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第一章 ◇八頁◇


「ひ、ひ、ひ、柊先輩!な、何をしているんですか!そりゃあ、今回の件については柊先輩に終始任せてしまいましたが、それでもそのご褒美は羨ましいです!恨めしいです!こうなったら自分が幽霊と化して柊先輩を呪ってやります!」


廃墟から出てきた冷が、今にも襲い掛かりそうな勢いで言い放った。


「冷後輩、落ち着け!ちゅーしたように見えるだけで感触は無いんだからな!」


『近馬さんの唇、柔らかいですね………』


「お、おい、式―――」


「ほらあああ!こうなったら………自分が柊先輩とちゅーして、間接的にでもその娘の唇を奪います!」


「冷や麦、阿呆な事を言っていないで早く帰るぞ。」


近馬に本当に向かっていこうとする冷の襟首を掴みながら、いつの間にか戻って来た宵太が言った。


「み、御柳先輩、放してください!自分もご褒美が欲しいです!」


「僕たちはサボっていたんだから仕方ないだろ。それよりも、僕はもう寝たいんだ。だから早く帰るぞ。」


とても眠たそうに欠伸をしながら宵太は言う。

冷も落ち着きを取り戻し、渋々と頷いた。


「宵太ん、助かったぞ。ありがとうな。」


「もし、依奈が見ていたら泣き出すけれどな………」


「ん?何か言ったか?」


「いや、なんでもないよ。それよりも、これ。」


すると、宵太は手に持っていた紙を近馬に渡した。

随分と汚れていて、書いてある字も読めない程だった。


「宵太ん、これはなんだ?」


「あの廃墟の周りを探索している時に見つけた紙だ。かなり古いものだし、汚れているけれど、一部だけは読めた。」


示された場所を見るとこう書かれていた。


"―――式―――ごめん―――"


「僕の推測だけれど、これは、ろり式に会いに来るはずだった人の手紙だよ。」


『あの………"ろり式"とは?』


「ん?ああ、キミのあだ名だよ。勝手に付けさせてもらったけれど嫌かな?」


まるで、ロリ度を求めるような公式の名称みたいだ。

いったい、何を足して、何を引いて、何を掛けて、何を割るのだろうか………


『いえ、気に入りましたよ。ろり式、可愛らしいじゃないですか。』


「御柳先輩のセンスは凄いですね。自分も初めてあだ名で呼ばれた時も驚きましたよ。」


少し皮肉混じりに冷が言った。

それについて宵太は何か言おうとしたが、話を戻すのを優先した。


「で、おそらく、ろり式が自殺したことを知ったその人が、敷地内に埋めたんだろう。それを僕が見つけたってことだ。」


『あの………ありがとうございます。私、その人に裏切られたのだとずっと思っていたので………これで、少しは気が晴れました。』


「僕たちは、お礼を言われるような事をしたわけじゃないから。」


"お礼を言われるような事をしたわけじゃない"

宵太の言う通りだ。

これらは全て、幽霊を成仏させようとしたこと。

式の為と言っても、それは偽善でしかないのだ。

悪霊になる可能性を持つ霊を事前に成仏させる、これが七士の仕事で、宵太たちが手伝う仕事なのである。


「柊先輩、そういえば、ろりちゃんはどうして一緒にいるんですか?」


廃墟を後にして、三人と一霊で帰る途中に冷が、宵太の付けたあだ名に便乗するような形で聞いた。


「どうやら式は、俺に取り憑いたらしいぞ。」


「近馬、それって平気なのか?」


「緋鳥んは憑依とは違うから問題無いって言っていたぞ。」


「いや、そうじゃなくて。生活の事だよ。普通の人には見えないから、そこは問題無いだろうけれど、僕らには見えているんだよ?つまり、依奈がどういう反応をするかだな。」


「何故、綾杉が関係してくるんだ?説明が必要なのは、木薙も美恵留んも同じ事だろう?」


「わからないなら身を持って知れば良いよ。あと、風呂とかトイレにまで入られたら困るんじゃないか?」


宵太が式の方を見ながら言うと、あたふたしながらも式が答えた。


『私だってその時は少し離れますよ………取り憑いているといっても、ぴったり離れないわけではないですから。』


「幽霊とはいえ、女の子と同棲生活か。俺もいろいろと覚悟しないとな。」


「自分なら願ってもない事ですよ。代わってほしいぐらいです!ろりちゃんどうですか?自分のところに来ないですか?」


『嫌ですよ、だって………私は、近馬さんに惚れてしまいましたから………』


さすがに今回は唇を重ねる真似事は無かったが、それでも見ている方が照れてしまうぐらいの台詞だ。


「そんな台詞、僕も芙和に言われたいな………」


「自分は先ず相手がいないですよ………」


現実を知っている二人は落ち込んでしまった。

彼女がいても言ってくれないであろう宵太。

彼女がそもそもいない冷。

そして、一人と一霊のロリ少女から迫られる近馬。

落ち込むのも無理はない。


「では、自分はここで。また明日、よろしくお願いします。」


家が別方向の冷と別れ、宵太と近馬、そして式だけになった。

すると、近馬が不意に呟いた。


「俺たちはあとどのくらい手伝えば許されるのかな?」


「それは、わからないよ。僕たちがやったことは、そもそも許されることかどうかもわからないし。」


『あの………どういうことですか?"許される"って何にですか?』


話している内容がわからなかった式は、思わず二人に聞いてしまった。


「それは………答えられない。いつか話すかもしれないけれど、今は話せない。だから、今後この話題を式から出すのもだめだぞ。」


「この話は、僕たちの罪と罰みたいなものだよ。今回だって、ろり式を救ったわけでも、助けたわけでもないんだ。むしろ、"僕たちが救われたい、助かりたい"ってだけなんだよ。」


『よく、わからないですが、私もこれ以上聞かないようにします。それよりも、近馬さん。近馬さんのご家族は?』


重たい雰囲気に耐え兼ね、式は話題を変えた。

それに伴い、宵太と近馬も雰囲気を変えるように努めた。


「俺以外の家族は海外にいるぞ。といっても、俺には兄弟がいないから両親だけな。」


『では、一人暮らしなのですか?』


「そうだぞ。住んでいるのは実家だから、家賃とかはないし、生活費は貰っているから苦労は無いけれどな。」


「だから、みんなで近馬の家に集まったりするんだよな。」


『なんだか、楽しみです。楽しくて私、成仏しちゃうかも。』


式は自虐気味に冗談を言いながら、くすくすと小さく笑った。

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