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第二章 ◆一頁◆


ここは私立太刀守高校の屋上。

学校の屋上なんてものは、大概の場合は閉鎖されているし、この太刀守高校も一年前までは閉鎖されていた。

しかし、古くなって壊れていた南京錠を偶然見つけた宵太が、新しいものに取り替え、自分たちだけが出入りできるようにしたのだ。

その屋上に、近馬と依奈、そして幽霊の式がいた。


「―――と、いうわけで、仕事の結果が今の状況だぞ。」


どうやら式について説明していたらしい。


「柊くんが幽霊とはいえ女の子と同棲ですか………羨ましいですね。」


「綾杉も冷後輩と同じことを言うんだな。そんなに、式と暮らしたいのか?」


「ち、違いますよ!冷くんと同じにしないでください!うちは柊くんと暮らしたいんですから!」


「あれ、そうなのか?でも、どうして俺なんかと暮らしたいんだ?」


「あうぅ………それは………」


まさかの切り返しに言葉に詰まってしまった依奈。

柊近馬という男は、なかなかどうして鈍感な男なのだ。


『あなたが綾杉依奈さんですか。私は、零六式と申します。これからは、よろしくお世話になります。』


見兼ねた式が、ぺこりと頭を下げ、一礼をしながら丁寧に挨拶をした。


「よ、よろしくお願いしますです。」


それに対し依奈も慌てて一礼を返した。

すると、近馬の携帯が鳴り出した。

宵太からの電話だった。


「はろはろー?宵太ん、どうした?―――あはは、わかったよ。早く行くから怒らないでくれって。―――了解だ。じゃあねん。」


通話を終えると、近馬は依奈の手を握って走り出した。


「ち、近馬くん、どうしたんですか?いきなり握られたら、びっくりですよ!」


「宵太んが『会議を始められないから、早く依奈と来い!』って言うからさ。だから急がないとな。」


「近馬くん!こ、転びそうです!」


「ん?仕方ないな。綾杉、スカートをちゃんと押さえてろよ。」


「え?どういう―――きゃ!」


近馬はそう言うと、依奈を抱えて走り出した。

しかも、お姫様抱っこで。

ちなみに、式は浮いているので余裕でついて来れている。

生徒会室は校舎の最上階に在るので、五分とかからずに着いた。


「ふぅ………到着だぞ、綾杉。大丈夫か?」


全速力で走ってきたのにも関わらずに近馬は、いつもと変わらない様子で腕の中にいる依奈に聞いた。


「だ、大丈夫ですけど、心臓がどきどきです………」


「ん?俺のか?まあ、走って来たから仕方ないさ。」


「………そうですね。」


依奈としては、自分の心臓のことを言っていたのだが、近馬には全く伝わっていなかった。

生徒会室の扉を開き中に入ると、既に宵太と芙和、そして冷と美恵留がいた。


「遅いぞ、近馬。早く会議を始めてくれないと、芙和が僕の命を狙い続けるんだ!」


「御柳くんが命を落とせば、狙われる心配も無くなりますよ。」


「………相変わらず、変わらずに依奈の声はするのに姿が見えないな。」


「うちは目の前にいます!今、目が合ったじゃないですか!」


「だから、宵太んの言葉に毎回反応するなよ、綾杉。ほら、こっちにおいで。」


いつものように、依奈を後ろから抱き上げた近馬は、自分の席に座り、自分の膝の上に依奈を乗せた。

すると、美恵留が近馬の後ろでふわふわと浮いている式を見ながら口を開いた。


「冷の言っていたことは本当らしいねぇ。柊も罪な奴だねぇ。綾杉ちゃんだけじゃなく、幽霊の零六ちゃんまでも、か。」


「なんで、綾杉と式を関連付けるんだ?なあ、綾杉はなんでかわかるか?」


「は、早く会議を始めましょうよ!昨日の続きの、部活予算案をまとめないとです!」


耳まで真っ赤にした依奈が、会議の始まりを促した。

近馬はわけがわからないという表情だったが、それに従うことにした。


「部活紹介も兼ねてやるということで、この企画は早めにやらないといけないんだが、競技内容はどうする?地味すぎては部活紹介にならないし、派手すぎては企画が通らないからな。」


「そうですよね。おそらく、自分以外の一年生は特待生でない限り部活には未だ所属していないはずです。ですから、各部活の紹介も出来て、更に予算争奪できる内容にしないと。」


「まあ、そうだねぇ。冷はあたしが生徒会に連れ込んだわけだからねぇ。競技内容は真剣勝負の格闘大会なんてどうかな?」


「却下だろ。運動部と文化部で差が出るだろうし、何よりも危ないって。僕としては文武両道ってことで学力試験が良いと思う。そうすれば一石三鳥になるぜ!」


「宵太って馬鹿なんだね。それだと地味すぎるでしょう?近馬くんの話を聞いていなかったの?宵太って馬鹿なんだね。」


「二回も言うこと無いだろ!僕は傷付いたぞ!」


「何?その傷を癒してほしいとでも言うの?私にお願いをする時は、『わん!』と吠えてからにしてよね。」


「わん!」


「………宵太って馬鹿なんだね。」


「騙されたー!」


いつも通りの流れで宵太と芙和が遊び始めてしまったが、そんなことは気にせずに他の四人で話を進めていた。


「うちが思うに、評価をするのは一年生及び先生方なので、例年通りに部活紹介をして評価を参考に予算提示。それに納得しない部活同士で争奪というのはどうですか?」


「依奈先輩、競技内容はどうするんですか?その方法にしたって結局は公平なものを考えないと。」


「さっき御柳くんが言っていた学力試験の結果で良いと思うんです。文武両道、ですよ。」


「なるほどな。部活紹介は予算が掛かっているから例年より派手で良いものになるだろうし、学力試験も予算の為に良い結果を出そうとするってことか。俺は良いと思うぞ。」


「あたしも賛成だよ。さっきは格闘大会なんて言ったけれど、そんなのは無理だってわかっているよ。実際にやったら、あたしが乱入しちゃうもんね。」


「そういう意味でかよ!美恵留はもう少し、いや、もっと女の子らしくなれ!」


「冷に言われたくないよ。あんたはもっと変態になりな!」


「言われなくてもなるさ!」


なんとも妙な言い合いだった。

そんな異様な光景を見ていた式が近馬に質問した。


『あの………会議の続きはやらなくて良いのでしょうか?』


「まあ、ほぼ決まったし、後は俺と綾杉でまとめれば大丈夫だぞ。それに、ああいうのを見ているのが好きなんだ。」


宵太と芙和、冷と美恵留の様子を見ながら近馬が嬉しそうに、そう答えた。

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