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第五章 ◆三頁◆


「柊くんのお兄さんが……犯人?」


「いや、容疑者だ。まあ、犯人といっても変わりは無いかもしれない。俺は目の前で見たしな」


 内容は重い話なのに、近馬は軽く言う。


「両親が目の前で殺された時に俺は思ったよ。ああ、やっぱり俺は変人なんだ、ってな。目の前の光景に動揺しなかったんだ、まったくな」


「では、近馬さんのお兄さんはどうして捕まっていないのですか?」


「行方不明扱いだからな。俺も居場所は知らないし。でも、綾杉とゆかりんが見たのなら、遠馬が本当に帰ってきたんだろ」


「何か目的があるとかですか?例えば近馬さんに会いに来たとか」


「それは、わからないさ。俺に用があるのか、別の人間に用があるのか。もしかしたら、オーナー殺害も遠馬かもしれない。通り魔の噂も遠馬かもしれない」


「通り魔の方は遠馬くんではないよ」


 近馬がいつもと変わらない口調で次々と話していたが、真人に遮られた。こちらはいつもと変わらないとはいえなかった。


「遠馬くんが帰ってきたのは、おそらく昨日か一昨日だ。通り魔の噂は二週間以上前から聞いていたからね」


「オーナーの件は可能性があるんだな。まあ、そのうち俺か真人に会いに来るだろうから、わざわざこっちから探す必要も無いし、探す気も無い」


 依奈は近馬の話を聞いて怖くなっていた。近馬のことを嫌いになるわけがないのだが、それでも怖くなっていた。近馬本人ではなく、柊遠馬という人間の存在が怖かった。

 もしかしたら、近馬も殺されるかもしれない。

 そんな風に考えてしまい、近馬の服をぎゅっと掴んだ。


「綾杉、どうした?」


「柊くんは……うちの前から急にいなくなったりしないでくださいね」


「当たり前だ。俺だって綾杉と一緒にいたいからな」


 自分の親のように急にいなくならないでほしい、それを依奈は強く思っていた。


 場所は移り、御柳家。

 宵太は休みということで昼まで眠っていた。いや、正しくは昼に無理矢理起こされた。彼の訪問によって。


「いやあ、気持ち良さそうに眠っていたところ、申し訳ないですね、御柳先輩」


「本当にそう思うのなら優しく起こしてくれ」


 冷は部屋に入ると同時にダッシュ、宵太のベッドにダイブ。それにより、宵太は何かの必殺技を喰らったかのように跳び起きたのだ。


「で、冷は何の用だ?自宅待機のはずだろ?」


「御柳先輩、今時の高校生がそのような束縛に耐えられるわけがないですよ。まあ、僕のような健全な高校生は緊縛をされるというのなら、おとなしく従いますがね。むしろ、希望しますね!」


「冷は不健全な高校生だろ?いや、道は踏み外してはいるが、ある意味健全なのかもしれないな。自分に正直すぎるし」


「とは言っても、僕はまだ童貞ですが。さすがに軽々しく出来ないですし、避妊もきちんとしますよ」


「そんな話を寝起きにするなよ……」


 宵太はげんなりとうなだれながら言った。それでも、冷は楽しそうだった。


「あ、そうそう」


と、ここで冷は思い出したように、先程の質問に答える。


「緋鳥先生からの伝言ですよ」


「伝言?」


 宵太が聞き返すと、冷は「はい」と頷き、こほんと一度咳ばらいをして、再度話し始めた。


「依奈はどうせ近馬のところにでも行くだろうから心配はいらねぇ。美恵留も家が隣だし、部屋は冷の部屋から行ける程。つーか、こいつらは毎日のように行き来しているから、こっちの二人も心配いらねぇ。だが、芙和だけは素直にてめぇのところに行くとも思えねぇし、依奈のところに行くなんて野暮なことも考えねぇ。だから宵太、てめぇが芙和のところに行け。結果的にどっちの家に泊まることになっても構わねぇから、一人にだけはなるな。唯がオーナーを引き継ぐ手続きを終わらせたら、学校はまた始まる。それまで一人になるな。死にてぇなら止めはしねぇけど、俺様から言えるのはそれだけだ」


 冷は、まるで七士のような声でそれを話した。その行為に宵太は素直に驚いていた。


「どうですか?」


「いつの間に声帯模写なんて身につけたんだ?」


「暇潰しに覚えたんですよ。といっても、まだ緋鳥先生しか出来ないですが。それに、似ているだけなので、まだ物真似の域ですよ」


「それでも、十二分にすごいけどな」


「それで、木薙先輩の家に行くんですよね?」


「まあ、七士さんがわざわざ言うくらいだしな。着替えたらすぐに行くよ」


「それなら、僕も行って良いですか?」


「どうして?」


「木薙先輩の巫女服姿を拝見したいのですよ!」


「動機が不純だが……まあ、良いよ。先に言っておくが、巫女服とは限らないからな」


「大丈夫です。私服でもパジャマでもきちんと萌えますから!」


 宵太は呆れながら溜息を吐き、「相変わらず、変わらない後輩だ」と呟きながら着替えを始める。


「なあ、冷?」


 宵太はTシャツを着ながら疑問に思ったことを聞いてみた。


「七士さんからの伝言さ、メールとか電話じゃだめだったのか?」


「いえ、単に僕の特技をお見せしたかっただけです。あとは、あわよくば木薙先輩の家に行けるかと思って」


「一人で来て平気なのか?」


「まだ昼間ですからね。夜が危ないらしいですよ」


「夜か……まるで、幽霊や妖怪みたいだな」


 《幽霊》という言葉を自分で口にして、頭の中に自分の書いた小説を思い浮かべる宵太。

 まさか、な。

 そんな風に非日常的なことを考えながら、着替えを続けた。


「宵兄ー、起きたー?」


 着替え終わったところで、姉を連れた黄泉が部屋の入口から覗き込んだ。


「あれ?黄泉は今日、学校があるだろう?」


「何言っているの、宵兄。今日は学校お休みだよ。記念日だからね」


「創立記念日って、今日だっけ?」


「違うよー。《宵兄がお休み記念日》なのだ」


「それは、サボりというんだよ。おい、夜凪。どうして、実の妹がサボタージュするのを許可した?」


 それに、おろおろとする夜凪。こういうところは実に子供っぽい。


「情けない話じゃが、妹ちゃんの可愛さに負けたのじゃ……」


「僕も先輩の妹様の可愛さには負けました!」


「ありがとう、冷お兄ちゃん」


「ぐはっ……御柳先輩、今『お兄ちゃん』と呼ばれてしまいました……僕はもう死ねますよ……」


「……なんか、怒る気も失せるな」


 宵太は溜息を吐きながら言った。

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