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第五章 ◇四頁◇


「みーやーなーぎー先輩ー!確かに僕は緊縛願望が有りますし、公開羞恥ですら受け入れられますが、さすがにこれは厳しいですよ」


「うるさいぞ。黙って歩くんだ」


「でも、両手が不自由な状態で、しかも上半身もぐるぐるに縛られていると、非常に歩きにくいんですよ」


「それは冷が悪い。自業自得の結果だろう?」


「僕は単に御柳先輩の妹様をぎゅうっと抱きしめようとしただけですよ」


「下心が有ると知っていて許すか!」


 そう言うと、宵太は冷に繋がる紐をぐいっと引っ張った。冷は転ばないようにバランスを取ろうとしたが、失敗して転倒。危うくアスファルトに顔面を打ち付けそうになったが、何とか回避して仰向けになった。


「御柳先輩、もうこのまま引きずって木薙先輩の家までお願いしますよ」


「お、あんなところに宅配業者の車が。あれに縛れば早く移動できそうだな」


「ごめんなさい、ごめんなさい!自分で歩くので車に繋がないでください!今はたとえ小説や漫画、アニメのコメディでもそういうのは規制されがちなんですから!《良い子は真似しないでね》なんて表示を出しても、真似する子は真似するんですから!御柳先輩、聞いてくださいって!僕が必死に訴えていますよー!」


 冷は必死に喋りながら、まるで活きの良い魚のようにもがいていた。宵太は意地悪そうに笑いながら「冗談だ」と言うと、縛っていた紐を解いた。


「危うくデッドレースに繰り出すところでしたよ。むしろ、地獄の門をノックしかけていましたね」


「なんだ、冷は地獄逝きなのか?」


「僕のような変態が天国に逝ってしまったら、天国なのに地獄絵図になりますよ」


「自覚しているんだな。それにしても、今のは別に上手くないぞ」


「いやー、さすがは御柳先輩だ。相変わらず手厳しいです」


「お前は相変わらず、変わらないよ」


 紐を解かれ自由になった冷は、太陽が照り付けて暑いというのに、宵太に抱き着いた。

 それを軽く受け流しながら歩いていると、不意に背後から声をかけられた。


「宵太んくん」


 声の方を振り返ると、誰もいなかった。不思議に思いながらも、宵太は正面を向こうとした。


「うわっ!」


「やっほ。宵太んくん」


 宵太が正面を向くと、先程の声の主、柊遠馬が厚手のコートを着て立っていた。ここまでの道程の中で依奈とゆかりが遭遇したということだ。


「あれ?遠馬くんか?懐かしいな」


「覚えていてくれて嬉しいよ。あ、そうそう。聞きたいことがあるんだけれど、良いかな?」


「もちろん良いよ。僕に答えられることなら、ね」


「その前に御柳先輩」


 すっ、と冷が腕を伸ばし間に入る感じになりながら、遠馬をじっと見つめながら聞いた。


「この方とは、どのようなご関係ですか?」


「遠馬くんは近馬の双子の兄だよ」


「柊先輩が双子だなんて初耳ですね。僕は変な勘違いをするところでした」


「……その内容は聞かないでおくよ」


 今度はじろりと冷を見ていた遠馬が質問をした。


「キミは宵太んくんとは、どういう関係?」


「もちろん、恋人関係です」


「違うだろ!ただの先輩と後輩だ!」


「そう。先輩と後輩のラブストーリー」


「それは最高だな。しかし、男女の話だったらな!」


「俺がこの町を離れている間に、宵太んくんがそんなキャラになっていたとは」


「遠馬くんも信じるなよ!」


「嘘だよ。信じていないって、そんなこと。えーっと……後輩ってことは比名麦冷後輩くんかな?」


 頭に手を当てながら、遠馬は記憶を探るように言った。うーん、と唸りながら頭を指先でとんとん、と数回叩いて言葉を繋げる。


「小さい頃に親を亡くして施設で育ったんだよね?高校生になると同時に一人暮らしを許され、実家へと戻った。あー、とその前に一度だけ施設から逃げ出したね?まあ、宵太んくんたちに保護されたらしいけれど、そこからの付き合いってわけだ。その金色のメッシュは、一緒に住んでいる人の影響、だったかな?」


 冷は驚きの表情を浮かべていた。宵太の方はたいしたリアクションも無く、「相変わらず、変わらないね」とだけ言った。


「突然驚かせて悪い。俺は人の情報を収集するのが趣味なんだ。嘘だけど。まあ、いろいろとキミたちのことは知っているよ。そういえば、さっきは綾杉依奈ちゃんとメイドのゆかりんさんにも会ったなあ。その時は宵太んくんを探していたから、挨拶もろくに出来なかったよ」


「御柳先輩」


 冷は驚きの表情を浮かべたまま、宵太の方を振り返り聞いた。


「この方、柊先輩のお兄様はストーカーなのですか?」


「それは冷だ」


「確かに僕はそうですけれど、でも、ここまで詳しい情報を集めるなんて、簡単じゃないんですよ?」


「いろいろとツッコミたいけれど、遠馬くんはストーカーじゃないよ。一言で説明するなら……最強、かな?」


 冷は難しい顔をしながら、渋々納得したようだった。


「で、宵太んくん。俺が聞きたいのは近馬の居場所なんだ。そろそろあいつも亡くならせてしまおうと思ってさ。嘘だけど。単純に挨拶をしようと思って」


「近馬なら真人のところだと思うよ。場所は知っているかな?」


「真人、真人……あー、叔父さんのところか。それは盲点だったなあ。他の場所を回ってしまったよ。叔父さんのところならコーヒーでも飲みながら、ゆっくり話せるな」


「遠馬くん、近馬のところに依奈がいると思うけれど、あんまりからかわないでやってくれよ。あいつは単純だからすぐに噛み付くから。比喩表現じゃなくて、本当に噛むからね」


「あい、了解。でも、宵太んくんはいつもからかうのに、それをだめだと言われたら、やりたくなっちゃうな。嘘だけど。まあ、とりあえず、近馬に挨拶したらこの町から消えるかもしれないけれど、俺のことは気にせずに日常を生きてくれ」


「うん。遠馬くんも無茶はしないようにね」


「もちろん、無茶はしないよ」


 嘘だけど、と付け加えながら遠馬は、近馬と真人が居る喫茶店ホーリーへと向かって行った。


「柊先輩に似ているようで、全然別者ですね」


「と言うよりは別格なんだよ」


「別格、ですか。そうだ、御柳先輩。柊先輩のお兄様は何故この暑い中、厚手のコートを着ているんですか?」


「今度本人に会った時に直接聞きな」


 宵太はそう言うと、恋人である芙和の家へ向かって行った。

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