十二節
盞には眩しすぎる、そんな星空。
ただ、涙を滲ませながら、眺めていた。
――いつかの日を、思い出すために。
「……影ちゃん」
誰かに届くわけもない、独り言。
「星にもさ、寿命ってあるんだって」
過去と同じ話を。
「影ちゃんってさ――」
あの日言えなかった言葉の続きを。
「――星、みたいだよね」
気恥ずかしさなんて持たなければ、本人に言えたのに。
そんなことを悔やんでも、仕方がないことくらい……分かっているのだ。
「星ってさ、あんなに輝いてるのにさ、俺らが何回か生まれ変わったらさ――」
無い話を、タラレバを、繰り返す。
「もう、そこには無いんだよ」
ああ、彼らが聞いたらどんな反応をしたのだろう。
『いいから手を動かせ』と、怒られただろうか。
「……怒ってよ、これからも」
それが叶わないことは、自分が一番よく分かっているというのに。
(愚かなものなんだ、人間は。いや――俺が、か)
ぼんやり眺めた空は、雲が月を隠す。
「きれー、だったんだけどな」
夜空から目を逸らし、原稿に戻る。
「……ズタボロに言われたいわけじゃないけど、一度くらい――褒めてほしかった、かも」
撫でるように原稿に触れる。
君谷のことを、考えながら――それが、現実からの逃避と分かっていても。
(面白いじゃん、とか……言わせたかったな)
言葉にしたら、本当にお別れになってしまう気がして。
寂しがりな心は、変わらず盞に住み着いていた。
「……あー! 眠い! 原稿の続きは、また明日!」
心にかかったモヤを忘れるために、ベッドに潜り込む。
ああ、電気を消し忘れた。
でも今から動くのは、面倒だ。
今月の電気代、ちょっと怖いなぁ。
影ちゃんだったら、貸してくれるかな。
そんな、日常を思い浮かべながら眠りにつくのだ。
深く、深く、眠るのだ。
今日ぐらい寝すぎてもいいだろう、明日の寝坊も許されるだろう。
三日後には幼馴染は――いないのだから。
「……」
暴れだしそうな心は、睡眠を許してはくれなかった。
ベッドを飛び出し、パソコンへ向かった。
小説なんぞ書ける質ではなかったが、どうしても書き記さんとならない、と思った。
盞春花という人間は、君谷影という幼馴染は――こう生きたのだ、と。
世界に叫ばないと気がすまないと思った。
忘れないでほしい。
どうか、君谷影という人物がいたことを、生きたことを。
どのように生き、どうして果てなければならなかったのか。
その全てを、俺の知る全てを、書き記す。
俺が打った文字は、読者の皆にはどう映ることだろうか。
――わからない、俺は漫画家だから。
それでもこうして、長年下らん更新しかしていなかった個人サイトを、大真面目に動かしたのは――俺の小さな反抗なのだ。
それが、たった一人にでも伝われば、俺は満足だ。
「……影ちゃんが、いれば、ね」
そう零した音は部屋に静かに響いた。
あぁ、約束の日まであと三日。
どうか、来ないでくれと願いながら、再びベッドへ入り込む。
どうにも落ち着かない心を宥めるように、好きな音楽をただ流した。
シャッフル再生で、好きな曲だけを詰めたプレイリストを――寝ている間さえも流し続けた。
あと三日、されど三日。
一日を生きるというのは、難しいのだ。




