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第三章 ◇四頁◇


「ふー、終わったよー」


「黄泉、そこに座られるとテレビが見れないよ」


 鯖の味噌煮騒動(夜凪の分を僕が食べただけだが)はすぐに終わり、夕食も食べ終わった。今は黄泉が洗いものを済ませて、ソファーでくつろぐ僕の膝に無理矢理座ったところだ。まあ、テレビを見ていたといっても、見る目的があったわけではないから良いのだけれど。


「おっと、あんまり座り心地が良いからソファーと間違えちゃった。このままでも良いー?」


「また夜凪がやきもち妬くぞ?」


「大丈夫だよー、よみには被害がないもんね」


「僕なら被害に遭っても良いのか?そういう考えならだめだ」


「宵兄なら大丈夫だよー。だって宵兄も夜凪ちゃんと仲が良いもん」


 まあ、否定はしないな。僕たちは今時珍しい仲良し兄弟と言えるだろう。そうでなければ、こんな風に会話したりしないもんね。


「儂が風呂に入っとる間に何をやっとるんじゃ!弟くんは抜目ない奴じゃのぅ」


「誤解をしているようだから言うが、僕から黄泉にくっついたことは無いからな」


 これ、ちょっと嘘ね。今はさすがに無いけれど、昔はあった。黄泉がまだ小さくて今みたいに積極的じゃなく、逆に消極的だった頃の話だけれど。


「さて、と。僕は風呂に入って寝るよ」


「じゃあ先にお布団に入って待ってるからね、宵兄ー」


「じゃあ儂も一緒に待っとるからの」


「あーあー、勝手にしてくれ」


 めんどくさくなった僕は適当に返事をして風呂へと向かった。まともに返事をしていたら疲れるからね。もう既に疲れ気味だけれど。


「……おいおい、まじかよ」


 風呂から出て部屋のベッドを見て僕はびっくりした。本当に二人が僕のベッドで寝ていたからだ。しかも起きそうにない程爆睡中だ。


「今日はソファーで寝よう」


 部屋から出る間際に「ちくわぶじゃ」と、夜凪の寝言らしき声が聞こえたけれどスルー。夏が近くて良かった。風邪をひく心配はなさそうだ。

 翌朝、目が覚めた僕はいまいち状況がわからなかった。何故こんなことになっている?僕は自分のベッドを二人に占領されたから、一階のリビングにあるソファーに寝ていたはずだ。


「……むにゃ。ちくわぶじゃ」


それなのにどうして夜凪が僕の隣のわずかな隙間に寝ているんだ?ソファーに奥行きがあったから良かったものの、下手したら落ちていたぞ。

 いやいや、そうじゃない。重用なのは何故夜凪が寝ているか、だ。しかも寝る時は普段着ているきっちりした着物ではなく、薄い生地なので危ない。何が危ないって、夜凪は普段から着物は着崩して着るので、近いと目のやり場に困ってしまう。とにかく、僕はここから移動したいのだが、


「離さぬぞ、ちくわぶめ」


といった具合に僕の腕を掴んでいるのだ。だいたい、なんでちくわぶなんだ?僕の腕はちくわぶじゃないぞ。


「んうぅ……宵兄ー、おはよー。あのね、夜凪ちゃんがいなくなった――」


 うん、バッドタイミング。最高に最低な状況だね。僕は起き上がろうとしているけれど、夜凪に腕を掴まれているので妙な体勢のまま停止。夜凪は着崩れた格好のまま僕の腕にしがみついている。兄弟姉妹とはいえ、これ以上ないってくらい怪しいよね。それを見た黄泉は絶句しているし。


「黄泉、助けて」


「……えーっと、どっちをかな?」


「両方だけれど、どちらかというと僕の方をかな」


「わかったよー。でも、宵兄と夜凪ちゃんってそういう関係だったんだねー」


「……どういう関係だと?」


「宵兄が夜凪ちゃんの抱き枕的な関係かなー」


「誤解を招きそうだな」


「もう招いちゃっているよー」


「……ですよね」


 なんか朝から疲れてしまった。この寝ている姉のせいだ。黄泉はなんとなく理解しているようで、説得というか説明は簡潔に済んだのだけれど、少し怒られてしまった。

 僕は早々と朝食を食べて学校に向かった。いつもより少し早いけれど、それならのんびり歩けば良いだけだ。

 のんびり歩きながら、そういえば宿題をやっていないことに気付き、でもなんとか誤魔化せば良いかとか考えていると、僕の横を見覚えのあるバイクが通り過ぎ、少し前で止まった。バイクに乗っていたのは斗乃さんだ。


「やあ、おはよう、御柳宵太。今日は一人で登校なのかな?」


 やっぱり黄泉や夜凪の心配は杞憂だったみたいだな。バイクもあるしいつも通り、相変わらず変わらない、東雲斗乃さんだ。


「少し家を出るのが早くてのんびり歩いていたんですよ」


「そうか、それなら僕に少しだけ付き合わないか?ここら辺をバイクで散歩しようじゃないか」


「学校に遅刻しない程度なら良いですよ」


「それなら心配ないさ。もちろん時間は守るからね。さあ、後ろに乗ってくれ」


 斗乃さんに渡されたヘルメットを被り、バイクの後ろに乗った。どこを掴めば良いか迷っていると、斗乃さんは僕の腕を自分の腰に回して固定させた。なんだか少しどきどきしてしまった。朝から女性に関わるイベント満載の僕は、ギャルゲーかハーレム漫画の主人公みたいだ。


「落ちないようにね」


そういうと斗乃さんのバイクは唸るように走り出した。

 結構なスピードを出しながらあちこちを走り回った。エンジン音と走行音で会話は出来なかったが、その方が良かったのかもしれない。風景を堪能するには思ったより集中力を使うらしく、気がつけば僕は学校に送られていた。


「うん、楽しかったよ。キミは勉強に励むと良いさ。じゃあね、御柳宵太」


「あ、はい。また機会があれば乗せてほしいです」


斗乃さんはにっこりと笑いながら手を振ると、バイクに跨がり走り去っていった。


「宵太、朝から浮気?」


 不意に背後から声を掛けられ、振り返ると若干不機嫌な芙和がいた。


「斗乃さんだよ。顔見知りだし、どんな人かも知っているだろ?」


「腰に手を回していたじゃない」


「あれは落ちないように気遣ってくれたの」


「笑顔で手を振ってた」


「斗乃さんはいつもそうじゃないか」


「抱きしめ合ってキスまでしてたもん」


「いや、それはしてないな」


「じゃあ、私とはしてよ」


「へ?」


「冗談だよ。こんな人目に付くところでは出来ないし。それより早く行こうよ」


「あ、ああ、うん」


 なんだこれ?朝からハプニング続きで、僕の頭はショート寸前だぞ。まさか死亡フラグでも立っちゃったのかな?

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