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ととのうサウナ道~全身がフワ~ッて軽くなって幸せになり、ととのい堕ちするお話~  作者: 塩野さち


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第24話 湯屋最大の危機! 消えた聖なる源泉

 それは、あまりにも突然で、静かな異変だった。

 いつものように開店準備をしていた俺は、露天風呂の湯が、完全に干上がっていることに気づいた。


「あれ? 昨日の夜、湯を抜きっぱなしにしちゃったかな……」


 最初は、そんな軽い気持ちだった。しかし、内湯の湯船も、洗い場のカランも、うんともすんとも言わない。蛇口をひねっても、乾いた音が虚しく響くだけ。湯屋の心臓であるはずの温泉が、その鼓動を完全に止めてしまっていた。


 村に、静かな絶望が広がった。湯屋の湯が枯れた。その一報は、瞬く間に常連客たちの間にも伝わり、誰もが言葉を失った。サウナはただの熱いだけの小屋になり、水風呂はただの冷たいだけの水たまりと化した。あれほど活気に満ちていた湯屋から、人々の笑顔と湯気が消えた。


(どうして……なんで、急に……)


 俺はスキル【源泉探知】を最大まで発動させた。だが、いつもなら温かい光として見えるはずの地脈は、遥か地下深くで、巨大な影のようなものに完全に塞がれている。俺の力では、どうすることもできない。自分の無力さに、ただ唇を噛みしめることしかできなかった。


 俺が一人、がらんとした湯屋で肩を落としていると、仲間たちが次々と集まってきた。


「タカミチ、顔を上げろ。お前一人の湯屋じゃないだろう」


 ギンジが、いつになく真剣な顔で俺の肩を叩いた。


「そうだぞ、タカミチの兄貴! この湯屋は、俺たちの居場所でもあるんだ。今こそ、恩を返す時だぜ!」


 レオも、猫耳をぴんと立てて頷く。その声に、一人、また一人と、仲間たちが力強く応じた。


「原因が地中にあるのなら、解明するのが学者の務めです。このリリエルにお任せを」


「ふん! わしの出番というわけじゃな! ルナよ、道具の準備はできておるか!」


「当たり前だよ、師匠! あたしが作った場所は、あたしが守るんだから!」


「タカミチの【ととのい】、わたしも守る。空からなら、何か見えるかもしれない」


 エルフの賢者が知性で、ドワーフの師弟が技術で、そして飛竜種の少女がその瞳で、俺の危機を救おうと立ち上がってくれた。


 こうして、湯屋の聖なる源泉を取り戻すための、俺たちの総力戦が始まった。


 作戦は、それぞれのチームに分かれて進められた。

 リリエルは湯屋の一室に即席の司令室を設け、古文書と魔力水晶を駆使して地下構造の解析を始めた。その隣では、新たに弟子入りした湯守のコウガが、古来からの地脈の知識で彼を補佐する。

 鍛冶場では、ボルガンとルナが、リリエルの送るデータを元に、見たこともない機械の設計図を描き、夜通しで槌を振るい始めた。火花が散り、鋼が打たれる音が、村に希望のリズムを刻んでいく。

 森では、地殻変動の影響で凶暴化した魔物たちが現れ始めていた。それを鎮めるのは、ギンジとブリギッテ率いる騎士団の役目だ。彼らは村の周囲を固め、作業の安全を確保する。

 そして、遥か上空では、巨大な竜の姿となったノーラが、その鋭い目で地脈全体の微細な変化を捉え、逐一リリエルへと報告を送っていた。


 数日後。ついにリリエルが原因を特定した。


「間違いありません! 地下三百メートルの地点に、古代の魔力が暴走し、結晶化した巨大な【魔力の結晶体】が存在します! これが地脈を物理的に圧迫しているのです!」


 その報告と時を同じくして、鍛冶場からボルガンの雄叫びが上がった。


「できたぞぉ! どんな硬い岩盤も貫く、究極の【魔導掘削機】がな!」


 全ての準備は整った。俺たちは、結晶体の真上に掘削機を設置し、最後の作戦に挑んだ。


「タカミチ、お前がやれ。この湯屋の主は、お前じゃろうが」


 ボルガンに背中を押され、俺は掘削機のレバーを握った。仲間たちが見守る中、俺は全ての希望を込めて、レバーを倒す。

 凄まじい轟音と共に、大地が震える。掘削機の先端が、一直線に地下深くへと突き進んでいく。そして、リリエルが計測していた深度に達した、その瞬間だった。


 ゴゴゴゴゴッ……!


 地底から、鈍い破壊音が響き渡り、大地が大きく揺れた。

 次の瞬間、掘削機の穴から、天を突くほどの勢いで、温かい湯柱が噴き出したのだ。


「うおおおおお! みんな、やったぞー!」


 俺の歓喜の叫びに、仲間たちが一斉に駆け寄ってくる。噴き出した湯を浴びながら、俺たちは肩を抱き合い、子供のようにはしゃいだ。それは、以前よりもさらにパワフルで、極上の泉質を持った、奇跡の湯だった。


 危機を乗り越え、俺たちの湯屋は、より力強い命の鼓動を取り戻した。そして、この場所に集う仲間たちの絆は、どんな名剣よりも硬く、どんな温泉よりも温かく、結ばれたのだった。

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