十三節
朝というものは、残酷なほどに平等である。
誰にも等しくやってくるが、永遠に訪れない者もいる。
盞は瞼を擦りながら、音楽を止めた。
「……今、何時だろ」
こんな日々を繰り返していては、何れ時間間隔もめちゃくちゃになってしまう――等と思いながら。
残り二日、どう過ごしたものかと頭を抱える。
そう悩んだところで、なにかが変わる訳では無いが、小さな抵抗くらいは続けたかったのだ。
盞のたった一人の幼馴染。君谷影。
彼とのタイムリミットは、あと二日。
連絡の一つでも取ればいいと言うのに、それなのに。
「……臆病者だ、俺は」
メッセージを送ろうと、文字を打っては消している。
適切な言葉が浮かばない、というのが一つ。
だが、既読にならない未来が怖いのだ。
「でも、だとしても――」
一言だけ、普段は送らないような内容を送信した。
「ご飯、何食べたい?」
普段は盞が作ることなんて無い。
けれど、未来の約束をしたかった。
間を置かずに来た返信を見て、安堵する。
「肉じゃが」
たった、それだけの内容だが、十分だった。
「自炊しない人間には難易度たけーよ、影ちゃん」
画面を見ながら、そんな事を言って笑う。
(ホント、変わんない)
了解の返事をし、食材をどうするか悩んだ。
最近はスーパーもネットで注文できるところもあるらしい、ならばそこを頼ろうか。
君谷が満足するものを作れる自身は無いが、作ることに意味があると言い聞かせる。
「外に出ないで食料調達、便利な時代になったもんだねぇ」
そんな、日常より少しズレた一日だ。
――ほんの少しの、抵抗だった。
昨日個人サイトを動かしたことは、深夜だったこともあり、あまり話題になっていない。
元々あのサイトを知っている読者がどれだけいることか。
とはいえ、全く話題に上がらない、というわけでもなかった。
少しSNSを見てみれば、気付いた読者が少しずつではあるが、現れていた。
――とはいえ、殆どはサイトが動いた、という喜びの声だったが。
そりゃそうだろう、下らん更新も先月で止まっていたのだから。
「春花先生が真面目な文章出してるの、初めて見た」
と、そういった意味で話題になりたかった訳では無いが……それだけ必死なことは、伝わったのだろうか。
「俺はいつだって真面目だって……っていっても、そういうとこは見せてなかったか」
そんなことを呟き、自傷気味に笑う。
(いやまあ、最後に仕事の告知にしたの、何年前だって話だもんな)
そう考えると、別の意味で悲しくなってくるが……。
「よし、影ちゃんのために頑張りますか!」
慣れない料理をすることとなった盞。
だが、決して嫌ではなかっった。
「どうやって持っていこうかなぁ、やっぱ『肉じゃが、作りすぎちゃったんです』かなぁ」
会話の切り出しはできるだけ明るく、そういった理想を考え続ける。
――叶わないことは、分かっているから。
そんな現実を、知っている。
経験ではなく、理解している。
直感、というのが近いのだろう。
あと、二日。
二日で、全てが終わるのだ。




