魔結晶。
「真空相転移!!」
ゼロを1に、1をゼロにする権能、真空相転移。
生まれたての魔獣クラスなら、いとも簡単に魔に還すこともできる。
(あいつを滅するまではいくかどうか……)
強力な魔法だけれど、あの魔人に通用するかどうかはわからない。
それでも試してみるだけの価値はある。
腕の砲塔より空間すらも引き裂く霊子の雲がバリバリと音をたてて放たれた。
一瞬、周囲の空気まで弾ける。
「ググググギギギ!!」
腕をクロスし耐える漆黒の魔人。
「うぉぉぉぉおおおおお!!」
嵐がおさまったあと、なんとかその存在を維持した魔人が膝をつき、こちらを睨め付ける。
「油断、しすぎました、かね。ここまでのチカラがあるとは……」
ふざけたような口をしていた魔人。しかし今は横一文字にぎゅっと噛み締める。
その表皮もずいぶんと傷つき、その存在値もずいぶんと薄れてきていた。
「どうする? もうそろそろ魔界に帰ってくれる?」
「っく! ワタシが帰ろうともここまで広げた魔溜りは消えはせんぞ!?」
「そっか。気がついてないか。あんたの背後の魔溜り、今のディラックトランスで蒸発したよ?」
はっと振り向く魔人。
「ふはっ。ふはははははは!! まさかここまでとは!! ああ、負けだ負けだ負けだ。ワタシの負けだ」
その背後。漆黒の魔溜りのあった場所のその底に魔結晶が黒く輝いてた。
(今は……、あの魔結晶を回収してルーク様の元に駆けつけるのが優先、かしら……)
強がってはいるけれどこれ以上は体力的に限界がきそうなのを感じている。
さっきの真空相転移を放った時も、意識を刈り取られそうになってかろうじて踏みとどまった。
「それじゃぁ、大人しく帰ってくれるってことでいいのかしら? それともまだわたしと遊ぶ?」
「ふむ。そうだな。しかし……、沼が無くなって穴までも消えてしまった。ワタシは自力では帰れぬよ?」
「え!?」
「だから元々自力でこちらに来たわけでは無いというのに。漆黒に輝く穴を開けワタシを呼び出したのはこの世界の人間だろう?」
それはちょっと盲点だった。
穴というのは召喚術により開いた次元のトンネルのことだろう。
もともと、魔結晶による召喚術は一方通行しか知らない。
そもそも任意の二つの世界を常時行き来する方法なんて今のこの世界には無い。
あの魔人がずいぶんとチカラのある魔族であったのと、この世界に呼んだ魔道士をあっさり殺してしまったことから、きっと自力で帰る方法があるんだろうと決めつけていたセラフィーナ。
「しょうがないわね! じゃぁ、あなたはしばらくここにでも入っていなさい!」
そういうと右手を掲げ、その手のひらの真ん中にゲートを開いた。
「なるほど。ではその言葉に従おう」
ギュルルと勢いよくゲートに吸い込まれる魔人。
(ちょっと気分は悪いけどしょうがないか……)
放置しておくよりもマシ。負けを認め大人しくしているうちにと自身の魂のゲートから魔人を取り込んだセラフィーナ。
背後の騎士団の様子を探ると、あちらはまだドラゴベアーとの戦闘中らしい。
(無事でいて……ルーク様、他の皆様も……)




