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目立ちたくないそんな彼女の事情-3

翌日の放課後。

純と待ち合わせを約束した裏門へ着くと、そこには黒塗りの高級車が止まっていた。

絵麻が近づくと自動でドアが開いたので、周囲を確認しつつ後部座席に乗り込む。


「よかった。もしかして来ないのかと思った」


すでに後部座席に乗り込んでいた純が、にっこりと笑いかけてきた。

絶対に逃げられない弱みを握っておきながら、何て白々しい態度を取るんだ、と絵麻は心の中で毒づく。



「で?今回無理やり付き合わされる仕事の内容は、一体何なの?もちろん、時間外手当もらえるんでしょうね。いつもの3倍は」

「うわ、トゲのある言い方だなーさすがの俺も傷ついちゃうんだけど」



しなを作ってわざとらしい傷ついた顔をする純に、絵麻は白い目を向けた。

が、いつものごとく純はそれを受け流す。



「安心してよ、ちゃんと報酬は弾むからさ。しかも今回は簡単なお仕事だからさ」

「…簡単?」

「そう!いつもよりかわいく着飾って、2・3時間ニコニコしながら人とおしゃべりしてるだけでいいんだよ」

「……何かそれ、アヤシイ仕事に聞こえるんだけど」

「大丈夫大丈夫!初めてでも俺が一から教えてあげるから」

「…………」



絵麻は軽蔑も含んだ白い目で、さらに純を睨んでギリギリまで距離を話した。

純も笑顔を崩さない。


「と、いう冗談はさておき…そろそろ仕事の内容に入ろうか」


急に純の雰囲気が変わる。

表情はそのままだが目に鋭さが宿ったのを見て、絵麻も気持ちを引き締めた。

いつもはただのナンパ男だが、ビジネスの話になると経営者の顔に切り替わる。

さすがは、幼いころから会社を継ぐべく英才教育を施されていただけのことはある。

普段もこれくらい真面目であれば絵麻の評価も変わるのだが。



「今日は、うちの支店の新作披露パーティーがあるんだ。そこで俺の護衛をしてほしい」

「何か狙われる心当たりでもあるわけ?」

「そりゃあいっぱいあるさ。でも、今回は事前に脅迫状がきてたんだよね…どうしてもパーティーを邪魔したいみたいだ」


純は鋭い目線を前に投げかけたまま、口端を少し上げた。

高校に入ってから、純は父親の会社の後を継ぐために経営に関わるようになった。

多くの支持を得たうえだったが、やはりどこにでも反対勢力というものはあって、いまだに決着がついていないらしい。

しかも相手も巧妙に妨害をしてくるので、なかなか黒幕が叩けない。

少しでも尻尾がつかめれば一気に追い込める準備は出来ているのになと、純はため息をつきながら呟いた。



「そっか、おぼっちゃまも大変だわね……分かった、今回の報酬は3倍じゃなくて2割増でいいわよ」

「…それ、せめて割増なしになんない?」

「そういう甘いことしてたら、こっちも商売にならないの。本当はいつもの報酬じゃあ足りないくらいなんだから」


そんな絵麻のそっけない言葉に、純は先ほどまでのビジネスモードから切り替わって、口を尖らせて文句を言う。


「いつからそんなにシビアになったんだか。昔はおもちゃの指輪をあげても喜んだりして、かわいげがあったのにさ」


純は、首から下げているシルバーのチェーンをつまみ上げて絵麻に見せる。

普段はシャツに隠れて見えないが、そこには小さな銀の指輪がぶら下がっていた。



「これ…あの時の指輪?」

「そう、ガキの時に俺たち三人おそろいで買ったあの指輪だよ」

「え、こんなちっちゃかったっけ?」

「よく見てみなよ。子供用だからこんなもんだって」



純はネックレスを外して絵麻に渡した。

絵麻は、そのネックレスの先端にある小さな輪っかを手に取ってしげしげと眺める。


「純、こんな風にして持ってたんだ…」


昔、日本のお祭りに行ったことがないという純と琥狼を、絵麻は近所の縁日に連れて行ってあげたことがある。

はしゃいで屋台を回っていると、おもちゃの指輪を売っている店の側を通りがかった。

先端の石がキラキラ光るそれをじっと見つめる絵馬に、二人が持っている小銭を合わせて買ってくれた。

そして、純の提案で三人色違いでお揃いにしたのだ。

あのぶっきらぼうな琥狼も、文句も言わず純の提案にのっていた。

友達が少なかったこともあり、同じものを持つことがまるで友情の証のように思えて嬉しかった記憶がある。

今は指にはまらなくなったので、純はネックレスに、琥狼はピアスにして持っているようだ。

ちなみに、絵麻の指輪は段ボールに入れたところまでは覚えているが、本当にそこにあるかどうかは定かではない。

何か後ろめたいものを感じ、絵麻は目線を合わさずネックレスを純に返した。



「でもさ、護衛だったら私が着飾る必要なんてないんじゃない?秘書とか通訳とか、側に控えていてもおかしくない立場の人にすればいいんだから」

「それじゃあつまんないじゃん」

「誰が」

「俺が」



ボコッ。



絵麻は思わず純を殴った。

面白い面白くないの話で、人に迷惑をかけるなんて言語道断だ。

普通の女の子はきれいにドレスアップすると喜ぶものだが、慎ましく地味に目立たなく人様に迷惑をかけないよう生きることがモットーの絵麻には面倒くさい以外の何物でもない。

一応、有名人なので顔は避けて肩にしてやったが、殴った衝撃で純は窓ガラスに頭をぶつけていた。

「いたっ!これ以上頭打ったら俺バカになるじゃん」と純は涙目に文句を言うが、絵麻としては毎回人をおちょくるのに無駄に頭を使うこと自体すでにバカだと思う。


そんな二人のやり取りに、今まで全くもって口を挟まなかった運転手が控えめに目的地の到着を告げた。

絵麻が窓の外を見ると、そこは都内の有名なショッピングモールだった。

どうやら、ブランド店が立ち並ぶ通りに面した立地のいい場所が、今回のパーティー会場のようだ。

車を店の前の止めると、すぐにドアマンが後部座席を開けに近寄ってきた。



「さあて、行きますか」

「……仕方ないわね」



どこか楽しげな純を横目に、絵麻はため息をつきながら車を降りた。


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