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季節はフィルムと共に  作者: 三好ことね
弐章 芽吹きの春は別れと共に
33/39

終幕 それから。

 それからのことだ。

 盞が件のことを知ったのは、翌日だった。

 肉じゃがを持って、君谷の家こと古本屋へ走っていった。


 そこで出迎えたのは、君谷ではなく――警察だったのだ。


 どうやら、盞が来る前に不審に思った近所の住民が第一発見者となったらしい。

 様々な要因が重なった盞は、やっとの思いで掴んだ連載を――休載にすることとなった。

 暫くは個人サイトでの発言すら出来なかった。

 立派な容疑者だったからだ。


「影ちゃん、あのね……」

 君谷に語りかけるような独り言をこぼす。

「警察の人から色々聞かれたり……出版社の偉い人から、怒られたりしてさ」

 誰からも、返事はない。

「大変、だったんだよ」

 当然だ、そこには誰もいない。


「影ちゃん、俺さ――」


 暫く経って、漸く盞が自由を取り戻した頃だ。

 ネットが大騒ぎだったことを知った。

 容疑者だったことが、ネットニュースにまとめられてたようだ。

 SNSアカウントには様々なメッセージが届いていた。

 勿論、誹謗中傷のようなものでさえ、盞自身が目を通した。


 個人サイトも大荒れだった。

「ま、こうなるよねー」

 苦笑しながらも、盞は受け入れていた。


 もはや、盞には心配の声は届かなかったのだ。


 二度とは戻らない幼馴染という宝物。

 二度とは起こしてはならない事件。


 盞が悩むことはなかった。

 心はもう、決まっていたから。


「はい、はい。ありがとうございました」

 電話越しで盞は深くお辞儀をする。

 数時間後には、これもネットニュース行きだろう。

「それは少し、嫌だなぁ」


 何故、そっとしておいてはくれないのだろうか。

 向こうも仕事だから仕方がない、と頭では理解していた。

 けれど、感情は違うのだ。

 これで、終幕。

 今回の事件は、これにて終りを迎えると、盞は思っていた。


 事実、今後盞が狙われることはないだろう。

 終幕――そう、終わりなのだ。


「少し、寝よう」

 盞は、目を閉じた。


 それからの話。

 林道は電車で移動をしていた時、全てを知ることとなった。

「盞春花、漫画家引退……?」

 駅のホームで一人、ニュースに目を通す。

 そうか、彼は、彼らは――終わりを選んだのか。


 関連ニュースに君谷の件も出てきたが、あえて見なかった。

 見なくても、察しはついていたから。


「……そう、ですか」

 言葉にはならなかったが、感情が溢れる。

 ぐちゃぐちゃと、どろどろと。

 決して綺麗とは言えない感情が。


 それだけ、彼らに絆されていたのだ。

(今回、事の発端は――僕だ)

 海堂の時とは違う。

 自分が探りを入れなければ、自分が接触しなければ。

 ――彼らは平和に過ごせていたじゃないか。

 自責の念、なんて言葉では表せない。


 林道のこの感情は、林道自身が名前をつけなければならない。

 けれど、こんな感情を知らない……否、二度とは味わわないと思っていた。

 だからこそ、感情の名前なんてわからないのだ。


 今の自分にできることは、星見村の下見だと言い聞かせ、近くの街まで移動をする。

 それしか出来ないと、分かっていたから。

 松笠の狙いは初めから、自分だったのだから。


(ごめんなさい、お二人を巻き込んでしまった)

 でも、どうか――託した彼のことだけは。

(百日さんだけは、よろしくお願いします。盞さん)

 もう、近くには居られないのだと、知ってしまったから。

 

 だから、だからせめて――願うことだけは、許してほしかった。

 芽吹きの春、だなんて言われるが、春は別れの季節でもある。

 けれど、こんな別れが来るなど、想像できなかった。

 否、したくなかった。


 だからこそ、ここで終わりなのだ。

 この町での、物語は。


 ――そう、林道は思っていた。

「逃げるのか?」

 背後の存在に気づかずに。


「逃げるのか、と聞いている」

 ゆっくりと、振り返り、その人物を視認する。


「あ、あなた、は――」

「こちらの質問に答えろ、林道。林道――」

 その先の言葉は、聞きたくなかった。


 ただ只管走った。

 どこまでも、どこまでも。

 その影は、ゆるりと余裕のある動きで、林道を逃さなかった。


 たどり着いた先は――ここは、恐らく。

「……え、と。え? あの、大丈夫ですか?」

 青年の声を聞きながら、林道は意識を手放した。


 そこにはもう、その影はなかった。

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