いつか正気を失う誰かへ向けて、この配信を届けます
短編の一話完結モノなので、少しだけ時間を頂けたら嬉しいです。
「あ、これもう回ってる? はあーいみんな、ゾイだ。今日は、いろいろな噂が流れている廃墟の前に来てるぞ。深夜になると何か起こるらしいから、確かめに来たぜ!」
俺は動画配信をしている者だ。
今日もこうしてリアルタイムで視聴者達に向けて活動をしている。
お、始まって間もないのにコメントが来たぞ。
『待ってました!』『ゾイの配信が今の生きがいだわ』
『お、ここ近所じゃね? いい情報待ってる~』
うんうん、みんな楽しそうだ。これは俺も頑張らなくっちゃな。
「よし、じゃあ今日も楽しく行くよ!」
配信は繋げたまま、俺は廃墟の中へと足を踏み入れた。
◇
「うわー、これはひどい有様だねぇ」
中に一歩入ると、明かりなど無く真っ暗だった。照明は本来の仕事をしていない。
慎重に進めば足元からジャリ、ジャリとガラスやコンクリートが踏み割れる音がする。
『真っ暗やーん!』『こっわ⁉ 明かりとか無いの?』
コメントに流れて来る声の大半が今、この二つに集中していた。
「ごめんよみんな~。やっぱ暗い場所探索するのって楽しいからさ、照明とか使いたくないんだよね」
暗い方がスリルあって楽しいじゃん?
これには視聴者も『分かる!』と答える者、『いやこえーよ! 暗いし見えないし!』と突っ込む者で別れる。
そんな中、スパチャが来た。
「お、徒花モトグラシーさん。ありがと~、えーなになに。『ゾイさんや、そもそもここってどんな場所だったん?」
そう言えば、ここの話まだ何にもしてなかったっけ。
「お~いい質問だね~。そういうの来るの待ってたのよ」
もちろん嘘である。
最初に言うつもりだったのに、思いっきり忘れてた。
よし、誤魔化せたぞ!
「ここは昔ね、たくさんの人間が欲しい物を求めてやって来た〈ショッピングモール〉って場所なんだよね。だからほら──」
配信カメラのレンズを少しずらせばそこに何かが落ちている。
手に取りみんなにも見やすいよう近づけ、
「これ、何か分かる?」
それは、丸みを帯びた細長い物。先端には細長い紐が付いている。
火を付けて周りを照らす、ロウソクだ。
コメントを見れば、『なんだこれ』や『知らない』という意見が大半を占めていた。
「これはね──俺もわかんないや」
みんなと同じように振る舞う。
知らないなんてのは嘘だ。俺は覚えている。このロウソクの使い方を。
みんなが忘れているだけ。
脳裏に過る記憶を遮り、気持ちを落ち着ける。
黙ってしまったからか、コメントで心配そうな声がちらほら見えた。
「あ、あ~ごめんごめんっ、これ何かなって考えてたの。先に進もうか」
誤魔化し、二階へ上がる。
そこへ、またもスパチャが来た。
「あ、【お腐りオレンジ】さんありがと~。えーなになに、『噂ってどんなのがあるの?』そう言えば、今日はまだ話してなかったね」
今日は話忘れること多いな……
噂について自分でまとめたメモ用紙を取り出す。暗いから少し見づらいけど、まあ内容は大体頭の中に入ってるし大丈夫だろう。なんなら出さなくてもいいくらいだし。
「何かが高速で動いていたり、物が浮いていたりとかたくさんあるんだ。他にも誰も居ないはずなのに、助けを求める声が聞こえたりね」
直後、コメントが荒れた。
『まだここに人がいるのか⁉』『それって見つけたらすごいよな』『いや嘘だろ~』『いたら会いに行こうぜーってなわけで捜索よろ』『いやふつーに怖くね?』
あることが原因で、この地球上にいた人間は数をどんどん減らしている。
俺たちも生き残った人を探しはすれど、なかなか見つからない。
「よっし、んじゃみんなのためにも探索続けるわ~」
考えを変えよう。今日は配信をメインに来たのだから。
少しでも楽しくしないとな。
その後、三階、四階と歩いたが、これといって面白そうなことは起こらなかった。
……ここまでは予想済み。
「それじゃあみんな、最後の階に行こうか」
このショッピングモールは四階建てだ。
じゃあもう見て回るところは無いだろって思うだろ? まだ残ってるんだよ。
「ここにはな、荷物を搬入する地下空間があるんだ。最後はそこに行こうと思うよ!」
つまらなそうにしていたコメントに少し活気が戻る。
『地下とか何かありそう』『やっとメインかよー』『期待値大』『待機―』『出る準備できた』
闇に閉ざされた暗い空間を、一歩ずつゆっくり進む。
一時間近くいるからか、目も慣れた。
地下へと続く階段へたどり着く。
「予想通り、塞がれてるね~。しかも、突破された様子無し……と」
高さは大体成人男性より少し上と言ったところか。
俺の予想が正しければ、この下に……
ガタンッ! と音がした。それも目の前のバリケードの向こう側から。
「みんな、これは当たりかも知れねえ! 俺は行くぜ」
配信を見ているみんなに呼びかければ、
『キターーーーーー』
『ウオーーーーーー』
といったコメントであふれる。
他の奴らが来る前に先に進ませてもらおう。
押してみるが、ビクともしない。
「……丈夫だな」
これ、よじ登れたりするかな? 試してみるか。
他の奴らはバカみたいに突っ込んで行くんだろうけど。
ただ、今の身体で果たして行けるのか。
「よし、やるか」
カメラを地面に置く。
昔より動きが悪くなった腕を伸ばし、ひっかけられそうな場所に手をかける。
よし、行ける。
身体全体を引っ張るように、腕に力を入れ、ゆっくりと登り始める。
腕の至る所からメリメリと嫌な音が聞こえる気がするが、今は頑張ってもらうしかない。
「うぉぉお……」
腕から力が抜けそうになる。
踏ん張り、力を絞り出して身体を投げるように上へ。
なんとかバリケードを乗り越えることに成功した。
さて、と階段の下へ視線を向けると。
「……ぁ」
人がいた。それも女性。手に懐中電灯を持っている。
あれは電池式だろうか、それとも──
「キャーッ!」
くだらないことを考えていたら叫ばれてしまった。
まずいとも思ったが、好都合かもしれない。
あっちから出て来てくれるのと、配信に声が入るからだ。
俺以外の声が入ることで、動画を見てくれている他のやつらに、ここに人間がいることが伝わる。
独り占めできないのは少し残念だが、元からそのつもりだったしどうってことは無い。
「さあ、今日はごちそうだな」
大丈夫、直ぐに終わるさ。心の中でつぶやく。
俺は人間の巣に向かって、足を踏み出した。
◇
あっという間だった。
配信を見て近くにいたやつらがショッピングモールに集まって来ていたらしく、女性の悲鳴が響いたその一分後には、大量の仲間がなだれ込んで来た。
押してもビクともしなかったバリケードをいとも簡単に突破して来るのだから、数の力は偉大だなと思った。
俺たちは枷の外れた力で人間を殺した。
噛み切る者、千切る者、殴る者と様々だ。
至る所に血が飛び、人間の命乞いと悲鳴が響いた。
まさに地獄絵図と言える。
お前たちも生きたかったんだろう。
家族がいて、もしかしたら離れ離れだった奴もいるかもしれない。
生存を信じて、助けが来るのを待ち望んでいた人もいるかもしれない。
痛い程分かるよ。
俺も心臓が動いていた時は同じだったから。
だけど俺も、俺の家族ももう──みんなこっち側だ。
妻と二人の娘がいる。
まだ生まれたばかりの子と、去年六歳になるはずだった子がな。
あいつらのために飯がいる。そう、お前たち人間が。
俺は、いつまで正気を保ってられるのかな?
……いや、もう正気じゃないのかもしれない。
「次は、キミかもな」
そう言って、配信を切る。
さて、今日のご飯を運ぼう。
明日はどこへ行こうかな。
いかがでしたでしょうか。
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