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第2話 村人たちが集まりだした件

「温泉が出たぞ~~~っ!」


 森の奥で極上の源泉を掘り当てた俺は、意気揚々と村へ戻ると、広場の中心で高らかに叫んだ。リーナが「本当なんです! すごいお湯でした!」と証人になってくれたおかげで、俺の話はすぐにただのホラ話として扱われずに済んだが……。


「で、あんたは何者なんだい? 昨日、突然現れたって話だけど、どうにも怪しいじゃないか」


 腕を組み、鋭い視線で俺を睨みつけてくるのは、村の鍛冶屋の娘だった。炎の色を映したような赤銅色の髪を無造作に一つ結びにし、つり上がった目が印象的な、十七、八歳くらいの少女だ。リーナの友人らしい。


「俺はタカミチ。最高の湯屋を作るために、異世界から来た男だ」


「湯屋……? なんだい、そりゃあ。村の洗い場とは違うのかい?」


「ちょっとどころか、全然違う。もっとこう……日々の汗と疲れが根こそぎ吹き飛ぶ極楽空間さ。一度入れば誰もが元気を取り戻し、心も体も『ととのう』んだ」


「……ふん、口だけは達者みたいだね」


 鍛冶娘はぷいと鼻を鳴らした。だが、親友であるリーナの「本当にすごかったの! まるで羽が生えたみたいに足が軽くなったのよ!」という熱心な説得に根負けしたのか、渋々ながらも俺たちの後をついてくることになった。


 翌朝、俺たちは改めて森の源泉へと向かった。すると、俺たちの後ろから村の子供たちや、仕事を休んだらしい農夫たちまでもが、ぞろぞろとついてくる。どうやら、噂はもう村中に広まっているようだった。


「こ、ここが……」


 鍛冶娘が、思わず足を止めた。木漏れ日が差し込む静かな空間に、湯気がゆらゆらと立ち上っている。自然のくぼ地を利用して作った、仮設の足湯がそこにちょこんと置かれていた。さっそくリーナが靴を脱ぐと、にっこり笑って湯に足を入れた。


「やっぱり気持ちいい! ほら、ルナも入ってみて?」


「……ったく、しかたないね」


 そう言いながらも、ルナと呼ばれた鍛冶娘は、半信半疑といった顔で俺をちらりと睨むと、隣に腰を下ろしてその白い足を湯に沈めた。


 数秒後……。


(……な、なんだこれ……!? すっごく、あったかい……)


 彼女の口から、無意識にため息が漏れる。


「……っていうか、うわ……肩が……あ、あたしの肩が、あたしの肩がとろけるううううっ……!」


 声のテンションがいきなり爆発した。どうやら、鍛冶仕事で凝り固まった筋肉の芯まで、温泉効果が到達してしまったらしい。


「そ、そんなにすごいの……?」


 様子を見ていた農夫が、ごくりと喉を鳴らす。


「こ、こんなもんで誤魔化されるわけ……な……ん……ぬぅぅ……」


 強がろうとするルナの表情が、みるみるうちにふにゃりと崩れていく。さっきまで鬼のように俺を睨みつけていたのが嘘のようだ。


「……な? これが、湯の力だ」


 俺はドヤ顔を決め込み、周囲をぐるりと見渡した。すでに十数人の村人が集まり、固唾をのんでこちらを見ている。


「俺は、このお湯を使って、もっと大きな施設を作りたい。ちゃんと男女別に分けて、洗い場、露天風呂、サウナもある……スーパー銭湯をな!」


「すー……ぱーせん……とう?」


「うん。まあ簡単に言うなら夢の湯屋だ。もし建設に協力してくれるなら、村のみんなには永久無料で開放するつもりだ。ここに入れば、仕事の疲れなんて一発で取れるぞ!」


「……なにそれ、ちょっと最高じゃない」


 足湯の中で完全に骨抜きにされたルナが、ぽつりと本音を呟いた。顔がゆるみきっているせいで、いつものツンケンした雰囲気が台無しになっているのが、またいい。


「ってわけで、材木と石と、あと大工仕事ができる人材が必要なんだ。どうかな、協力してくれるか?」


「はあ……しかたないな。あんたの言う『ごくらく』ってやつ、この手で作ってみたくなっただけだよ。あたしは鍛冶屋だから、工具や金属部品ならどうにかしてやる」


 そう言って立ち上がったルナは、ズボンの裾をパンと叩いた。その仕草は、やっぱり様になっていて格好良かった。


 彼女の言葉がきっかけになったのか、村人たちの間からも「石なら、うちの畑の裏に捨てるほど転がってるぞ!」「俺、昔大工の見習いをやってたから、木を切るのなら得意だぜ!」と、次々に声が上がり始めた。どうやら、賛同者は一気に増えたようだ。


「よし……! じゃあ、始めようか! 異世界スーパー銭湯計画を!」


 俺は固く拳を握りしめ、集まってくれた仲間たちの顔を見渡した。


 この村に、そしてこの世界に、最高の癒しを届けるために。俺たちの挑戦が、今まさに始まろうとしていた。

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