ディラックトランス。
「にゃう!!」
「うぐ! 離せ!」
——今のうち! あるじさま、逃げるかチカラ回復させるか、して!
(クロム!)
——これはワタシがなんとかする。だから!
セラフィーナの気力が弱っていることを感じているのだろう。クロムはそう言って赤鬼への噛みつきを強めた。
右肩が削られ首元も齧られ、満身創痍の赤鬼。
それでも残った左腕で首元に齧り付く黒猫を剥がそうともがく。
クロムがここに来たと言うことは、あの黒豹との闘いは終わったのだろう。
クロムは、なんだか少し魔素の総量が増えているようにも見える。
(それでも連戦なのには違いないわ!)
確かに今のクロムが赤鬼に負ける未来は見えない。けれど、だからといって自分が引くだなんて考えることもできないでいた。
(クロム! 真空相転移を撃つわ。合図したら一瞬だけ離れて!)
——大丈夫!? あるじさま!?
(あと一回くらいならいけるわ! それに、真空相転移は白竜の権能。わたし、これならまだ負担が少ないのよ)
そう言うともう一回砲塔にマナを落とす。
キュルキュル、キュルキュルとマナが粒子となって回転し、エネルギーを高めていく。
「いくわ! クロム!」
クロムはその瞬間、ばっとその場から離れ飛んだ。
「真空相転移!!」
白い嵐がバリバリと飛ぶ。そしてそのまま赤鬼ののどもとを抜けて行った。
真空相転移は次元断罪嵐と比べると攻撃力という点では劣る。
しかしその権能は生まれたての魔獣クラスならそのまま魔素に還すことができる。
0を1に、1を0に、空間に存在する物質をゼロに消し去りそしてそこにマナを生じさせる。
魔獣のその表皮を剥ぎ取り分解して空間に落とし、そしてそれをもとの魔素に還す。
そんなチカラがある。
もちろんその相手の生命力精神力が強ければそう簡単にはその権能を全うすることもできなかったりする。
前回のクロム戦、クロムが満身創痍になりながらもなんとか耐え切ったのも、それだけクロムの精神力が高かったおかげだろう。
赤鬼は。
ダメージを受けていた首から胸元をそのまま真空相転移で撃ち抜かれ、その体はそのまま崩壊していった。
残った体は赤黒い粒子となって四散していったのだった。




