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2 ソフィアに認められたい!

「ソフィアさん!僕のメンターになってもらえないでしょうか?」


僕は、ギルドでソフィアさんがパーティーの仲間と一緒にテーブルを囲んで座っているタイミングを見計らって駆け寄り、こう告げてそのまま深く頭を下げた。


「ああ、新人だっけ?ごめんね。もう、うちの研修生決まっちゃったから、他を探してくれる?」


ソフィアさんではなく、隣に座っていた赤髪の魔導士の女性が答えた。たしかこの人の名前はナディアさんのはずだ。


「君、たしか剣士か盾役志望だったよね。そもそもうち以外でもその体格では厳しいと思うよ~。ハハッ。」

さらに反対側の隣に座っていた黒髪の女性僧侶が遠慮ない笑い声をあげた。たしかこの人はサンドラさん。

肝心のソフィアさんはさっきから腕組みをしたまま黙って座っている。


「どうして、うちのパーティーに研修生として入りたいの?聞いていると思うけど、うちのパーティーは特に厳しいわよ。これまでも厳しさに耐え切れず脱落した新人や研修生は少なくないけど、なんであえてこんな厳しいパーティーに入りたいの?」


ソフィアさんがやっと口を開いてくれたが表情は硬い。


「はい。この間、ソフィアさんに盾の使い方を教えてもらって驚きました。まだまだ僕が身に付けなければいけない技術がたくさんあるって。

ソフィアさんの側で勉強させてもらって、もっと成長したいです。そのためにはどんなに辛くても頑張りますのでよろしくお願いします!」


僕は改めて深く頭を下げた。

ソフィアさんは腕組みをしたまま天井を見つめている。


「やる気はわかった。じゃあ、君はパーティーにどんな貢献ができるの?もう体力自慢の盾役は採用済み。体格に劣る君は何ができる?魔法が使えるの?それとも何か他に特殊技能がある?」


ソフィアさんは、まっすぐ僕を見つめてきた。

たしかに僕に何があるんだろう?魔法も使えない、他の特殊技能も思いあたらない。正直何もない。

でも何か言わなきゃここで落とされてしまう。何か言わなきゃ!


「り、料理が得意です・・・。」

追い詰められたあまり、意味わからんことを言ってしまった・・・。終わった・・・。


「・・・料理?」

しかしソフィアさんの顔色が一瞬変わった。


「あっ・・・はい!昔から料理は得意です。そうだ!お昼ご飯にサンドイッチを作ってきているので食べてください!」

これが最後のチャンスだと思い、僕はカバンから、朝作ったスモークチキンのサンドイッチを出してソフィアさん、ナディアさん、サンドラさんに配った。


「・・・・・おいしい。他に何が作れるの?野営地の焚き火を使って作れる料理は何があるの?」

「はい。キャンプが趣味でしたので飯盒があればシチューとか煮込み料理とかも・・・。」


僕がそう言うとソフィアさんはナディアさんとサンドラさんとヒソヒソ話し始めた。

僕がドキドキしながら待っていると、ソフィアさんがゴホンと咳払いをしてから厳かに言った。


「じゃあ、君を盾役兼剣士兼料理番として研修生に採用することにします。よろしくね。」

「ありがとうございます。」

僕は深々と頭を下げながら右手でガッツポーズをした。


★★


「じゃあ、今日は東の池近くの洞窟を探索して、魔物の巣があれば掃討するミッションよ。特に研修生は足を引っ張らないよう、気を引き締めて臨むように!」

「はい!!」


この日、僕は、研修生としてパーティーに参加してから初めてのクエストに出発した。パーティーメンバーは、魔導士のソフィアさん、ナディアさんと、僧侶のサンドラさん、さらに研修生として盾役兼剣士のリチャード、それから盾役兼剣士兼料理番の僕である。

リチャードが立派な戦闘用の盾を背負っている一方で、僕は盾ではなく、代わりに料理と戦闘兼用の鉄の大鍋を背負っているのが情けない・・・。


「おい、うまいこと潜り込んだな!どうやったんだよ?」

隣を歩くリチャードがひそひそと話しかけてくる。


「このパーティーは厳しいけど稼げるらしいからな。俺はこの研修を通じて戦力として評価されて正規メンバーになるつもりなんだから、邪魔すんなよ。」

そう言ってリチャードはどんっと肩をぶつけてきた。


「僕は、研修期間だけでもソフィアさんから学べれば十分だよ・・・。」

僕はよろめきながら力なく答えたが、これは半ば本心でもある。

万が一採用されても、僕の実力ではこのギルドで有数のハイクラスパーティーでやっていける気がしない。それよりも研修期間中に尊敬するソフィアさんからたくさん学んで成長を認めてもらいたい、そんな気持ちだった。


「よ~し、洞窟の入口に着いたぞ。盾役二人、前に出ろ!これから魔法で洞窟内に明かりを入れる。そうするとモンスターが飛び出して来たり、いきなり攻撃してくることもあるから、その盾で防ぐんだ!絶対に後ろに通すなよ!いいな!」

「はい!」

まあ、僕のは盾じゃなく大鍋だが・・・と思いながらも返事をして前に出る。


「よし!それっ!」

ソフィアさんが素早く詠唱し、発光魔法で洞窟の中を明るく照らす。


その瞬間、洞窟から多数の蝙蝠が飛び出て来た後、ぐおぉぉ~という獣の低い吠え声がした。

「レッサードラゴンかファイアーリザードだ!!炎が来るかもしれないぞ、盾をしっかり構えろ!」


ソフィアさんからの声が聞こえるか聞こえないかのうちに、洞窟の奥から真っ赤な炎が迫って来た。リチャードと僕は、盾と大鍋で必死にそれを防ぐ。


「ほら、もっと盾を密着させろ、隙間から炎が漏れてるぞ!」

ソフィアさん、無理言わんでください。四角い盾と丸い大鍋だと、密着させても必ず隙間はできますって。


アチッ、アチッ、アチャチャチャ! 隙間から出た炎の火の粉が僕の背中に入った。背中を叩いて火を消したい。でも、この大鍋をから手を放すわけにはいかない!


「よ~し、君たちよく我慢したぞ!ナディア、いけ!!」

その瞬間、詠唱を終えたナディアの氷魔法で巨大なつららが洞窟の中に向けて放出され、炎が収まった。


助かった・・・。そう思う暇もなく、後ろからソフィアに杖でどつかれた。


「さっさと飛び込んで剣でとどめさして来い!のろまが!」

ソフィアさんに怒鳴られ、僕はすぐに大鍋を剣に持ち替えて洞窟内に飛び込んだ。奥に入ると、そこにはファイヤーリザードがいたが、氷のつららが胸を貫き、口から血を流し、いままさに絶命しようとするところだったため、僕は足を止めた。


しかし、後ろからやって来たリチャードが僕を追い抜き、もう死んでいるに等しいファイヤーリザードの首に素早く剣を突き立てた。


「やった!俺が仕留めましたよ!見てください!」

リチャードが後から入って来た3人に嬉しそうに報告している。


「リチャード、よくやったぞ!それからコージロー、ためらってどうする。一瞬のためらいで、こっちがやられることもあるんだぞ!!」

「はい・・・・。」

ソフィアさんに褒められて有頂天になるリチャードを見て、僕の心に小さな嫉妬の炎が生まれた気がした。


「じゃあ、モンスターの掃討はだいたい終わったと思うが、夜に巣穴に帰ってくるタイプもいるから明日の早朝にもう一回確認するぞ。今日は離れたところで野営だ。」


夕方、僕たちは洞窟を離れ、少し離れた開けた場所に野営地を設営した。

僕は料理番を兼ねているので、水を汲み、素早く火を起こし、昼に盾として使った大鍋を洗ってから夕飯の準備をした。


「・・・・・このスープおいしい・・・。」

ソフィアさんが目を丸くしている。

「あっ、はい。棒鱈と干しキノコと野菜を煮込んでみたんです。棒鱈と干しキノコからいい出汁が出てるでしょう。」

ソフィアさんはそれには答えず、黙ってお椀を差し出してきたので、おかわりをよそった。

それを見て、ナディアさん、サンドラさん、それからリチャードも黙ってお椀を出してきた。


「今年の研修生は優秀だな。リチャードは勇気をもってモンスターに飛び込むし、コージローは料理がうまい・・・。」


ソフィアさんが、ぽつりと褒めてくれたことは嬉しかったが、リチャードがパーティーの戦力として褒められているのに、僕は料理でしか褒められず複雑な気持ちだった。


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