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第二章 ◇八頁◇


『ふひっ…ひっ…ひっ………なになに?キミたち信じちゃったの?全部嘘だよ…最初から最後まで嘘だよ…嘘しか言っていないよ!ふひっ…ひっ…ひっ…みんな騙されちゃって…ここは馬鹿の巣窟ですか?真剣な顔で心配しちゃって…馬鹿だな―――ぺぷっ!』


突如、近馬と式を馬鹿にしながら話す網綱の顔面であろう場所に、いつの間にか現れた七士の蹴りが炸裂した。


「おい、てめぇ。俺様を騙すなんてなかなかの度胸じゃねぇか。死にに急ぎたいのなら遠慮はいらねぇんだぜ?お望み通り成仏させてやろうか?」


網綱の頭部であろう場所を踏み付けながら七士は言葉を続ける。


「こいつらを騙しただけなら俺様も許してやるよ。だが、てめぇは俺様も騙してしまったんだ。珍しく必死に頼むから聞いてやったが、てめぇは何をやっているんだ?てめぇの身を滅ぼすようなことをするなんて、やる意味が無ぇ、生きている意味も無ぇ。成仏させられる前に、一文字だけ発言を許してやるよ。」


『ち―――』


「あ?『ち』ってなんだ?あー、『血を撒き散らしてください』って言いたかったのか?そんなのは当たり前じゃねぇか。わざわざ頼む必要もねぇよ。じゃあ、成仏してくれよ。」


『違う違う!ふひっ…ちょっと待ってくれよ…俺も退屈していただけなんだから…ここに縛られている間は何も出来ないから、少しの悪戯ぐらい許してくれって。』


「生憎、悪戯をする奴は既に一人いるんだよ。そいつだけで手一杯でね。網綱、てめぇに成仏という名の解放を与えてやるよ。」


ぐりぐりと踏みにじりながら言う七士はどこか楽しげだった。

踏まれる網綱もなんだかんだ言って、それを受け入れているようだった。


『あのぅ………網綱って方は、結局のところ何がしたかったのですか?私、混乱気味なのですけれど………』


「言葉通りの意味じゃないか?とりあえず、俺たちは帰るか。なんだか、あっちはに関わりたくないからな。」


戸惑う式の質問に、近馬は七士たちを見ながら答えた。

式の方はわけがわからないといった顔をしていたが、黙って近馬についていった。


「さっきの網綱の言葉だけれど、」


七士の家を出た辺りで、近馬が話し始めた。


「網綱の言う通り、全部嘘だと思うから気にするなよな。式が取り憑いているからって、俺の寿命が短くなるなんてことはないからさ。」


『………それを聞いて安心しました。もし、私のせいで近馬さんに迷惑がかかってしまうのなら、私は迷わずに成仏しますからね。』


「それと………さっきは大きい声を出して悪かったな。ごめん。」


『良いんですよ。結果的に何も無かったのですから。』


近馬の正面に回った式の顔は、とても嬉しそうに笑っていた。

先程の取り乱した姿とは打って変わって、近馬の周りをふわふわと回り始めた。

来た時には長かった石段だが、帰りではかなり短くなっていた。

七士の言う通り、登る人によって変わるからだろう。

下に着くと、先に帰っていたはずの依奈が駆け寄って来た。


「柊くんと式ちゃん、お疲れ様です。七士ちゃんとの話は終わったですか?」


『はい、終わりましたよ。ところで、依奈さんはどうしてここに?』


「近馬とろり式のことが心配になったんだってさ。依奈はろり式が成仏させられるとか思ったらしい。」


「お、宵太んと木薙も一緒か。」


後からやって来た宵太が式に説明すると、式はとても幸せそうな顔で笑っていた。


『私は大丈夫ですよ。何も言わずに消えたりはしませんから。それに話といっても、結局は何も無かったのですから。』


「そうなんですか?それなら良かったです。」


「近馬、網綱の様子はどうだった?」


「ん?今日は特に何も無かったな。相変わらず人を馬鹿にする奴だ。」


呆れた様子で近馬が答えると、宵太は苦笑いを浮かべた。


「近馬くん、どうする?私たちは依奈のことを頼まれたわけなのだけれど、近馬くんの用事も終わったみたいだし、依奈と一緒に帰る?」


「ああ、そうだな。ありがとうだな。綾杉、帰るぞ?」


「はい、わかりました。芙和、またね。御柳くんもです。」


二人に挨拶すると依奈は、左手に近馬の手を握り、右手では式の手を握った。


『宵太さんと芙和さん、お先に失礼しますね。』


「じゃあな宵太ん、木薙!」


立ち去る二人と一霊を見送る宵太が一言呟いた。


「まるで、連れ去られる宇宙人みたいだな。」


「はあ………宵太、ここは仲の良い親子みたいだなとかじゃないの?」


「つまり、それは依奈が小さい子供みたいだ、ってことか?」


「あ………私としたことが依奈の気にしていることを言ってしまうなんて………」


「どちらかといえば僕の台詞だよな。」


「もう生きていけない………」


「気にしすぎだ!」


「だって大切な友達を傷付けるようなことを言うなんて、人間として終わりだもん。」


「それなら僕は何回も人間として終わっている発言をしていることになるのだけれど。」


「宵太は大丈夫、人間じゃないから。妖怪みたいなものだね。」


「ひどいな!ちなみに、どんな妖怪だ?」


「うーん………インキュバスかな?宵太ってえっちだしね。」


「じゃあ、今ここで襲われても文句は言えないよな?」


「え?きゃあ!襲われるー!誰か助けてー!」


「そこまでリアルな反応されると、さすがに出来ないな。」


宵太が何気なく身体を横にずらした直後、宵太がいた場所に跳び蹴りを放った七士が現れた。


「こら、てめぇ!人の家の前で何をやっているんだ?」


「な、何もやっていないですよ!」


「芙和の悲鳴が聞こえたんだ。言い訳はできねぇよな?」


「いや、誤解ですよ!少しふざけていただけですよ!」


「しかし、俺様の家の前でやっていたのに違いは無ぇ。成仏させてやるから覚悟しな。」


「七士先生、本当に何もやっていないんです。先生の家の前で失礼なことをしてしまって申し訳ありません。許していただけませんか?」


「芙和が宵太をかばうなんて珍しいじゃねぇか。いつもなら俺様と一緒に宵太を楽しくいじめるのにな。その珍しさに免じて今日は許してやるよ。だから早く帰りな。」


「ありがとうございます。ほら、帰るよ。」


七士の機嫌を損ねないように、芙和は宵太を引っ張り早々に立ち去っていった。


「ちっ、網綱をもう少しいじめるかな………それにしても、あいつらの頭の中は平和だな。」

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