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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔法少女チョコドロップ

作者: 光車

お題

『チョコレート』

『リボン』

『昔話』

 僅かに甘い香りのする、ドロドロに溶けた大地。

 辺りには大量のクッキーの木が燃え、どこか遠くでは熱い蜂蜜が噴き上げる。


 そんな終わりの世界に、少女は1人佇んでいました。


「……なんで、こうなっちゃったんだろうね。チョコ」


***


 300年ほど前。魔法を扱える人が生まれ始めました。

 その魔法を扱えるのは限られた少女だけで、人々は魔法を使える少女達のことを『魔法少女』と呼びました。

 彼女らは魔法を使いありとあらゆる影響を及ぼしました。

 あるものは平和を、あるものは戦を。

 彼女らが与えた影響は凄まじく、世界が変わってしまう程でした。


 当然、その影響はあらゆる人々に降り注ぎます。

 魔法少女同士が争った日には、街が丸ごと消え去った時もありました。


『お母さん、なんで戦いは無くならないの?』


 少女は母の屍の前に立ち、青いリボンを手に握り締めて涙を浮かべながらそう呟きます。

 当然屍は返事を返しません。

 少女は魔法少女でした。だからたまたま魔法少女達の争いの中、生き残ることができました。

 けれど魔法少女ではない者が生き残れるほど、魔法少女の力は弱くありません。

 悲しいことですが、少女の母は生き残る力を持っていませんでした。


『きっといつか……いつか無くなるよ』


 少女に少年がそう言って慰めます。

 少年は少女の友達であり、少女がなんとか生き延びらせた唯一の人間でした。


 少年はわかっていました。

 いつか、というのはきっと永遠に来ないことを。

 けれど、少年はあえてそう言いました。

 少女を元気付けるために。


 純真無垢であった少女でもそれは分かりました。

 いつか、というのが永遠に来ないことはわからなくとも、少年が少女を元気付けるために言った言葉であったことはわかりました。


『……そうだと良いな』


 少女は、悲しげにつぶやきました。



 数年後。

 少女は魔法少女として立派に成長していました。

 少年を守りながら、必死に生き延びていました。


『今日分の食糧は……うん、大丈夫』


 少女の魔法はお菓子を作る力でした。

 チョコレートでもクッキーでも、いろんなものが作り出せました。

 けれどそれは体に悪いから、どうにかして普通のご飯を集める必要がありました。


 少女は一生懸命ご飯を集めて、2人分のご飯を作って。

 毎日毎日懸命に生きていました。


『……ごめんね、チョコ』


 少年はとても苦しかったです。

 いくら食糧を少女が用意してくれるとしても、どうしてもお菓子の割合は多くなります。

 なにせお菓子はいくらでも作れます。

 手に入りにくいご飯よりは、お菓子の方が多くなるのは当然でした。


 そしてお菓子ばかり食べるのは身体に悪いです。

 少女が作るのを一番得意としたものはチョコレートだったけれど、チョコレートなんて砂糖の塊。

 そんなものを食べ続けていれば絶対に不健康になってしまいます。


 それでも少女には心配をかけさせまいと、無理をして少女に笑顔を見せていました。

 それがきっと、少女のためになると信じて。


『気にしないで、ドロップ』


 少女はそれで騙されていました。

 少年の優しい嘘には気付きませんでした。

 少女は少年が嘘をつくなんて思っていなかったからです。

 だから少女は、その嘘が本当に見えていました。


 そんな、苦しい生活が何ヶ月と続いた結果、少年は弱りきってしまいました。


『……あら、ここにまだ生き残りがいたのね』


 そして、平和も長くは続きませんでした。

 ある日、少女たちのもとへ魔法少女が降り立ちました。

 魔法少女は少女が魔法を使えることを一目で見抜き、魔法少女は少女に言いました。

 仲間になるならば生かしてあげると。


『私は、チョコを守る』


 けれど少女にとって出来ない相談でした。

 なぜならそれでは魔法少女ではない少年は生きることができないからです。

 ただでさえ少年は最近動けなくなっているのです。

 何故だかはわからないけれど、それでも元気がなくなっているのはわかりました。


『そう。なら死になさい!』


 交渉は決裂して、魔法少女は攻撃をしてきました。

 炎の塊を飛ばしてきたのです。

 少女は必死で防御します。

 チョコレートの盾を作り上げて防いで、アメの槍を作って投げて。

 そんな戦いが長く続いて、最後には少女が水飴を降らせて魔法少女の動きを止めました。


『っく、これ以上は無理ね』


 魔法少女は水飴を焼いて溶かすと、どこかへ飛び去っていきました。

 少女は安心して、少年のもとへ戻ります。


『チョコ、魔法少女をやっつけたよ! ……チョコ?』


 けれど少年は居ませんでした。

 そこにあったのは、少年の形をしたチョコレート。

 少年の形をしたチョコレートの手には、青いリボンが握りしめられていました。


 青いリボンは少女が母から貰った大切な形見の一つ。

 それを少女は少年に渡していました。

 それを少年が手にしているということは──。


『……うそ、なんで。どうして』


 魔法のお菓子は毒でした。

 食べた人を少しずつ蝕んで、お菓子にしてしまう毒でした。

 作り上げた少女には決して効かない、特別製の毒でした。


 けれどなんの力も持たなかった少年には効きます。

 何年も何年も、ずーっと食べ続けてきた少年にとって、毒に蝕まれていることは少女に絶対に伝えられないことでした。

 それは少女のがんばりを否定してしまうことだと思ったからです。


 けれど言わなかった結果、少女に嘘をつき続けた結果こうなってしまいました。


 少年は死んでしまったのです。


***


「……雲は綿飴になって、宇宙は綺麗な飴になって。この世界は私の毒に満たされた。こうすればチョコは帰ってくると思った。けど……帰ってこないよね。チョコ」


 水飴が悲しげに空から降り注いで、熱を持つチョコレートの大地を冷やしていきます。

 ドロドロとなって甘い匂いがする世界の中、少女は悲しげに手を握り締めました。


「……なんで、こうなっちゃったんだろうね。チョコ」


 少女は1人、そう呟きました。

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