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第五章 ◆五頁◆


「あれ?宵太と比名麦くん、急に家に来るなんてどうしたの?」


 あの後も冷の暴走に付き合いながら進んだ宵太たちは、ようやく芙和の住む《芝刈神社》に着いた。母屋の方に向かおうとしたところで、境内を掃除する芙和に会った。


「み、御柳先輩……こ、これは……」


「比名麦くん、どうかしたの?」


「い、いえ……なんでもありませんよ」


 冷は必死に鼻を押さえながら言った。芙和が巫女服姿で竹箒を持ちながら掃除をするというオプション付きの、冷の理想を超える姿だったので、冷は鼻血が出そうになるのを必死に堪えていた。


「ところで芙和はお手伝い中なのか?」


 冷を不思議そうに眺める芙和に対して、見ればわかるようなことを宵太が聞いた。


「そうだよ。見ての通りね。ほら」


「ぶはあ!」


 その場でくるりと芙和が回ると、とうとう冷は我慢できずに鼻血を吹いた。宵太はそれをにやり顔で見ていた。つまり、狙ったということだ。


「ちょ、ちょっと比名麦くん、大丈夫?鼻血なんか出してどうしたの?」


「僕の容量をオーバーしただけなので、ご心配なく……それにしても、良いですね」


「とりあえず、冷はティッシュでも鼻に詰めて、おとなしくしていな。僕は芝爺さんに挨拶してくるから、芙和は掃除を続けていて良いよ」


「そうするけど、宵太はお祖父ちゃんに何か用なのかな?」


「いや、今日から泊まるにしても、芙和を家に連れていくにしても、芝爺さんには許可をもらわないといけないからね」


「え?え?何それ?どういうこと?」


 急なお泊り発言に戸惑う芙和。宵太は母屋に向かう足を止めて、芙和の方を振り向き、「ああ、そうか」と言い出した。


「先に連絡しようと思っていたけど忘れていたよ。七士さんに言われて、まあ、正確には冷から伝え聞いたんだけれど、休校になっている間は、どちらかの家に一緒に居ろだってさ」


「宵太は……その、命令に従うの?」


「まあ、理由が何であれ、僕は芙和と一緒にいられるのなら満足だからね」


「な、何を言うの!ていうか、宵太が軽いキャラになっている気がするよ」


「……それは僕も気付いてはいたけれど、なんか後に引けなくなっちゃたんだよね」


「そんなの宵太らしくないから嫌だな」


「うん。まあ、元に戻るようには努力するよ。それでさ、芙和は泊まるのと泊まられるのは、どっちが良い?」


「そうだなあ……宵太の家に泊まりたい気持ちもあるし、家に来てもらいたい気持ちもあるんだよね。だから、どっちもっていうのははだめかな?」


「どっちも、か。うん、それにしよう」


 宵太は頷くと母屋の方へ向かって行った。


「木薙先輩、お願いがあるのですが」


「何かな?」


「巫女服といえばお祓い!お祓いといえば巫女服!と、いうことで、是非その麗しい巫女服姿でお祓いをしてください!」


「えっと……えい」


 芙和は少し考えた後、竹箒で冷のことを突いた。だいたい、芙和は巫女服を着てはいるが、ただの手伝いの為、そんなことは一切出来ない。というより、芝刈神社自体がそういうことをしていない。


「これは新しい感じのお祓いですね!蔑まされているようで、とても心地が良いです!」


 それでも冷は満足そうなので、良いのかもしれない。

 一方、その頃母屋の方では、宵太と芝刈が話していた。


「宵太くん、よく来たのう。とりあえず、一杯呑むか?」


「では、いただきます」


「なんじゃ、お主は呑むのか?未成年だとか言わぬのか?」


「僕はそんなに良い子ではないですからね。返事だけでも呑むようにしようかと思いまして」


「わっはっは、相変わらず、変わらぬのう。まあ、酒を出したら芙和のやつが怒るからの、茶の一杯くらいは付き合ってくれ」


「それならいつでも喜んで」


 宵太はにっこりと笑いながら、芝刈の差し出す湯飲みを手に取る。受け取ったお茶には茶柱が立っていた。宵太は一口飲んでから、話し始めた。


「それで、本題なんですが」


「結婚なら許すぞ」


「いや、いきなりすぎますし、しかも許可しちゃうんですね!そりゃあ、いつかはしたいと思いますが、今日は違いますよ」


「いやあ、お主と話すと楽しいわい」


 豪快に笑いながらお茶菓子をつまむ芝刈。宵太は一呼吸置いてから、改めて話し始めた。


「今日は、僕が泊まりに来ることに対しての許可と」


「許す」


「芙和を家に泊めることの許可を」


「許す」


「もらいたいと思い来ました」


「許す」


「……簡潔でとてもわかり易いお返事ですね。とても感謝します」


「お主たちの恋路を邪魔しても面白くないからのう。お主たちは好き合って付き合っているのじゃから、周りが野暮な口を出す必要は皆無じゃ。お主らが良くするか、悪くするかは自由じゃ。周りが下手に惑わせて、悪い方向にいってしまったら不本意であろう?じゃが、しかし、お主らが真剣に助言を乞うならば、儂らはそれに全身全霊全力を以って応えてやる。それをどう扱うのかも、お主ら次第になるのじゃが、儂は信じておる。芙和を幸せにしてやってくれ。儂は喜んで嫁に出す」


「いや、ですから、今日は結婚のお話ではなく、お泊りの話しですからね?結婚の話はまた日を改めてから話したいと思っています」


「宵太くんよ」


「はい」


「お主が芙和と夫婦になるのは、もちろん喜ばしいことじゃ。しかし、儂は同時に心配でもある。お主は生き急いでおらぬか?いや、それとも、死に急いでいるのかもしれぬのう。芙和を想ってくれる気持ちに、嘘偽りは無いのじゃろうが、あまり答えを急ぐようなことはせんでくれ。やりたいこと、やるべきこと、やり遂げたいこと、やり遂げるべきことを、しっかりと満足するまでやった後、自分に嘘を吐かず、誤魔化さずに答えを出してくれよ」


 一口お茶を啜り、わっはっはと豪快に笑いながら芝刈は宵太の肩を叩いた。


「儂は宵太くんを気に入っとるということじゃ」


「ありがとうございます。僕も芝爺さんのことが好きですよ」


「儂に惚れるなよ?わっはっは、まあ、今日は家に泊まっていくがよい。そういうことじゃ、芙和。夕食の用意は三人分じゃ」


 と、芝刈は障子の外に向かって言うとすぐに開き、芙和が申し訳なさそうな顔でいた。


「我が孫ながら、盗み聞きとは感心できぬが、宵太くんよ、愛されとるのう」


 そう、嬉しそうに呟いた。

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