。一目見た瞬間に心が震えた。

 本当に賭けだった。各世界を見守る者達に願った事は今考えても無謀だったと思う。だが、正妃・リスティーナの慟哭を聞き届け、各々の世界を探ってくれた。

 理性在る者が、言葉が通じる者が同じ魂を内包しているとは限らない。

 魂を探しながら、幾度と無く受けた忠告。ロスティグクスもそれは覚悟していた。各々の世界に亡く、原初の世界に在った場合、安寧の世界に在るかも知れないと言う可能性もあった。

 原初の世界に在る魂は、果てない輪廻転生を繰り返す。繰り返した魂は疲弊し、やがて永い、永い眠りに就く。そこが安寧の世界。

 安寧の世界に在る魂には何人たりとも手を出す事は出来ない。そこは魂の絶対区。管理人が目を光らせ、疲弊した魂が安らげるように細心の注意を払っている場所。

 そこに魂があればどうする事も出来ない。原初の世界を見守る者達は始めに管理者に連絡を取った。該当する魂が眠っていないかどうかを。細かく管理されている場所からの返答は『居ない』という事。僅かな希望が繋がった瞬間だった。

 各々の世界から該当なしの応えが返る中、原初の世界からの返答は中々返ってこなかった。

 原初の世界。言葉が指し示すとおり、総ての世界の始まりの場所。

 その世界から零れ落ちた魂の欠片が別の世界を創り、絶え、原初の世界の魂へと還る。それを繰り返し世界は在る。

 だからこそ時間が掛かる。同じ魂を探し出し、その上で欠片の結合部を調べる。結合部が違えばそれは異なる魂となるのだ。

 その間、リスティーナには幾度と無く術が施され、仔の延命処置が取られ続けた。そして、その術も限界が近付いて来ていた時、完全に同一の魂を持つ者が見付かったと知らせを受けたのだった。

 魔力も、神力も存在しない原初の世界にあるのは、眩いばかりの生命力。生れ落ちた瞬間から輝きを放ち、燃え尽きるようにその生を終える。そんな生を繰り返し、原初の世界の魂達は煌く。

 輝きを放っている魂にも手を出す事は出来ない。それは生を冒涜する事になり、決して赦されない行為になる。

 魂を移動させる事ができるのはその輝きを失いかけた魂のみ。肉体の死を経て、輪廻の輪へと加わるまでの間。本当に、一瞬の出来事。

 その一瞬を、原初の世界を見守る者達はロスティグクスの為に割いた。ロスティグクスが納得する答えを示すと同時に、送り出す魂が最良の選択を出来るように。

「原初の世界を見守りし者よ…。彼の者の魂、確かに預かり受けた」

 横たわったままの体が、突如として細かい光の粒子に変わる。

 魂の顕現。

 立ち上がったロスティグクスが右手を差し出すと、光の粒子がその上に集う。

 キラキラと立ち昇り、一ヶ所に集まる光の粒子。その密度に微かに表情が変わった。

「この、霊力……」

 ロスティグクスが住む世界にも、もちろん霊力はある。だが、都和の魂が持つ密度の霊力保持者は稀だ。大陸一つを、指先一つで簡単に消し去る事が出来るほどの力。

 そんな強大な力を持つ者が己の子として生まれて来る事実。

「原初の世界…。これ程までに大きな枷だったとは…」

 他の世界に魂を移さない理由が解った気がした。

 魂が持つ霊力や魔力、神力を世界が吸収し、実りとして現れる。それが原初の世界の理。

 力を宿した実りを口にするからこそ、力が枯渇したり飢えたりする事がない。だが、実りを口に出来ない者は、生命力を燃やし尽くして死へと至る。

「気を引き締めねばなるまいな」

 光の粒子が収束し、淡い光を放つ一つの球体と成った。

 これで血は繋がる。大切なのは后の仔。その血筋。

 ロスティグクスは安定した魂を大切に両手に抱くと、その場所から掻き消える。目指すのは臥した后・リスティーナ。


 グラディニア帝国皇帝・ロスティグクスと、正妃・リスティーナとの間に、悲願の仔が産まれるまで、後僅かであった。

か……書けた…。

月に一度か二度、投稿できれば良いなと思っています。


誤字脱字、指摘等、などありましたら、わたあめメンタルでも耐えれるような生温かい文面でお願いします…。

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