絶対に死なせない。
「ありがとう。ルーク様。わたし、帰るね」
「そうか。シルフィーナ」
露骨に名残り惜しいといった表情を顔に出すルークヴァルト。
泣いたら、なんだかスッキリして。
そんなお顔をするルークに対しても、素直に嬉しく思えた。
人の気持ちは変わるものだと。
またいつか、彼の心が変わってしまうこともあるんだ。と。
そう心に予防線をはらないといけないくらい自分の心が弱くなってしまっていることを自覚して。
それでも、今こうして彼が自分を想ってくれていることを幸せに感じる。
そんな複雑な心境。
「離れたく、ないよ。セラフィーナ」
そんな言葉がルークの口からもれる。
ズキン。
心が痛んで、気持ちが揺れる。
でも。
——かえろ? あるじさま。
(あ、クロム。ありがとうね。ちゃんとお使いしてくれたのね)
——まあね。これくらいならね。
(そうね。じゃぁ、帰ろうか。宿屋に)
「じゃぁ、このまま空間転移で帰るから。また明日の朝、来てもいい?」
「ああもちろん。ここまで来たらあとは侯爵邸に乗り込むだけだ。君の手紙をみて決意できた。正面から行く」
「ああでも、あちらにはこの間の鬼みたいな魔人はまだいるかもだよ?」
「そんなの、なんとかなるさ。君は後方で見ていてくれるだけでいい。大丈夫、うまくやるさ」
「うん。頑張って。ルーク様」
それだけ言うと、セラフィーナはクロムをひょいと抱き上げそのまま宿屋まで転移した。
(そばにいることを許して貰えただけで、今はいいの。もしもなにかほんとにあったら、その時にちゃんと間に合えば、ね)
絶対にもう二度とあんなふうにルーク様を死なせたりしない。
それだけは、誰に誓うでも無く。
絶対に護る。
そう決意を固めた。
♢ ♢ ♢
翌朝。
宿屋を引き払って部隊に合流したセラフィーナ。
彼女が魔溜りを消し去って魔結晶を回収したことが知れ渡ったのか、みなセラフィーナに好意的な態度を示していた。
兵站用の長場車に乗って行くことを勧められたけれどそれは断って。
「わたくしは最後尾をゆきます。問題ありません。大丈夫ですわ」
そう皆には笑顔で断った




