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第一章 ◇四頁◇


振り返った宵太と芙和に、ひらひらと手を振りながら天は近付いていった。

ちなみにだが、芙和は天を見たと同時に繋いでいた手を離していた。


「おっさんは相変わらず、変わらないな。背後からいきなり話しかける癖を直さないと、いつまで経っても芙和から苦手に思われるぞ。つーか、嫌われ始めているんじゃないか?」


「あれれ?ぼくって芙和ちゃんに嫌われていたのかい?がっかりだなあ。ぼくは芙和ちゃんのこと好きなんだけれどねぇ。おっと、そんな目で睨まないでくれよ、芙和ちゃん。ぼくの軽口なんかそこら辺に流しちゃってくれればそれで良いのに。」


「え?天さんを流しても良いんですか?島流しを望んでいるということで良いんですよね?」


「ぼくはそんなこと言ってないんだけれどなあ。それに、ぼくは既に島流し以上の経験をしているんだからさ。時代流し、かな?芙和ちゃんたちには話しているんだから、そういった冗談にならない冗談は止めてくれよ。ぼくでも少しは傷付いちゃうんだからね?」


「天さんは一度、本当の意味で滅多刺しにされた方が良いと、私は思いますよ。」


「まったく、芙和ちゃんは怖くて恐くて仕方がないなあ。それが芙和ちゃんの良いところでもあるとぼくは思うのだけれど、それが通じる相手が少ないっていうのは悲しいよね。」


「私は大事な人さえ理解してくれれば、それでいいですから。」


「それはつまり宵太くんとかかな?あはは、図星のようだね。可愛い顔が真っ赤になっちゃって更に可愛いねぇ。宵太くんの背中に隠れちゃうところなんて、ますます可愛いじゃないか。まあ、芙和ちゃんで遊ぶのもそろそろ止めにしないと今度は宵太くんに怒られちゃうね。じゃあ、本題に入ろうか。もう一度聞くことになるけれど、ぼくの曾孫である美恵留ちゃんは元気にしているかい?」


天の言葉の通り、自分の背中に隠れている赤面した芙和を横目に見て、宵太は天の方に目を向けた。


「芙和の可愛らしい反応を見れたことで、今のやり取りは許すけれど、本題に入るまでが長すぎるよ。何が『将来のある学生諸君の貴重な時間を浪費する趣味の無い』だよ。おっさんの台詞は一回一回が長すぎるんだよ。十分に浪費していることを少しは自覚してくれ。」


「それは悪かったね。それなら前言撤回しようかな。『ぼくは将来のある学生諸君の貴重な時間を浪費する趣味しか無い!』で、どうだろうか?」


「悪趣味すぎるだろ!」


天里天という人間は、かなり饒舌多弁な人間なのだ。

呼吸無しで一文を読み上げているように喋る。


「まあ、本題に戻すけれど、僕から見れば天里は元気だよ。むしろ、元気すぎるぐらいに暴れているよ。」


主に冷や麦相手にな、と宵太は付け加えた。

それを聞いて満足そうに天は頷き、笑顔で何処かへ歩いていった。

聞きたいことを聞いたらすぐに別れる、それが天の主義なのだ。

だらだらと話すのは本題に入る前だけ、本題の後は何も話さない。

饒舌多弁な天だからこそ、区切りはしっかりと区別する。


「いつまで怒っているんだ?おっさんは帰ったんだから機嫌直してくれよ、芙和。」


「………怒ってないもん。」


明らかに機嫌の悪い芙和の手を引きながら、宵太が困ったような顔で言う。


「僕としてはいつでも甘えてくれて構わないんだけれど、芙和はどうして、そこまでして拒むんだ?」


「何度も言っているでしょう?………恥ずかしいの。」


「何度も聞いているけれど、それを聞く度に思うんだ。その台詞を言っている時の芙和って、超絶可愛いんだよね。」


「………ばーか。」


照れつつも宵太の隣に並び、引かれていた手を繋ぎ直し歩く芙和。

まだ軽くだが顔は赤かったが、機嫌はどうやら直ったらしい。

その後は芙和を無事に家へと送り、宵太は自分の家へと向かっていった。

宵太の家は芙和とは逆方向なのだが、ほぼ毎日宵太は芙和を家へ送ってから帰っている。

同じく近馬も依奈を送ってから帰っている。

しつこいようだが、近馬と依奈は付き合っていないので、あしからず!


「ただいま。」


宵太が家へ着き、気の無い声でいつも通り帰宅の挨拶をしながら玄関の扉を開けた。


「おかえり、宵兄ー!」


直後、女の子―――御柳黄泉(みやなぎ よみ)が抱き着きながら兄である宵太を迎えた。

宵太はいつも通り黄泉を抱えたまま靴を脱ぎ居間ヘと向かい、黄泉をソファに座らせた。

そして、手を洗ってから居間へ戻り、黄泉の隣に座った。


「ねぇねぇ、宵兄ー。こっち向いてー。」


「どうした?」


ちゅう。


「はい、『おかえり』のちゅー。」


「相変わらず、変わらないな。つーか、そろそろ変われよ………小学生高学年の女の子が兄の唇にちゅーとか、ロリ向けの漫画ぐらいでしか見ないって。だいたい、恥ずかしくないのか?」


「よみは恥ずかしくないもんねー。宵兄には彼女がいるけれど、それもよみには関係無いもんねー。」


にっこりとまるで悪意の欠片も無いような無邪気な笑顔で黄泉は答えた。

宵太は溜息を吐きながら、


「相変わらず、変わらないな。」


と、もう一度呟いた。


「やれやれ、弟くんは妹ちゃんに愛されているというのに、いつまで経ってもそれを理解しようとしないのぅ。まったく、罰当たりな奴じゃのぅ。」


壁に寄り掛かる着物姿の女性―――御柳夜凪(みやなぎ やなぎ)が古めかしい口調で言った。


「生憎、僕には黄泉の愛情を受けきる程の器量は持ち合わせていないんだ。つーか、夜凪はただ単に僕に嫉妬しているだけなんだろ?」


「ち、違うわ!儂は別に妹ちゃんにもっと好かれたいとか、思っておらんもん!」


これ以上に無いくらいわかりやすい反応だった。

別に黄泉は夜凪のこともそれなりに好きではあるのだが、宵太に対するそれに比べると、どうしても劣ってしまうのだ。


「よみは夜凪ちゃんのことも好きだよー。だから宵兄に嫉妬しちゃだめだよー。」


「そう言うんじゃったら、弟くんだけじゃ無く、儂にも抱き着いてくれるか?」


「んー、それとこれとは別だよー。」


黄泉は見せ付けるように、宵太に再び抱き着いた。


「ずるいぞ、弟くんばっかり!儂にも抱き着いてくれたって良いじゃろう!」


「夜凪ちゃんは大人なんだからわがまま言っちゃだめー。よみはまだ子供だから良いんだもんねー。」


「相変わらず、変わらないな………」


宵太は溜息を吐きつつ、もう一度呟いた。

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