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ファラの血族  作者: iReSH
第四章 二つの王家
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二つの王家(4)

 城内三階――祝宴の間前――



 ファラとユナウは謁見の間がある四階へと上がる階段を目指していた。



「上への階段はここを抜けた先だな。」



 三階までは簡単に来られました。

 そこまでは良かったのですが、螺旋階段で繋がっている一階から三階までとは異なり、謁見の間へと続く階段へは中央にあるこの祝宴の間を抜けた先の廊下を通る必要があります。


 しかし、それを知るまでにやたらと三階を捜索する羽目になってしまったことが今の状況を招いてしまいました。



「いたぞ、あそこだ!」



 後ろから憲兵さんが二人追いかけてきています。


 私達は一旦祝宴の間を通り過ぎ、先程見つけた侍従の詰所へと紛れ込みました。



「兵が少ないとはいえ、滅多矢鱈に動き回るもんじゃないな。」


「あと少しなのに……。」



 憲兵さん達の詰所に誤って入った時にはどうなる事かと思いましたが、外に出払ってくれていたおかげで詰所はもぬけの殻でした。

 城内の地図をそこで見つけられたのも運が良かったと言えます。


 そこまでは恙なくいっていたのですが、まさか詰所を出て行こうとした矢先に鉢合わせてしまうなんて――。



「行ったか……?」



 やや不安げながらファラは物陰からひょこっと顔を出すと、誰もいないことを確認してからゆっくりと部屋の入口の方へ歩いていきました。



「大丈夫そうだな。」


「でも、憲兵さん達はまだしも、侍従さん達もいないなんて、どうなっているんでしょうか?」



 ホッと胸を撫で下ろすファラに、私は問いかけました。



「恐らく避難したんじゃないかな。さっきの戦車が城の城壁を破壊した時点で敵が城内に入ってくる可能性は高い。となれば、戦えない侍従達は避難していてもおかしくはない。」



 確かにファラの言う通り避難していると考えるのが自然です。

 ですが、詰所の状態からしてつい数分までここにいた使用感があります。


 戦争を引き起こしたのは国王陛下ご自身で間違いないはず。


 そしてその目的は〝下界人の殲滅〟


 なら、側近や侍従の皆さんくらいには安全に配慮して事前に伝えておいてもいいと思うのですが、それすらしないとは――。



「陛下は目的の為ならいくら犠牲を出しても構わないとお考えなのでしょうか?」



 カルフデラが正義の門を破ってから既に二十分近く経っています。

 もう死傷者が出ていてもおかしくない頃です。


 仮に本当に下界人が悪だとして、下界人を殺せたとしても、多くの犠牲者が出てしまったらそれを引き起こした王家の信頼は地に落ちてしまうでしょう。


 陛下ほどのお方がその事を考えに入れていないとは思えませんが、その辺りはどうお考えなのでしょうか。



「出さなければそれに越したことはないだろうさ。ただ、あの王は下界人を極端に忌み嫌っていた。それに、何か使命感に駆られているようにも見えた。」


「使命?一体何の?」


「さあ?それは本人に聞いてみるしかない。けど、ここまでするんだ。王にはきっと何か俺達が想像もしていない目的があるに違いない。」



 ファラの目は何処か祈っているようでした。

 その気持ちは痛いほど理解できます。



 ただ嫌っている――。



 そんな私情の理由だけでこんな大それたことをしているなんて考えたくありません。

 どうしようもない、止む負えない事情があるに違いない、と考えずにはいられません。



「それを知った上で説得する。説得して戦争を止める。それが俺達の役目だ。」


「うん。」



 役目を果たす――。

 それを胸に留め、再び祝宴の間へ向かおうとした時でした。


 突然背後から聞こえた足音に振り返ると、そこにはモップを振り被る侍従の女性の姿がありました。


 反射的に頭を腕で覆いましたが、それを見た侍従は肩の上で振りかぶっていたモップを腰まで落として足下の方へ薙ぎ払ってきました。

 それに気づいた時はもう遅く、脛に力いっぱい振られたモップが叩き付けられました。



「ユナウ!」



 ファラは私が痛みでしゃがんだのを見ると、咄嗟にモップを叩き落として侍従さんを押し倒しました。



「いや!ごめんなさい!お願いだから殺さないで!」



 侍従さんは酷く怯え、覆い被さるファラに泣きながら懇願していました。



「てめぇ!」


「ファラ待って!」



 怒り心頭で拳を突き上げたファラを私は全力で呼び止めました。



「ユナウ……。」



 ファラはゆっくり拳を下ろして侍従さんから離れると、相手に戦意が無いのを確認してから私の方へ駆け寄ってきました。



「平気か!?」


「痛いけど、大丈夫。」



 私の返事にファラは安堵の溜息をつくと、再び侍従さんの方へ顔を向けました。



「まさか隠れていたなんてな。全然気づかなかった。」


「きっと逃げ遅れたんだと思います。あんなに怖がってる……。」



 その死に酷く怯える姿は、一時は怒りに染まったファラの心でさえ鎮めてしまう程のものでした。



「あんた、大丈夫か?」



 ファラは近づいて声をかけましたが、侍従さんは身を小さく屈めて丸くなってしまいました。



「その……さっきは悪かった。俺達は別にあんたをどうもしないよ。ほら。」



 ファラは両手を広げて敵意がないことをアピールしました。

 すると侍従さんは警戒は解かないまでもこちらと目を合わせてくれました。



「本当に?」


「ああ。俺達は誰も殺してないし、殺さない。むしろその逆。この争いを止める為に動いているんだ。」



 子どもと話す時のようにファラは床に膝を着いて同じ高さの目線になって、優しい口調で話しました。



「争いを止める……?これは貴方達が仕掛けたのではないの?」


「違う。確かに今ここを攻めているのは下界人だ。だけど、この戦争を引き起こしたのはこの国の王だ。」



 侍従さんは口を両手で押さえては瞳孔を酷く揺らし驚いていました。



「陛下が!?そんなまさか……!?」


「信じられないかもしれないが、ほぼ間違いない。だから俺達は王に会うために謁見の間を目指しているんだ。」



 ファラの言うことはこの人からすれば虚言に等しいでしょう。

 お城に仕えている身からすれば、聞き入れてはもらえないと思います。


 そう思ったのですが、私達の考えとは異なり、侍従さんは思い当たることがある様子で額に汗をかきながら何やらブツブツ呟いていました。



「どうかしたのか?」


「い、いえ。何も……。」


「何でもいい。何か気になる事があるなら教えてくれないか。王を説得する材料になるかもしれない。」



 ファラは侍従の手に自身の手を重ねた。

 戸惑う侍従に〝大丈夫だ〟と言わんばかりに目を合わせて頷いた。


 すると、徐々に侍従の手から震えが消え去っていくのを感じる。



「私、さっきまで備品保管庫を掃除していたんです。それで避難の命令が出たのに気づくのが遅れて、それで逃げ遅れたんですが、保管庫を出る際に見てしまったんです。王妃殿下とエリメラ様が一緒にいる所を。」


「王妃を?エリメラっていうのは――?」


「主教様の事です。私達学生は主教様と呼んでいますが、その他の方々からはマザー・エリメラやエリメラ様と呼ばれています。」


「主教って確か……あいつか。」



 ファラは考え込むように俯いては法廷での事を思い出した。



「……で、王妃と主教はそんな所で何をしていたんだ?」



 再びファラが侍従さんに顔を向けると、侍従さんは声を震わせながらも話を続けてくれました。



「そもそも備品保管庫は、私達使用人が普段使う消耗品等を置く場所であって、王族の方々やエリメラ様のような国の重役方が来られるような場所ではありません。ですから始めは不思議に思ってお声を掛けようとしたんです。ですが、話している内容が聞こえた瞬間、怖くなって物陰に隠れてしまったんです。」



 冷や汗を掻きながら侍従さんは必死に喉の奥から声を絞り出しているようでした。



「お二人は言い争っておられました。いえ、正確にはエリメラ様が殿下に対して詰め寄られておりました。このままでは陛下と対立することになる、と――。」


「なるほど。確か王妃はこっちの味方だったよな?」



 ファラの問いに、私は深く頷き返しました。



「たぶん主教様は王妃殿下の言動が自分達に敵対するものだと確信したんだと思う。」


「だとすると、王妃の身も危ないんじゃ……。」



 確かにそれは考えていませんでした。


 恐らく殿下は今まで相当気を遣ってバレないよう立ち回っていたのだと思います。

 だからこそ、私もさっきまで確信を持てませんでした。


 けれど完全に敵だとバレてしまえば、殿下も最悪殺されてしまうかもしれません。


 流石に妻である王妃殿下を殺すなんて、そんな事は考えたくありませんが、陛下が正気ではないことは今回の件で明らかです。


 主教様にしても、何を考えているのか全く予想できない以上あり得ない話ではありません。



「それは大丈夫かと思います。」



 こちらの心配を打ち消すように侍従さんは口を挟んできました。



「どういうことだ?」


「エリメラ様の問い掛けに、殿下は平然とお答えになられていました。その様子にエリメラ様は煮え切らないご様子でしたし、エリメラ様曰く、殿下は元老院に守られているようです。」



 それはまさに寝耳に水でした。


 審判の間での様子からして元老院長も〝知っている側の人間〟なのは間違いないと思います。

 それはつまり、元老院長も陛下側の人間だということで、私達にとっては敵だと思っていました。



「つまり、話を整理すると、今この国は、国王・主教側と王妃・元老院側で完全に二つに割れているってことか。」


「はい。お二人の話からしてそれは間違いないかと。」



 国が二つに割れている――。



 それは一大事ではあれど、同時に朗報でもありました。

 今の話が本当なら、王妃殿下だけではなく元老院の方々も味方という事です。


 元老院は、公爵の天下り組織だったはず。

 それは即ち、ガイラさんのお祖父さまを始めとした前公爵の方々も味方だということです。



「もしかして私達の思っている以上に味方は多いのかも。」


「だな。けど、その方がありがたい。味方は多いに越したことはないからな。」



 ここに来るまでどうやって陛下を説得しようか考えていました。


 いくつか思い浮かびはするものの、本当にこれで説得できるのかと内心不安でした。

 ですが、少しずつではありますが、希望が見えてきた気がします。



「あんたと話せて良かったよ。新しい情報が手に入った。ありがとう。」


「い、いえ。私は……。」



 ふと侍従さんと目が合いました。

 しかし、その目線は直ぐに下がり、その表情は段々と暗くなっていくのが見て取れます。



「ごめんなさい。私ったら何てことを……。」



 私の脛が先程よりも赤く腫れているのを見ると、侍従さんは申し訳なさそうに何度も謝ってきました。



「これくらい大丈夫です。こちらこそ、怖がらせてしまってごめんなさい。」



 侍従さんの肩を優しく擦って落ち着かせると、私達は立ち上がりました。



「一階は下界人達が攻めてきていて危ない。二階の厨房には城の外に出られる隠し通路があるらしいから、あんたはそこから避難しろ。」


「あなた方は……本当に陛下に上申されるおつもりですか?」


「ああ。何があっても戦争を止める。これ以上誰も死なせはしない。」



 侍従さんを安心させるようにファラは自信満々に頷いてみせました。



「分かりました。どうか御武運を。」



 そう言い残して侍従さんは詰所を出て行かれました。



「さて、俺達も早く行こう。思ったより時間を食っちまった。」



 ファラは部屋を出て安全を確認すると後ろに振り返った。



「ユナウ――!?」



 その場に座り込んで脛を押さえるユナウを見て、ファラは急いで駆け寄った。



「ごめんなさい、思ったより重症みたい。歩こうとしたら痛みが酷くて……。」



 見れば、腫れて赤くなっていた部分は青っぽく変色しており益々酷くなっていました。



「これ、骨折れてないか?」


「折れてる……かもしれない。」



 こんなところでぐずぐずしていられない。


 時間が経てば経つほど被害は確実に大きくなっていきます。

 私のせいでこれ以上被害が大きくなるなんて耐えられません。



「ごめん、ファラ。先に行って。私も直ぐ追いかけるから。」


「追いかけるって、この足でか?謁見の間に着く前に憲兵に捕まるぞ。」


「私の事よりもこの国の事を考えて!仮に私が捕まっても、ファラが陛下を説得してくれたら私は解放される。けど、今戦っている人達は死んでしまったら戻って来られない。だから――。」




 私を置いていって――。




 そう言おうとした時、ファラは私の体を無理矢理その背中で背負いました。



「ユナウを置いて行くなんて、俺には出来ない。」


「どうして……。」



 何で分かってくれないの?



 そう口にするのを私は直前で躊躇いました。


 ファラは私のことを想って言ってくれている。それは分かっていたから。



「ユナウ、法廷で君が言ってくれたこと、覚えているか?」



 そんな私の様子を察してか、ファラは落ち着いた口調で問いかけてきました。



「絶対離さない。」



 そうでした。確かにあの時私は言いました。

 無我夢中でしたが、その事だけは覚えています。


 

 お母さまの教え。



 お母さまが私に勇気をくれた、大事な思い出の言葉。



「あの時君は自分の身も顧みず俺の手を離さなかった。そのお蔭で俺は今ここにいる。」



 顔は見えないけれど優しく笑っているのが分かります。


 背中から伝わってくるファラの温もり。

 やっぱり温かくて安心します。



「だから、今度はまた俺の番。俺も君を離さない。俺が君の足になるよ。」



 私はファラの首に手を回し、落ちないようにギュッと抱き締めました。



「行こう!」



 私達は部屋を出て真っ直ぐ祝宴の間へ向かいました。

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