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第6話

「お前が出ていってから何年かして、アマーリエに縁談が来る様になった」


 父は話し始めた。


「そこで一度、付き合った男と、関係を持ってしまった。何度も、何度も。ところが男はアマーリエを捨てた。条件が良くないから、と」

「それでああなったと?」

「いやまだその時はましだった。だが、一度身体の関係に味をしめてしまったアマーリエは、相手が誰であろうとそうしようとした。何処かネジが外れかけていたのだろう。何でああなったのか……」

「で、何で僕のベッドにのしかかってきたのですか」


 両親は口をつぐんだ。


「お父様、お母様、本当のことを言って下さい」

「……お前でも平気な男であるなら、あれでも大丈夫かと思った」

「はあああああ?」


 私は思いきり大声を立てた。


「だってそうだろう。お前の姿でも平気な、将来有望な男なら、中身は多少アレでも、きちんとさせれば美しいアマーリエの方が良いだろう。うちの婿として幾らでも支援もできる」

「……何言ってるんですか」


 私はすうっと血の気が引いて行くのを覚えた。


「まさか、それで何処が良かったのか、って」

「聞いてみてこれは困った、と思ったが、だが、やってみれば」

「それで、私達の部屋の鍵を開けておいたんですね!」

「今では、若い男がいれば、誰でも襲おうとする。アマーリエがそれで孕めばそれでいい。そうすれば、その子を跡取りにできる。いや、リヒャルト君、君が婿に入ってくれれば君を――」


 リヒャルトは黙って私の手を取って立ち上がった。


「行くよ」

「何処へだね」

「帰ります。もう今からでも。こんなところに一秒だって居たくない。ビルギットを居させたくない」


 そして私の手を引っ張って部屋へ戻り、大急ぎで二人して着替えた。

 階段を駆け下り、まだその場に居た二人に向かい、私達はこう告げた。


「さようなら。何であの子がああなったか、最初っから考えてみればいい!」


 私は声を張り上げた。

 きっとそれは寝ていた使用人達にも気付かれただろう。



 外はまだ朝には遠かった。

 荷物が少ない私達は、ともかく広い道へ出ようと歩き出した。

 そして夜が明ける頃、農作業に出かける馬車を見掛けて、しばらく乗せてもらった。


「おや、もしかして、そのあざ…… 昔ここから出ていったというお嬢さんかね」

「ええそうよ。でもまた出て行くわ」

「ああ、それがいいねえ。下のお嬢様もあんなことになって。駄目だね、可愛い可愛いでひたすら甘やかしておくってのは」

「どういうこと?」

「いやあね、何ってことない。あのお嬢さんは、最初の男に振られたあと、子供を孕んだんだよ。だけどそんな男の、と旦那様は認めなくてね」


 ぞっとした。

 そうか、あの子には私の様に「伯母」は居なかったのか。


「その場を見て、何か切れちまったんだね」


 哀れだね、とリヒャルトも言った。


「上のお嬢さん、せっかくだから乗合馬車の停車場まで送って行くよ」

「そんな、悪いわ」

「下のお嬢さんはそんなこと、わし等に言ったことは一度も無かったさ」


 へっ、と彼は笑った。



 それ以来私達は実家からの手紙も電報も、全て絶っている。

 伯母とは連絡を取っているが、それ以上のことはない。

 妹のことはは哀れだとは思うが、それだけだ。

 あの白い肌はまるで変わらないけれど、中身は――

 いや、元から中身なんて、無かったのかもしれない。

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