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第三章 ◆三頁◆


 我が家の今日の夕食は、鯖の味噌煮と豆腐と油揚げの味噌汁、漬け物にその他少量ずつのおかずといった和風で質素で日本人好みのものだった。いや、単に僕好みなだけなのかもしれない。


「いただきます」


「ねえ、宵兄。質問良いかなー?」


 三人で揃って食事の挨拶をしてから、早速味噌汁を頂こうとした時に黄泉が僕に話しかけてきた。僕は手に取ったお椀を置いて黄泉の方に顔を向けた。


「別に良いけど、どうした?」


「あのね、斗乃ちゃんだっけ?あの人がね、いたんだよ」


「ああ、僕も見かけたよ。つーか、会話もしたな。それがどうした?」


 斗乃さんは神出鬼没でなかなか見かけない人だから、たぶん報告したかったんだろう。いや、でも、それにしては様子がおかしいような。


「でもね、昨日も見かけたんだよ?」


「偶然じゃないのか?別に連日で見かけたとしても不思議はないだろう」


「えー、でも同じ場所だよ?それに……」


「それに、どうした?」


「同じ時間帯にずっとそこに居たの。何か変じゃないかなー?」


 ああ、そういうことか。

 斗乃さんは気まぐれで気分屋だ。同じ場所に同じ時間帯に居るなんて滅多にない。だから黄泉はこんな風に話すのだろう。


「気にすることじゃないよ、心配すんな。別に危険な人なわけじゃないんだから」


「でも、弟くんよ。儂も妹ちゃんとは別の場所で見かけたのじゃが、バイクに乗らずに歩いておったぞ?」


「……そういえば今日も歩いていたな」


 斗乃さんの財産で、身につけている物以外であるとすれば、夜凪の言うバイク以外には無いだろう。僕はバイクに詳しくはないので車種はわからないけれど、高そうなバイクだ。女性が乗るには重そうだし、とても釣り合っているとは言えないだろう。それでも、それが斗乃さんの唯一の財産で、そして宝物ということは間違いないはず。


「何処か近くに停めていただけじゃないか?そんなに気にするなって。夜凪も黄泉も、斗乃さんとはあまり関わりが無いんだからさ。何かあったとしても僕たちで解決するさ」


「そうじゃのぅ、弟くんに任せる方が利口じゃな。儂と妹ちゃんがどうにかしようとしても、どうにもならんじゃろうしな」


 話を終わらせて、やっと味噌汁に口を付ける。うん、美味いな。やっぱり味噌汁は最高だなあ。僕は個人的に具はねぎと豆腐が好きだ。


「そうじゃ、弟くん?そろそろ夏休みじゃが、その前に今年もやるのかのぅ?」


「ん?ああ、そうみたいだよ。でも、まだ僕たちは何処に行くのかも、何をやらされるのかもわからないけれどね」


「去年と同じように遠出することになったら、一週間は妹ちゃんと儂は二人っきりじゃな」


「えー、よみは嫌だよー。宵兄が帰ってこなくて寂しいし、夜凪ちゃんがいつもよりくっつくし大変なんだよー」


 それでも嫌じゃないんだから、別に良いじゃないか。と、言いたいが、そんなことを言っても黄泉は素直には頷かない。本当は夜凪のことが大好きなはずなのにな。


「まあ、今年は去年よりも早く帰って来れるんじゃないか?要領もわかるだろうし、難しくはないと思うよ」


「宵兄ー」


「なんだ?」


 何かを求めるような目をしているな。早く帰って来て、とかかな?おねだりモードの黄泉は三割増しで可愛く見えるからなあ。僕の苦手とする部分でもある。


「お土産よろしく!」


……良い笑顔でなんてことを言うんだ、この妹は!

 くっついてくると欝陶しいと思ったりするけど、こんなにもあっさりしていると寂しくなるなあ。僕はまるで磁石だな。もし、黄泉がこれを計算して使えるようになったら小悪魔だな。少なくとも僕には効果絶大だ。


「黄泉、お土産を頼まれても何処に行くかわからないから期待はするなよ」


「はいはーい」


「弟くん、儂にも頼む」


「夜凪には変な物を持ってくるよ」


「何故じゃ?」


「夜凪が持ってくる僕へのお土産がまともだったことが無いからだ」


「なるほどのぅ。うむ、それなら期待しておくとするかの」


 うーむ、あんまり期待されるのも嫌だなあ。僕は夜凪とは違ってそれなりに常識人だと思うし。夜凪の期待に応えられるような変な物を見つける自信は無い。

 まあ、いい。僕は冷め始めてしまった味噌汁をもう一度口にして、鯖の味噌煮の骨を取り出す作業に集中することにした。骨を取るといっても、黄泉は気が利く子なので簡単に取れるし数も少ない。これなら将来は安心かもな。


「夜凪ちゃん、魚の骨取ってー」


「ほいほい、妹ちゃんは自分ではまだ出来ないのか?」


「出来るけど、自分でやったら夜凪ちゃんが不機嫌になっちゃうでしょ?いわゆるコミュニケーションだよ」


 どっちが妹かわからないな。夜凪と黄泉はなんだかんだいっても仲が良いし、お互いがお互いを必要としている感じだ。僕は傍観者的な立場かな。僕にはぴったりだと思う。


「ほれ、取れたぞ。弟くんのも取ってあげようかの?」


「いや、遠慮します。もう取っちゃったし」


「最初から頼まれてもやらんわい!」


 あれー、このお姉さん扱いづらいよ。誰か取扱説明書をください。僕は今まで夜凪と暮らしてきているわけだが、全然理解できません。理解できそうになると、データを書き換えたかのように、また理解できなくなるんだもん。


「だめだよ、宵兄ー。夜凪ちゃんは頭で理解するんじゃなくて、心で感じるんだよー」


 僕の姉はスポ根漫画の必殺技と同じなのか?攻略するには直感が頼りなのかなあ。


「儂のことは千里眼ですら見抜けぬわ!無論、スヴェンの眼でも、うちは一族の眼や日向家の眼でもじゃ!」


 どうやら夜凪は写輪眼や白眼も効かず、黒猫の相棒の数秒先の未来が見える眼でも見抜けないらしい。最強クラスのボスだな。別漫画でどう戦うのかな?

 よし、それなら僕も直感でやってみよう。


「えい」


もぐもぐ、ごっくん。


「わ、儂の鯖の味噌煮があああ!弟くんめ、よくも食べたな!」


「だって夜凪が意味不明なんだもん」


「それはいつものことじゃろうが!」


あ、自覚していたんだ。


「夜凪ちゃん落ち着いてよー。黄泉の半分あげるから」


「うぅ……弟くんのばかあ……儂の大好物じゃったのに……あれは特別なんじゃ……妹ちゃんが作った物じゃからのぅ……」


 相変わらず変わらずに台詞は阿呆だが、ちょっとだけ可愛いとか思っちゃった。

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