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悲しみの雨


 今日は朝から、空気が湿っぽいと思っていたが、やはり……雨が降り出した。

 ザーザーと大粒の雨が、理科担当の教師の声を掻き消して、乾いた街に降り注いでいる。

「窓しめろー!」

 相変わらずの無表情で、窓際に座っている美しい天使は、シャープペンシルを器用に回していた。

「じゃ、教科書を二ノ宮! 読め」

 理科担当の橋口が、ニヤニヤと笑みを浮かべて二ノ宮を指名した。二ノ宮は教科書を黙って見つめた後、ゆっくりと口を開いた。

 ――これで、何回目だろうか?

 さっきから、何度も……二ノ宮は教科書を読んでいる。

「‥‥っということになり」

 何度も教科書を読まされたせいか、二ノ宮の程よく高い綺麗な声は、さっきより小さく感じられた。

「立って読めよなぁ。……ったく!」

 そういって、二ノ宮腕を掴んで強引に立たせようとした。二ノ宮は、怯えたように掴まれた手を振り払ってから、バタバタと青ざめた顔で教室から出て行った。

「なんだぁ?」

 クスクス笑いながら、「あいつ、行き成り教室から出て行くなんて……授業態度がなっていないな」とみんなに聞こえるように、呟いた。


 そして、何事もなかったように授業を再開し始める。



「先生」

 俺は気持ち悪そうな素振りを見せながら、先生に言う。

「気分が悪いので、保健室に行ってきます――」

「あ? ……あぁ」

 俺は、すぐに教室から立ち去る。

 ――好きな奴が、あんなに青ざめた顔をして出て行ったのなら、気にならない奴のほうがおかしい。

 二ノ宮を探すために、俺は廊下に出た。



 外は、相変わらず、ザーザーと雨は降り続いている。

 他のクラスでは授業があっていて、二ノ宮が外に出たということは在り得なさそうだ。外に出るためには、他の教室の前を通らないといけないから。

 渡り廊下から見える屋上に、制服を着た女子生徒がウロウロしているのが見えた。


「二ノ宮!」

 俺は屋上へ続く階段を、必死に登る。急ぐ心に、体がついていかなくて、全然進んでいないように感じられる。そんな自分に苛立ちながら、俺は屋上のドアに手を掛けて勢い良く開いた。

 二ノ宮は雨に濡れて、フェンスに細い指を絡ませて……下を眺めていた。

「おい! 二ノ宮!」

 二ノ宮の肩を掴んで、フェンスから二ノ宮を引き離した。


「……お前、熱があるのか?」

 二ノ宮の冷たく濡れた、小さな肩から伝わる体温が、俺の体温より高いことが分かる。

「触らないで」

 そういって、二ノ宮は俺の腕を払った。

 彼女の声は、消え入りそうな位小さくて……震えていた。

「おい、にのみ――」

 二ノ宮の頬に、スッと涙が伝っていた。

 ――胸が締め付けられたように痛い。……痛い、痛い、痛い、痛い。

 俺は胸を押さえながら、二ノ宮に話しかける。

「なんで、泣いてんの?」

 彼女はスッと立ち上がって、屋上のドアの方へ歩いていく。ドアノブに手を掛けてかけるまで、俺のほうを一度も振り向かなかった。



 ドアを開いた瞬間……彼女は滑るように床に、倒れこんだ。

「――二ノ宮っ!」

 二ノ宮のほうに慌てて、近づく。二ノ宮は苦しそうに、肩で息をしている。

 俺は二ノ宮を背中に担いだ後、保健室へ足を急がす。背中が……熱い。苦しそうに彼女は、息をしながらも一生懸命俺に「離して」と言っていた。


「先生!」

 彼女の願いを無視して、俺は保健室に飛び込んだ。




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