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第三章 ◆十一頁◆


「告白?そんなの自分一人で出来るじゃないか」


 そんな風にもっともな意見だが、思いやりの欠片もない台詞を口にしたのは美恵留だった。言われた本人である女子生徒は驚いている。まあ、仕方のないことだろう。相談に来たはずなのに、いきなり辛辣な言葉を浴びせられたのだ。それにしても、この女子生徒を何処かで見たような気がする。


「そ、それが出来るのなら苦労しないわよ!一人で出来ないから力を貸してほしいの!」


「別に力を貸すのは良いんだけれどねぇ、それであんたは満足するのかい?あたしは一人でやるからこそ意味があると思うんだよねぇ」


 すっげぇまともな意見に僕は驚いた。それに美恵留がここまで積極的に意見を言うなんて、珍しいにも程がある。いつもなら退屈そうに聞いているだけなのに。


「いいから力を貸しなさいよ!告白なんてしたことなくて、困っているのよ!」


「それは単に甘えてるだけだねぇ。誰もが初めての時は困惑するよ。でもねぇ、それを自分で乗り越えていかないといけないんだよ。あたしたちが力を貸してやれるのは、あんたの告白の練習ぐらいだねぇ。どうかな?冷を練習台に今やってみなよ」


「い、いえ!冷さ――あ、いえ、その方以外でお願いしたいのですが……」


 あ、あー、わかった。この女子生徒はお嬢様が変装しているのか。お嬢様、天上院唯と分かっていたから美恵留は多弁になっていたのか。知りつつも冷を選ぶとは相変わらず、変わらないな。


「僕って嫌われ者?」


 そして素直に落ち込むやつが一名。正直なのも考えようだな、まったく。


「冷、気にするなよ。たぶんあの子は冷を気遣ってくれているんだよ。ほら、僕たち以外と関わらないから、対人恐怖症だと思われているんじゃないかな?」


「あの人ってタイ人なんですか?てっきり日本人だと思ってました」


「いや、タイ人恐怖症じゃなくて、対人恐怖症だからな!なんだよ、そのマニアックな病気は!」


「あー、対人でしたか。びっくりしましたよ、御柳先輩」


 この後輩はばかだな。ばかと正直を兼ね備えた、ある意味でばか正直だ。まあ、とりあえず僕のフォローで冷の心は傷つかなかったので良しとしよう。


「えっと、お相手の方ですが、そちらの方にお願いできますか?」


 お嬢様が指名したのは僕――でわなく、近馬だった。もちろんそれを黙って受け入れない人間が一名。当然、依奈のことだ。


「うちは絶対に反対ですよ!練習とはいえ、柊くんを相手にするなんて……うちが告白した時はぶつかっていきましたよ。練習なんてする必要はないんですから。いや、練習したって変わらないです。その時になればわかりますが、告白の瞬間って自分の心臓が抑えられないんですよ。どきどきして、破裂しそうなぐらいです。相手にも聞こえるんじゃないかなってぐらいですよ。考えられますか?あなたにも出来ます!だから今すぐ行きましょう!」


「おい、依奈。早まるなよ。勝手に話を進めて混乱させるな」


「だってこのままだと柊くんが……」


「近馬は大丈夫だから。近馬はそれぐらいで心変わりするようなやつじゃない。そんなことぐらいわかるだろう?」


「うぅ……不覚にも御柳くんに説得されてしまいました」


 依奈が落ち着いたところで話を戻すか。


「で、近馬が相手なら出来るのか?」


「は、はい……たぶん」


「俺も相手役を努めようじゃないか」


「じゃあ、早速やってみなよ」


 近馬が席から立ち上がり、お嬢様と向かい合う。お嬢様というと、先程までは自信が全くない感じだったが、今では普段通りの顔付きになっていた。とはいえ、変装中なので違和感たっぷりだ。


「私とお付き合いしなさい!」


「ごめんなさい」


「なっ、何がだめなのよ!」


「言い方だな。上から目線だし、偉そうなのが気に喰わないな」


 おぉ、ばっさりだな。お嬢様と知らないとはいえ、いや、知っていたとしても近馬ははっきり言うな。お嬢様の方は予想外の反応に顔が引き攣っている。

 このままでは正体がばれそうなので、選手交代で僕登場。


「わ、私と付き合いなさ……じゃなくて、付き合いませんか?」


「ごめんなさい」


「またなの?何がだめなのよ!」


「上手くは言えないけれど、心に響かないんだよなあ。もっと、個性的で情熱的な感じで言ってみなよ」


「御柳くん、気持ち悪いです」


「うるさいぞ」


 僕としては少し楽しんでいるんだ。あんな高飛車のお嬢様が、変装してまで僕たちに助けを求めているんだ。まあ、僕と美恵留にはばれちゃったけど、他の人が知らないうちは演じ続けるしかないから、これは楽しむしかないよ。


「私と付き合ってほしいにゃ」


「ごめんなさい」


「あんたのことが好き!いや、嫌い!大嫌い!二回死ね!」


「ごめんなさい」


「あなたが好きだからー」


「ごめんなさい」


「私が付き合ってあげると言っているの。光栄に思いなさい」


「ごめんなさい」


「あんたと付き合える人間なんて、私ぐらいしかいないんだからね!」


「ごめんなさい」


そろそろ限界かな?

 僕が十分に楽しんだところで真打ち登場。やはり、冷本人に言うのが一番だろう。


「えっと……僕は先程拒否されましたけど」


「いいから相手役をやってあげなよ。あんたも別に良いよねぇ?」


 美恵留が意地悪そうにお嬢様に聞く。うん、僕も楽しんでいたが、一番楽しんでいるのは美恵留だな。


「わ、わかったわよ!」


 冷とお嬢様が向かい合った。どうするんだろう?素直に想いを伝えるのかな?それとも、恥ずかしさのあまり暴走するのかな?


「あ、あなたのことが好きです……あなたさえ良ければ、その……私とお付き合いしていただけませんか?」


 素直に想いを伝えた。とても真剣な想いだった。冷は少しの沈黙のあと、それの答えを出した。


「良いですよ」


「え?じゃ、じゃあ――」


「はい、その調子で実際に告白すれば良いと思います。今までで一番素直な言葉だったんじゃないかと思います。飾らずに想いをそのまま伝えてください」


「え?えっと……」


「僕も先輩たちも応援していますから。良い結果になることを祈っていますよ」


 さすがは冷だ。凄く良い笑顔で、凄く残酷な仕打ちをしている。お嬢様と気付いていないからこその行動だけれど、それにしても恵まれないというか、不憫なお嬢様だな。

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