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第三章 ◇十頁◇


 午後の授業を終えて、生徒がそれぞれの部活に向かう中、僕は芙和に捕まっていた。


「もう勝手な行動は許さないんだからね、ばか宵太」


 どうやら、まだ昼休みのことを怒っているらしい。誘拐されたのは不可抗力なのになあ。まあ、クラスメイトがいる前で抱きしめたのは確かに僕が原因だけれど、でも平手打ちで怯んだところに腕ひしぎ十字固めはやりすぎだと思った。


「だからって、ここまでやる必要があるのか?」


「当然でしょ?」


 さも当たり前のように言っているが、今の状況を説明すると、僕の両手首は縛られている。そして、そこに繋げた紐を芙和が持っていると、文字通り捕まっているのだ。


「こんなことしなくても、単に手を繋いだり、腕を組めばいいじゃないか」


「え?腕ひしぎ十字固めのリクエスト?」


「違うって!つーか、そういうキャラは美恵留のはずだろ?」


「うん、天里さんにいろいろ教えてもらったからね。他にも技があるけれど、やってみようか?」


「その言い方の可愛さに了承してしまいそうになるけど、絶対に嫌だからな」


 まったく、美恵留のやつめ。芙和にそんなことを教えたら、キャラ被りが発生してしまうじゃないか!自分の存在を消す気か?まあ、どうせ『最低限の防衛術ぐらいは覚えておいた方が良いよ』とか、そういう理由だろうけれど。


「じゃあ、仕方ないから宵太にだけ本音を教えてあげるよ」


 そう言うと芙和は僕の耳元に口を近づけた。わざわざ耳元で言わなくても、他の生徒はとっくに部活に行ってしまったので僕たちしかいない。


「かぷ」


噛まれた。


「痛ってぇ!」


「甘噛みしただけでそこまで騒がないでよね」


「八重歯でやったら、甘噛みでも痛いだろ!」


「せっかく二人きりなのに雰囲気が台無しになっちゃった」


 あーあ、と溜息混じりに言いながら、芙和は近くの机に寄り掛かった。

 そりゃあ、僕だって男の子ですし、近寄り難い雰囲気があるとはいえ芙和は綺麗だ。長い黒髪からはシャンプーの良い香りがするし、欠点といえば性格ぐらいだろう。


「宵太、どうしたの?あ、間違えた。ばか宵太、どうしたの?」


「……いや、いつになったら僕を自由にしてくれるのかな、と」


「そんなの決まっているじゃない」


にこっと笑いながら悪魔の囁き。


「死んだ時だよ」


 少しだけ背筋が寒くなった気がした。

 性格に難があるとはいえ、それはツン状態の時だけだ。デレ状態になれば180度どころか、一周半の540度は性格が変わる。僕としてはどちらの性格も好きだから構わないんだけれど。


「じゃあ、部室に行こうか」


「その前に僕のことを解放してくれよ。芙和から離れないからさ」


「んー、まあいいか。変な勘違いをされても私が困るしね」


「僕は困らないとでも?」


「宵太は喜ぶでしょ?そういう噂が流れているけど」


「そんな不本意な噂を流したのは誰だ!」


「私だよ」


「僕は明日から何を信じていけば……」


「冗談だよ、宵太」


 段々とデレ状態になってきた芙和は僕の頭をひと撫でして、両手首に縛った縄を解いてくれた。両手が自由になった僕は、先程までの仕返しも含めて芙和を抱き上げた。しかも、お姫様抱っこだ。


「ちょ、ちょっと宵太、降ろしてよ!」


「スカートを押さえていないと中が見えちゃうよ?」


「……むぅ」


これで両手を封じて一安心だ。


「これなら離れないでしょ?」


「で、でも……恥ずかしいじゃない……」


「大丈夫だって。部活で忙しくて、誰にも見られないよ」


「でも……重くない?」


 うわ、やっべぇ。超絶可愛いぞ、これ。


「重いわけないだろ」


「……それなら、このままでも良い……てゆうか、このままが良い……」


 本当にこの子は僕の心を鷲掴みにしてくるね!なんかもう、良い!萌え!蕩れ!最高!

 そんな感じで心踊りまくりな僕は、芙和を抱えたまま渡り廊下を通って部室へと向かった。その途中にまだ赤面したままの芙和が話しかけてきた。


「そういえば、私たちってデートとかしないよね?」


「そうだね、ほとんど毎日学校で会っているしね。土曜日とか日曜日でも授業が入ったりするわけだし」


 太刀守高校は校風自体は緩いのだが、授業に関してはとてもシビアだ。一週間のうちに進めるべき範囲が終わっていない場合、土日を使って埋めるのだ。ただし祝日は例外で確実に休みになるので、特に不満はない。


「だからね、今度の休みにデートしない?」


「へ?」


 突然の提案に僕の思考はしばらく停止。そして、再度作動したところで理解する。


「嫌……かな?」


「そんなわけないよ!是非お願い申し上げます!いやあ、楽しみで夜しか寝れないな!」


「それが普通なの。授業中に寝てるのは宵太だけだもん」


「うん、だからこれからは授業をちゃんと受けるよ」


「じゃあ、サボりもなるべくしないようにしてね?」


「うん、了解だ」


 さすが芙和だな。『なるべくしないように』ってところが良い。理解ある彼女がいる僕は幸せ者だな。

 A棟四階の一番奥にある、ミステリアス研究会の部室の前で、僕と芙和はいろいろ落ち着かせた。さすがに、顔を赤くしたまま入れないからな。

 ある程度落ち着いたところで扉を開け、中に入った。既に他の四人は揃っていて、例の六角形に並べた机の自分の位置に座っていた。しかし、他にも見知らぬ女子生徒が一人いた。


「宵太ん、活動依頼だぞ」


 近馬のその一言で、なんとなく状況が掴めた。つまり、この女子生徒はお客さんというわけだ。僕たちの部活、ミステリアス研究会の活動内容は《なんでも屋もどき》だ。生徒や教師、保護者を問わず依頼があればそれを聞き、対処する。もちろん、僕たちが全ての依頼を対処出来るわけがないので、出来ない場合は七士さんのカウンセリングを紹介したり、他の解決策を見つける。まあ、《気軽な相談処》と考えてくれれば良い。

 僕と芙和が席に座ったところで、依頼内容を聞くために近馬が口を開いた。


「気軽な感じで話してくれて良いからな。じゃあ、先ずは依頼内容を聞こうか」


「えっと……あのぅ……」


 すると、女子生徒が遠慮がちに質問した。


「学年とか名前は言わなくて良いの?」


「それを聞いても俺たちに意味は無いからな」


「そう。なら、単刀直入に言うわ。私、告白したいの」

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