第二章 ◇四頁◇
「御柳先輩、自分が代わりに黄泉ちゃんに抱きしめてもらいたいです!是非代わってください!」
「その清々しさにいっそのこと承諾しそうになるのだけれど、絶対に嫌だからな!冷や麦からは犯罪的な匂いがする!」
「そんな、ひどいですよ。犯罪的だなんて言い過ぎです。自分はロリ少女をこれ以上ないくらいに可愛がるだけです!」
「その発言が犯罪的でないのなら、僕はこの世界で安心して生活できないな。」
「冷のことはあたしが思う存分抱きしめてあげるよ。ありがたいと思いな。」
「美恵留に抱きしめられたら、自分は昇天しちゃうぞ!」
「そうかそうか、嬉しいのか。じゃあ覚悟しなよ。蕩けるぐらい抱きしめてあげるからねぇ。」
「違う違う!嬉しくて昇天するわけじゃない!自分が死んじゃうってことだ!未だ『全国ロリ化計画』を達成していないというのに!」
『未練があるのなら私みたいになれるかもしれないですよ?保証は出来ませんが………』
「ろりちゃん、笑い事じゃないからね!美恵留は本気で危ないんだ!柊先輩、助けてください!」
「俺に振るなよ、冷後輩。俺から言えることは一つだ。"やるなら死なない程度に"、だな。」
「死刑宣告に近い言葉ですね!」
じりじりと部屋の角に追い詰められていく冷。
その目の前には釘バットを携えた美恵留。
「冷、おとなしくしな。無駄な抵抗は受け付けないよ。」
「美恵―――」
ぎゅっ。
「―――留、ってあれ?」
美恵留は釘バットを手放し、冷のことを優しく抱きしめた。
その意外な行動に冷はどうしていいかわからず、ただただ戸惑うだけだった。
「あむ。」
「ひゃうわあ!」
耳を甘噛みされた冷は、変な悲鳴をあげてしまった。
しかし、行動に違和感を感じたのか、美恵留の額に触れてみた。
「美恵留!すごい熱じゃないか!ずっと我慢していたのか?早く保健室に連れていかなきゃ!御柳先輩、まだ保健室って開いていますよね?」
「たぶんな。放課後といっても、今は部活も活発には動けないから五分五分って感じだけれど、まだ開いていると思う。」
「では、美恵留を連れていってきます!」
真剣な顔をした冷がそう言うと、美恵留を抱えて―――
「ふにゃ!」
―――潰された。
冷の小さい身体では、長身の美恵留を抱えきれなかった。
結果、宵太と近馬が一緒に抱えて保健室まで連れていった。
「すみません、まだ居ますか?」
保健室の前に着くと、冷がノックをしながら聞いた。
すると中から声が返ってきた。
「俺様はもう帰りたいから居ない。自分たちでどうにかしやがれ。」
「美恵留がすごい熱で―――」
「なら、許す。早く入りな。」
「………失礼します。」
保健室に入ると、前日に会ったばかりの人間が不機嫌そうに冷たちを見ていた。
ただ、少し違うのは服装だ。
前日は神主のような正装をしていたが、今はスーツに白衣を羽織っている。
そう、緋鳥七士だ。
七士は私立太刀守高校の保健教務員でもあるのだ。
「美恵留が熱を出すなんて珍しいんじゃねぇか?何か心当たりとかはあるか?」
七士が軽く診察し、冷の方を見た。
「心当たりは………そういえば、昨日は布団を掛けずに寝ちゃったから、それで熱が出たのかも知れないです。」
「なんで、てめぇが美恵留の寝てる時の状況を知っているんだ?まさか、忍び込みやがったのか?冷なら有り得るな。」
「違いますよ、緋鳥先生。昨日は美恵留の隣で寝ていたんです。自分はいつの間にか寝ていたみたいで………」
「は?てめぇらって、そういう関係だったのか?」
「違いますよ、緋鳥先生。何もやっていないですから。自分と美恵留はただの幼なじみみたいな関係です。」
「俺様から見ればそうは見えねぇけれどな。まあ、とりあえずベットでしばらく寝ていれば良くなるだろ。あとはてめぇらでやってくれ。俺様は帰る。」
言いながら七士は荷物を片付けて、早々と帰っていった。
「近馬、とりあえず僕たちは生徒会室に戻ろうか。芙和と依奈とろり式を残したままだしな。」
「そうだな、美恵留んは冷後輩がいれば十分だろうし。式も長時間離れているのはつらいと言っていたしな。」
「それは、たぶん別の理由だと思うけれど………まあ、それでも待たせるよりは全然良いからな。冷や麦、あとは任せても平気か?」
「………あ、大丈夫ですよ。御柳先輩、柊先輩、ありがとうございました。」
宵太と近馬が生徒会室に戻り、保健室には冷と美恵留だけが残った。
寝ている美恵留の頭を優しく撫でながら、冷が小さく呟いた。
「幼なじみって複雑だよ………」
その言葉に反応するかのように、美恵留がうっすらと目を開けた。
「むぅ………ん………あれ?冷?どうしてあたしは寝ているの?」
「美恵留が熱で倒れたんだよ。熱があるなら早く言えよな。」
「冷に言ったら冷が責任を感じちゃうでしょう?そんなこと、あたしには出来ないよ。」
熱の為か、いつもより優しい口調の美恵留が冷に優しく笑った。
それに応えるように、また頭を撫でる冷。
「気遣うなんて、らしくないな。美恵留はいつの間に優しさを覚えたんだ?」
「あたしも変わったってことだよ。気遣う優しさがあるのも当然じゃないか。」
「どうして?」
「冷のことが大切だからだよ。あたしにとって、掛け替えのない存在だからねぇ。」
「そんなこと言って………まだ熱があるんじゃないか?」
「どうだろうねぇ………確かめてくれるかい?」
「しかたないなあ。」
横になっている美恵留の額に、自分の額を当てようと冷が近づいていく。
二人の顔が徐々に近づいていく。
そして、お互いの顔が触れ合―――
ガラッ!
「美恵留ちゃん、熱は大丈夫ですか?そろそろ下校時刻なので帰らないとですよ。」
「歩くのがつらいなら宵太が送ってくれるみたい。背中に乗せてね。」
「送っていくとは言ったが、そんな屈辱的なことは言っていないぞ!僕の背中に乗って良いのは芙和だけだ!」
「あれ?嬉しいことを聞いちゃったな。それなら今日は宵太の背中に乗せてもらおうっと。」
勢いよく扉が開いて、宵太たちが入ってきた。
その瞬間に美恵留が冷のことを突き飛ばしたので、冷は隣のベットに倒れている。
誤解されないように突き飛ばしたのだが、威力が強すぎたのか、冷は面白い姿勢になって倒れていた。




