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第三章 ◆五頁◆


 斗乃さんは時計を身につけていないのにも関わらず、時間は正確で、僕が教室に入って間もなくチャイムが鳴った。まさか、芙和との会話も想定していたのかな?

 そんなくだらないことを考えていると、隣の席に座る近馬が話しかけてきた。ちなみに、席は男女混同の出席番号順だ。


「おはよ、宵太ん。殿様と浮気か?」


 斗乃さま、転じて殿様ね。


「違うよ、芙和と同じこと言うなよな」


「あはは、冗談だって。でもさ、殿様ってまだここら辺にいたんだな」


 僕は無言で頭に疑問符を浮かべて近馬に続きを促す。


「なんかさ、この前俺が会った時に『じゃあね、柊近馬』って言われたんだ。いつもなら『失礼するさ』とか『また会えるまでね』とかだったから」


「そういえば、さっき斗乃さんは『じゃあね』って言っていたなあ……」


 まさか、本当にいなくなっちゃうのかな?まあ、それならそれで致し方ないことだろう。僕が関わって良いことではないし、ここら辺に来たのも斗乃さんの自由なわけだから、いなくなるのも斗乃さんの自由だ。でも、それでも、僕は寂しい気持ちになってしまった。

 そんな僕の様子を感じ取ったからなのか、近馬がまた口を開いた。


「宵太ん、冷後輩のところにでも行くか?」


 近馬に言われるがまま、僕たちは冷のところに向かった。もちろん、本来は授業のある時間なのでサボりというわけだ。

 太刀守高校は四階建て校舎のA棟と三階建て校舎のB棟、そして運動関係専門のC棟があり、A棟には特別教室や部室や倉庫等があり、B棟には一階から一年生教室、二年生教室、三年生教室となっている。僕たちが向かっているのは一年生教室のあるB棟一階ではなく、A棟二階にある保健室だ。


「失礼します」


 保健室に入ると、窓際に孤立しているベッドに冷が一人で勉強しながら座っていた。


「あ、御柳先輩と柊先輩じゃないですか。またサボりですか?ちゃんと進級はしてくださいよ。来年同学年になったら僕はなんて呼べばいいか戸惑いますからね」


「僕は別に同学年じゃなくても、名前で呼んでくれて構わないんだけれどね」


「それは僕自身が許さないですからね。先輩なんですから、今のところは」


「まるで僕たちが留年決定みたいな言い方はやめろ。これでも単位もしっかり、テストもばっちりなんだぞ」


「そのどちらも木薙の協力があってのことだがな」


「うるせぃ」


 今頃芙和は真面目に授業を受けてノートもきっちり書いているだろうな。芙和自身はノートに書かずとも頭に入るだろうけど、後々僕に教えてくれる為に書いてくれている。感謝感謝だよ、まったく。

 この状況で説明する必要があるかは微妙なところだが、冷は言ってしまえば保健室登校児というやつだ。高校生では珍しいかもしれないが、冷は確かにそうなのだ。いじめが理由とかそんな小さいことではなく(いじめが小さい理由とは言い難いが)、対人恐怖症というか、集団恐怖症というか、とにかく多人数での団体行動が出来ないらしいのだ。人込みを歩く程度なら平気だが、電車やバスには乗れない。同じ目的を多人数でやることが理解できず、その中に自分が入れないという感じだ。だから冷はこうして保健室で一人、ベッドを孤立させて勉強している。


「で、先輩たちはどうして授業をサボってここに?いや、来て下さったのは嬉しいのですが、やはり理由を聞いておかないといけないと思いまして」


 勉強をする手を止めて冷は僕たちに向き直った。律義に正座までして、本当にこの後輩には頭が下がってしまう。

 そういえば、理由が無いことに今更気付いた。人に会うのに理由はいらないわけだが、それでは冷が納得しない。休み時間なら未だしも、今は授業中なのだ。冷に会うのを口実にサボっているなんて、当の本人からすれば決して良い気分じゃない。


「実は緋鳥んに用があったんだが、今日はまだ来ていないのか?」


 僕が答えに迷っていると、近馬が嘘か本当かわからないような答えを出した。きょろきょろと辺りを見渡して探しているのを見て、一応は信じたらしい冷がそれに答えた。


「緋鳥先生はカウンセリングの方に行っています。この時期は一年生が急増するらしいですよ」


「まあ、この学校の特殊な行事とかに戸惑うからな。僕もびっくりしたもんだよ。まさか、全生徒が部活に所属しないといけないなんてな」


「それで部活を設立した宵太んにもびっくりだよ」


「七士さんが許可してくれたからね。もっとも、《ミステリアス研究会》って部活名は七士さんが考えたんだけれどさ」


 一年前ぐらいに僕たちが部活を決め兼ねていた時に、『悩んでいるなら作ってもいいぜ。ただし人数はしっかり集めろよ』と七士さんに言われ、当時は全く面識の無かった芙和と依奈、そして美恵留を誘った。何故この三人かというと、僕たちと同じで部活を決め兼ねていたからだ。それ以外の理由は無いし、先に違う人を見つけていれば今とは別のメンバーだったかもしれない。まあ、今みたいに仲良くなるか一概には言えないけれど。そもそも、最初の方は仲が良いどころか、言葉も交わさずにいた程だしね。


「どうしますか、先輩?緋鳥先生が来るまで待ちますか?僕としては今からでも授業に出てほしいのですが」


「今から出ると悪目立ちしちゃうからなあ……」


「サボっている時点で悪目立ちしていますよ、御柳先輩」


 この後輩はなかなか鋭い意見を言うなあ。何も言い返せない程の正論だ。


「まあ、いいですよ。御柳先輩が現時点で行く気になっていないなら、僕が説得しても無意味ですからね」


「よくわかってくれているじゃないか、冷くん。近馬はどうする?別に僕に無理矢理付き合わなくても良いけれど」


「いや、俺は緋鳥んに用があるからな」


 どうやら本当だったらしい。うーん、近馬の言うことはわかりにくいなあ。

 冷はベッドから降りて僕たちに椅子を用意してくれた。本当によく出来た後輩だよなあ。


「何か食べますか?天さんからいろいろ貰うんですが、とても一人で食べ切る量ではないので」


 冷がベッドの上にスペースを作り、そこに購買で売っているパンやお菓子などを並べた。確かに並べられた品々は一人分とは言えない量だった。


「こんなに貰っても僕はほとんど食べられないんですよね。保健室に来る人達におすそ分けして減らしている感じですよ。まあ、気持ちは嬉しいですね」

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