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第五章 ◆一頁◆


 ペア鬼ごっこは間に休みを挟みながらも、二日目、三日目、四日目と、無事に逃げ切ったミステリアス研究会のメンバー。四日目の終わりには既に残った生徒も少なく、全校生徒の一割にも満たなかった。

 そして、五日目を迎えた朝に《それ》は起きた。まるで、日常を足元から崩すような、非日常とも思える光景。それとも、これは奇異日常と言えるのかもしれなかった。

 ただ、そんなことはどちらでも良く、どちらでも変わらず、どちらだろうと同じ。《それ》の事実が変わることは無いのだから。

 日常だろうと。

 非日常だろうと。

 奇異日常だろうと。

 変わることの無い事実。

 相変わらず、変わらない、そんなことは言えるはずもなく、六人は《それ》を目撃した。


「ねぇ……これも宵太の小説オチとかじゃないんだよね?」


「違うよ、芙和。これは……紛れも無く現実だ」


「あぅ……あぅ……」


「綾杉、それ以上見るな。俺の背中に隠れるでも良い、見るな」


「このお爺さんは……いったい誰なんですか?」


「冷は一年生の上に保健室登校だから見たことが無いんだねぇ。この人こそ私立太刀守高校の――」


「御祖父様!御祖父様ー!どうして……どうして御祖父様が!」


 生徒たちの注目を集める《それ》とは、私立太刀守高校のオーナーだった。おそらく、誰が見ても既に死んでいることがわかる有様だった。中庭に植えてある、立派なけやきの樹に、身体の中央に刺さっている杭で打ち付けられていたのだ。


「お嬢様、落ち着いてください!只今、警察と救急車を呼びました故、我々が下手に手を出さない方がよろしいかと……」


「だって、御祖父様が……」


 そう言ってお嬢様の唯はその場に泣き崩れた。入と出は動こうとしないお嬢様を抱えて、どこかに行ってしまった。

 依奈の気分が悪くなった為、六人は保健室へと向かった。保健室にはスーツに白衣を羽織る、いつもと変わらない七士がいた。しかし、それだけでは日常とは言えない。


「よう、てめぇらも見たみてぇだな。なんだ?依奈の顔色が悪いな。まあ、あんなものを見ちまったら無理も無ぇな」


 近馬は依奈をベッドに運び、その横の椅子に座った。冷はいつものベッドに座り、美恵留も一緒に座る。宵太と芙和はソファに座り、宵太は七士に質問した。


「七士さん、やっぱりオーナーは……」


「死んでいるな。誰がどう見ても生きているわけが無ぇ。誰が第一発見者かは知らねぇけれどよ、あそこなら誰にでも見つけられるぜ。何せ廊下を歩いていりゃあ目に付くからな。犯人は隠す気は無いんだろうよ」


「犯人、だと?」


 近馬が聞くと、七士はふん、と鼻で笑いながら更に言葉を続ける。


「自分の身体に杭を打ち付けるなんて、人間には無理だ。まあ、あの爺さんが既に妖怪だったっていうなら話は別だけれどよ。かなり高齢のくせに、現役でオーナーを勤めていたからな」


「七士先生……不謹慎ですよ」


「うるせぇよ、芙和。俺様は死人に気を遣うような人間じゃ無ぇ。生きていようが、死んでいようが、好き嫌いは変わらねぇ。死んじまったやつに『良い人だった、優しい人だった』なんてことは言わねぇ。死んだら全ての人間が二階級特進か?そんなわけ無ぇだろ。俺様は生きていようが、死んでいようが悪態をつくのに変わりは無ぇ」


「言い方の問題なんだよ、緋鳥。あんたの言い分だと、ここにいるあたしたちには気を遣えるんじゃないのかい?」


「ちっ!悪かったよ」


 ガタン、と机の上に乱暴に足を乗せる七士。彼も相当苛立っているらしい。言葉の上では悪態をついているが、それは単にやり場の無い怒りの成れの果てなのだ。


「緋鳥先生、学校はしばらく閉鎖ですか?」


「だろうな。まあ、てめぇは同じ家に住むから、わざわざ言う必要は無ぇが、他のやつらは相談したくなったら来いよ。といっても、あの家は冷のであって俺様のでは無ぇがな」


 その後、警察が来ると生徒と教師は一人残らず例外無く、唯や黒服二人も含めて事情聴取を受けた。人数が人数なので、結局帰れたのは夕方になってからだった。

 六人が校門に向かうと、そこには唯が立っていた。六人が近づくのを待って、唯は複雑な表情のまま口を開いた。


「体育祭の期間中でしたのに申し訳ありません。これでは続行不可なので、あなたたちを含めた残った生徒には賞品を用意致します。何か希望するものはありますか?」


 実の祖父を亡くしたというのに、唯は約束を守ろうとしていた。六人は顔を見合わせながら、どう反応して良いのか迷っていた。

 すると、依奈が思い切ったように言葉を口にした。


「唯ちゃんがオーナーを継ぐことを希望します」


 それは返答を聞くのが怖くなる言葉だった。もしかしたら、怒らせるかもしれない。もしかしたら、泣かせてしまうかもしれない。いろんな不安を覚悟しながらの言葉だった。


「あ……りがとう……ございます」


 泣かせてしまった。しかし、その涙は悲しみの涙ではなかった。唯は嬉しくて泣いていた。そんなお嬢様を出が優しく支え、入は六人に向かって頭を下げながら話した。


「他の生徒様からも同じようなことを言われたのですが、しかし、迷っていたお嬢様は、あなたたちの意見も聞きたいとおっしゃいました。あなたたちもそれを望むのなら決意を固める、と。我々身内からは言い出せないことだった故、我々からも感謝致します」


 深々と頭を下げる黒服二人に戸惑いながら、依奈は唯に向かって言う。


「唯ちゃん、何を言えば良いかはわからないですけど、でも、独りで泣くのは良くないです」


「綾杉の言う通りだな。天上院の側には必ず誰かいる、これだけは忘れるなよ」


 唯は泣きながらもこくり、と頷くと車に乗り込み、走り去っていった。

 六人はそれを見送りながら、自分たちの日常が崩れたことを実感していた。しかし、時の流れによって日常へと書き換えられてしまう。だが、今現在においては非日常、もしくは奇異日常なのだ。変わることのない事実であり、変えることの出来ない事実。


「帰ろう」


誰かが言ったその言葉で、相変わらず、変わらない組み合わせで帰っていった。

 口数も少なく帰った六人の日常は、変わらぬ日常とは言えなくなってしまった。しかし、それでも時の流れで、すぐに日常へと書き換えられてしまう。

 今が非日常だとしても。

 今が奇異日常だとしても。

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