伍節
その後、百日と林道は布団に包まったまま、西臼と共に状況の整理をすることにした。
「まず、あの人結局誰なんです?」
「松笠真昼、松笠家の三男。蛇の目持ちを見つけ、蛇目家へ連れて行く一家の……なんですけど」
「……なんですけど?」
「……松笠家には、もう一つの顔があるというか……」
林道は見えないように、布団を強く掴んだ。
これから話すことは――彼らが知る必要がないこと、だったから。
けれど、そんなことも言ってられないのだ。
「松笠家は、蛇目家と……林道家の橋渡し、です」
「……は?」
「橋、渡し……」
「はい。基本的にはこの両家の間柄を取り持つことが仕事なのですが……松笠真昼は違う。立場と役目を重んじ、公平に拘る人物である彼は……林道家から逃げ出した蛇の目持ちを回収する役目がありまして」
淡々と、ただ自身の持ちうる情報を話す。
君谷に聞いたことだけではない、林道が元から持っていた知識も含めて、だ。
その中から、二人が聞いても、害のないもの――つまりは、君谷の二の前にならない情報だけを話している。
「その、松笠真昼って奴が探してんのが、林道さん?」
「はい。逃げ出した……というのは、本当は正しくはないのですが……」
「じゃあ……どうして、林道さんは……追われて、いるんですか?」
「それは――僕が、捨てられた後、蛇の目が発芽したから……です」
そのあと、諦めたように笑いながら「開眼、の方がそれっぽいでしょうか」と、付け加えた。
西臼と百日は顔を見合わせ、行場のない感情に襲われていた。
理不尽だ、と思った。
素直な百日らしい感想だ。
笑えない、と思った。
捻くれた西臼の、本心だった。
「なに、それ」
思わず西臼は、呟いた。
「おかしい、っていうか、ひどい……って僕も思います」
落ち込んだ様子で、百日も釣られて呟いていた。
「……いいんですよ、これが、僕の運命なので」
その目は、諦めに塗れていた。
「林道家、っていうのは昔から優秀な蛇の目を持っていたんです。まあ、蛇の目の優劣なんて、僕にはわかりませんが」
「優秀な、蛇の目……」
「ええ、あの人達は、特殊且つ使い勝手がいい目を求めていたんです」
つまり、林道家が求めるのは、使い勝手のいい駒なのだ。
林道玲、彼は当時蛇の目を持たなかった。
そう、駒にすらなれなかったのだ。
捨て駒としても使われず、ただ、要らないものとして捨てられた。
追い出された。
「じゃあ、今の林道さんは……そいつらが求める存在、ってことですー?」
「それは……どう、なんでしょう。ただ回収したいのかもしれませんし……悪用、を考えているのかも、とも思いますし……」
西臼と百日は疑問符を浮かべていた。
林道が引っかかっているのは、自身の目の特殊さ故である。
「僕の目は――」
林道の持つ目は――異質なのだ。
「つまり、ですね……この、目は――」
林道の言葉を聞き終えると、部屋は静まり返った。
(だから、できることなら……言いたくはなかった、けれど――そんなことも言ってられないもんな)
「……つまり、さ。林道さんは、その目をどう使われるかわからないから、逃げてる……ってことで合ってる?」
「はい、その認識で合ってます」
「確かに、悪用……できちゃいますもんね」
帰りたくない――否、捕まるわけにはいかない理由は、別にあった。
「そう、いくらでも――悪用できるんですよ」
林道は、そう言って笑った。
なぜなら、悪用しているのは他でもない。
――僕なのですから。




