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5/6

5 失望させてしまった・・・

3か月の研修期間も残りわずかとなり、僕たちはおそらく最後の長期クエストになるであろうダンジョン探索に出かけていた。


例のごとく、僕は食料と大鍋を背負ってヒィヒィ言いながら歩いていたが、盾を背負って隣を歩いているリチャードは上機嫌だ。


リチャードは研修期間中に何体もモンスターを仕留めてソフィアさんたちから褒められており、もはや自分がこのパーティーのメンバーとして正式採用されることを確信しているようだ。


僕はというと、研修が終わった後の身の振り方が決まっているわけではない。しばらくは薬草探しや地図作りなどの簡単な依頼を一人で引き受けて糊口をしのぐつもりだ。


おそらくソフィアさんから直接学べるのはこのクエストが最後になるだろう。だから、この最後の機会では少しでもソフィアさんに認めてもらいたい。料理じゃなく一人前の冒険者としての実力を・・・。


しかし、その願いは虚しく、まったく評価される機会がないままダンジョン探索は終わった。

そもそもモンスターに出くわす機会自体が少なく、出くわしたモンスターもスライムやゴブリンといったものばかりで、しかもこちらが気づいて警戒すると向こうから逃げて行った。

そのため、盾役や剣士としての見せ場はまったくなく、予定よりも早く指定された階層までの探索を終えて失意のまま帰路につくことになった。


「いや~、あと1体モンスターを仕留めればちょうど10体だったんだけど、惜しかったな~。」

「新人で9体は十分だよ。それだけの実績があればどこでもやっていけるよ。」

浮かれたリチャードがナディアさんと話している声が聞こえてきた。僕は1体も仕留めていない・・・。ああ、差を感じちゃうな・・・。


その日のうちに集落まで帰り着くことは難しかったため、この日は野営をすることになった。

僕はすばやくテントの設営をして、食事の準備をした。この3か月でだいぶ手際もよくなった。


食事の後、いつものようにリチャードと交替で見張りをすることになった。

地味な仕事に限って手を抜くリチャードにはイライラさせられることも多かったけど、これも最後だと思うと感慨深い。


この日はリチャードが先に見張番をして、その間に僕が睡眠をとる順番である。

最後にソフィアさんと二人で話せるといいなと思いながら、疲れもあってすぐに入眠してしまった。


目を覚ましたのは何時くらいだっただろう。

まだリチャードとの交替時間ではないはずだったが、またリチャードが寝ているかもしれないと思い、テントから顔を出して周囲をうかがってみた。

すると、テントのすぐ近くの暗闇に赤く光る眼が6つ見えた。


グルグル~と喉を鳴らす声も聞こえる。


「て、てき、敵襲~!!!」


僕はためらわず大声を出し、剣を持ってテントを飛び出し、洗ってテント脇に干しておいた大鍋をつかんで、ガンガン叩いた。


これで退散してくれよ、と念じたが、僕の思いに反し、その赤い眼はこちらに近づいてくる。


「あっ!オーク、オーク3体です!!気を付けてください!」

「わかった、じゃあその大鍋で少し耐えてちょうだい!」

いつの間にかソフィアさんも起きて来て、詠唱を始めている。


グワァ~!!


3体のうち、1体が飛びかかって来たので、大鍋で受け止めた。しかし、オークのパワーは強く、どんどん押し込まれてしまう。


ドンッ!!


突然目の前のオークが火球に包まれた。ソフィアさんの魔法が直撃したようだ。

僕はすかさず剣でとどめを刺し、鮮血が散った。


しかし、それを見て残り2体のオークは興奮したのか、さらに凶暴になり、こちらに突進してくる。


1体は僕の大鍋で受け止め、もう1体はいつの間にか現れたリチャードが盾で受け止めている。


「ぐっ、まだか・・・。」


もう耐えきれない、そう思った瞬間、僕が受け止めていたオークは、ソフィアさんの魔法の火球に包まれ、そのまま後退し森の方へ逃げて行った。


しかし、リチャードが受け止めていたオークに向けて放たれたナディアさんの氷の魔法はあえなく外れてしまった。


そのオークは、いったん下がるとリチャードに向けて全速力で突進した。

リチャードは組み止めようとしたが、あえなく吹っ飛ばされてしまった。


グル~ッ!!


オークがそのまま地面に倒れたリチャードに近づいている、まずい!


ガンッ!ガンッ!!ガンッ!! 

「ワ~ッ!!ワ~ッ!!!こっちだ〜!!」


僕は、注意を引き付けるため、大鍋を剣で叩き、大声で叫んだ。すると、オークはこちらに気づき、方向を変えて今度は僕の方に向かって全力で突進してきた。


まずい。勢いがついてる。あれを受け止めるのは無理だ。でも、僕の後ろにはソフィアさんがいるから避けるわけにはいかない・・・。


その瞬間、僕の脳裏に盾役研修の際にソフィアさんに教わった盾の使い方が浮かんだ。ソフィアさんに教わって、自分でも工夫してきたあの技術・・・ぶっつけ本番だけどやるしかない!!


僕は剣を捨て、両手で大鍋を持ち、膝を曲げ、腰を深く落として重心を低くした。

「引き付けろ、ギリギリまで引き付けろ~。」


僕はそう念じながらオークを待ち、突進してきたオークが大鍋に触れた瞬間に少しだけ大鍋を引いた。そして、つんのめって上体だけが前に出たオークに対して下から大鍋を突き上げた。


「グッ、重い・・・。」

ふと下を見ると、爪先立ったオークの足が見えた。


「ドオオオリャ~!!!」


僕は思いっきりその足を蹴り上げた。するとオークの体がぐらりと揺れたので、僕はさらに大鍋を下から押し上げた。すると、オークの体がフワッと軽くなった。


ド~ンッ!!


オークが宙を舞い、地面に倒れ込んだ。僕は急いで大鍋を押し付け、全体重を預けた。

そして、とどめを刺そうとしたが、腰に剣がない!!


「リチャード!!とどめだ!!」


僕が叫ぶと、リチャードが這いながら寄って来て、オークの首に剣を突き立てた・・・。


「やったぞ~!!10体目だ!しかもオークを仕留めたぞ~!!」

剣を突き上げ、雄たけびを上げるリチャードを横目に、僕は息を切らせて仰向けに寝転んだ。


ーー


「それで・・・なんでオークの接近に気づかなかったのかな?見張りはどうしたの?」


夜が明けてから、僕とリチャードは、並んで立たされてソフィアさんから詰められていた。

ナディアさん、サンドラさんは少し離れたところから腰に手を当てながら様子を見ている。


「すみませんでした。」


僕は素直に頭を下げた。

てっきりリチャードも一緒に頭を下げてくれるだろうと思っていたが、横にいるリチャードは少しも頭を下げず、耳を疑うようなことを言った。


「あの時間帯は、コージローが見張番でした。コージローが見逃したんだと思います。」


僕が思わず目を見開いてリチャードを見ると、リチャードが素知らぬ顔をしていた。

おいっ!どう考えてもあの時間帯はリチャードの番だったぞ!!と言おうとしたが、そもそも見張番は研修生二人の役割である。たまたま当番でなかったからといって、自分に責任がないなんて言えないだろう。

それに僕はリチャードがたまに見張番中に寝ていることを知っていたが、十分な対応を怠っていた・・・。


「すみませんでした。きちんと敵襲を把握できる体制にしておかなかったことが落ち度だと思います。」


僕がそう言うと、ソフィアさんは腕組みをしながら、フッと険しい顔つきを緩め、あきれたような、失望をしたような、何とも言えない表情をした。


「まあ、今回は無事に撃退できたからいいわ!でも、冒険者として次はないわよ。肝に銘じておきなさい!!」

「はい・・・。」


そのまま、ソフィアさんはナディアさんとサンドラさんの方へ歩いて行った。

「これで決まりだな・・・。」

ナディアさんがそうつぶやき、ソフィアさんがうなずいているのが見えた。


最初から僕が正式採用されることはあり得なかった。だからそのことはどうでもいい。


だけど、最後の最後にソフィアさんに認めてもらうどころか、失望させてしまった、そのことが辛く、僕の胸を締め付けた。


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