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第2話

 私にとって、両親は居ないも同じだった。

 乳母と、早くに流行病で夫を亡くした伯母、そして家庭教師が私にとっては親の様なものだった。


 では本当の両親は、と言えば。


 私が生まれて三年後、妹のアマーリエが生まれた。

 実は一年後、二年後も母は身籠もってはいたらしい。

 だがどの年も流産死産と悲しい結果に終わったのだという。

 その後に生まれたのがやはり女の子。

 しかも医者や産婆が言うには、普通の生まれたばかりの赤子にしてはとても可愛らしいときたからには、もう両親が可愛がらない訳がない。

 私は両親と食事すら共にしたことはなかったが、彼女は少し大きくなると、すぐに両親と同じテーブルで食事をする様になった。

 私の食事は綺麗にまとまったものではあったけど、いつも自室で一人で食べるものだった。

 そして何より、妹には早くから「友達」が与えられた。

 近隣に住む事業の重役の子供や孫達。

 そういう子供が遊び相手として、うちに通う様になった。

 遊ぶ声が楽しそうだったので、ある日部屋から庭に出てみると、子供達は「げっ」という声を上げて逃げていった。


「お嬢様!」


 乳母が慌てて私を部屋に引き戻した。


「……いつも注意しておりますでしょう、中庭以外で遊ぼうとは……」

「でもアマーリエは皆と遊んでいるじゃない。どうして私はいけないの? それに、何であの男の子、私を見てあんな声立てたの?」

「そろそろ言った方が良いのでは……」


 乳母に家庭教師は言った。そろそろ? 何のことだろう?


「お嬢様、これをご覧下さい」


 そう言って、乳母は私に初めて手鏡を握らせた。

 そこには女の子の顔が映っていた。――大きな、濃いあざが両頬に広がった……


「え? 何か凄い顔」


 私がそう言ったら、二人は辛そうな顔をした。


「ビルギット様、それは鏡といいます。ほら」


 そう言って家庭教師は私の後に回った。

 私の後に先生がいる。

 先生が手を動かせば、鏡の中の先生に見える人も手を動かす。

 と言うことは。


「……え、これが私の顔…… なの?」


 そう、私は家庭教師がついて勉強する様な歳まで、鏡を見たことが無かったのだ。

 朝の支度は乳母が手伝ってくれる。髪も梳かして編んでくれる。

 鏡を見る必要はなかったのだ。


「それで、男の子があんな声を上げたの?」


 二人とも沈痛な顔でうなずいた。

 そして悟った。

 何故ずっと私は乳母や先生とだけで、門側の庭に出してはもらえず、中庭にしか出られなかったのか。

 お客の声がすると何故か廊下の途中から扉の鍵が閉められた。

 楽しそうな声、騒がしい音、例えば新年のお祝い、そういう時にも、私はただ自室でそれ相応の食事と、伯母からのプレゼントをもらうくらいだった。

 ――それが、十四の歳まで続いた。

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