白い世界。
そこは色のない場所だった。
物心ついたとき、エメラが目にしたのはそんな無色の建物の中で。
いや、「白」だけはあったのか。
周囲に煌めく白い砂。その真ん中に立つ白い建物。
白壁は何よりも白く、さらさらとした手触りのレンガで組まれ。
エメラのホワイトシルバーの髪がその背景に溶けるようで。
彼女はそこでは目立たない。
白髪白髭の老人、白竜によって育てられた彼女は、周囲に人がいない状況で、自分のこともよく知らないまま育ったのだった。
「ねえ。おじいさま。わたし、外に行きたいわ」
「外? どこさね?」
「ここは何もない場所だってブラドが言うのよ。今度外に、街に、連れて行ってやる、っていうの」
「ブラドが来たのかい?」
「ええ。おじいさまが出かけてる時よ。おじいさまは「外」にお出かけするんでしょう? わたしはダメなの?」
「はは。外は不浄の地だからね。おまえはまだ幼い。もう少し大きくなったら連れてってやろう。だからもうしばらく我慢しなさい」
「不浄、なの?」
「ああ。おまえにはまだ早い」
おじいさま。白竜はそう言うだけ。
一体外には何があるんだろう?
それが知りたくて。
生まれた時から、このただただ白い世界にいるエメラ。
周囲にいるのは「ギア」たちだけ。
ふわふわと浮かぶ「ギア」はエメラにとっても心が休まる姉妹のような存在ではあったけれど、それでも「好奇心」には勝てなかった。
ブラドからきく「外」を見てみたくって。
日が昇ったらおき、周囲を水で清める。
アウラに願い大気から水を集め、そして建物の壁を磨く。
礼拝堂で神に祈り、この世界の安寧を願う。
白竜は秩序を司るのだとエメラに言った。
ここは、清浄な地。
全てのマナはここに集まるのだ、と。
そして。
この地から世界の秩序、安定を願うのだと。
「わたし、いっぱい祈るわ。だから今度お願い一緒にお外に連れてって」
白竜は、外から供物を運んでくる。
年に数回、色とりどりの果物が祭壇にならぶのだ。
その時だけはこの場所にいろんな色が生まれる。
供物は神に捧げたあと、もう一度人里に返すのだという。
神に捧げた供物から取れる種をもう一度地に還すことでここでの祈りを外にも広げていくのだと。
だからその時に。
「ダメだ。エメラ。まだその時ではないのだ」
白竜は決して声を荒げたりせず、ただただ悲しそうな瞳をしてそう言うのだった。
時はゆっくりと。しかしそこにもちゃんと流れていたのだろう。
変わらないと思っていた自分の身体が、少しずつだけれど大きくなっていっているのをエメラは実感していた。
自分の中のマナがだんだんと増えていっているのがわかる。
自分の手足がすらっとのびきって、いつのまにかそれまで届かなかった高さに手が届くようになった時。
エメラはもう一度、白竜にお願いをすることにした。
「外」に行きたい。
「外」に出して。
「外」をみてみたい。
「外」の空気を思いっきり吸ってみたい。
「外」を。世界を。本当の事を。
わたしは知りたいの。と、そう。




