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3.協力者を巻きこもう(2)

明治38年(1905年)6月 東京


 伏見宮殿下の協力を取り付けると、忙しい東郷提督は佐世保に帰っていった。

 そして数日後に俺は殿下の紹介で、2人の協力者候補に対面する。


「海軍少尉候補生 大島祐一であります」

「ほう、君がね。山縣有朋やまがた ありともである」

松方正義まつかた まさよしだ。何か大事な話があると聞いてきたが?」


 松方さんと山縣さんは、どちらも元老と呼ばれる重要人物だ。

 元老とは明文化された地位ではないものの、天皇陛下の相談役として、宮中で大きな役目を果たしていた。

 彼らは明治の5元老として有名で、他には伊藤博文いとう ひろふみ井上馨いのうえ かおる大山巌おおやま いわおがいる。


 ちなみに松方さんは70歳、山縣さんは67歳と、どちらもけっこうなお年だ。

 しかし殿下の紹介のおかげか、2人とも気さくに接してくれていた。

 そんな2人に、さっそく本題を持ち出す。


「はい。恐れながらお2人には、”未来の夢”について、心当たりがありませんでしょうか?」

「未来の、夢だと?」

「はて、なんのことか……待てよ。最近、ちょくちょく見ている、あの夢のことか?」

「む、そういえば私も……」


 最初、いぶかしそうにしていた2人だが、急に深刻な顔をしはじめた。

 やはり俺の言葉で、記憶が鮮明になったのだろう。


「おそらく山縣閣下は、欧州大戦と原首相の暗殺までは、ご記憶にあるでしょう。そして松方閣下は、関東大震災の後、清浦内閣の成立もご存知ではありませんか?」

「むう、なぜそれを知っている?」

「うむ、やけに具体的だね」


 そう言いながら2人は、今回の主催者である伏見宮殿下に目をやる。

 すると殿下が、端的に補足してくれる。


「実は私もそれは知っています。奇妙なことに我々は、未来の歴史を夢に見ているようなのです」

「なんと! 未来の歴史? にわかには信じられないが、妙に生々しい夢であったのは事実だな」

「私もです。そして殿下たちは、この夢が実現すると考えているのですな?」

「さよう。そして我々が何もしなければ、日本は大きな災厄に見舞われることになります」


 殿下がそう言いきると、松方さんと山縣さんは戸惑ったように互いを見やる。

 やがて山縣さんが、切り出した。


「殿下はつまり、我々が協力して、その未来を変えるべきだと、そうおっしゃるのですな?」

「そうです。ここにいる大島が、そのようなお告げを受けたそうです」


 再び俺に視線が集中したので、後を引き取る。


「はい、私は夢の中で、日本の悲劇を回避するよう頼まれました。実は日本はこれから36年後、アメリカとの戦争に突入してしまい、300万人以上の犠牲者を出して、降伏するのです」

「な、なんだと?!」

「300万人だぁ?」


 とても信じられないといった顔で、2人が殿下を見やれば、殿下は重々しくうなずいた。


「にわかには信じられないでしょうが、十分に有り得る話なのです。日本はいろいろと道を誤った結果、戦争の道を選び、そして負けてしまいます」

「まさか、日本がアメリカと戦争など……」

「我らの子孫は、そこまで愚かなのか……」


 松方、山縣両氏は、しばし言葉を失っていた。

 やがて松方さんが気を取り直し、俺に問う。


「ゴホン。仮に我々が協力するとしよう。そうすれば本当に、日本の未来を変えられるのかね?」

「それは我々の努力しだいですが、十分に可能性はあります。私にはこれから50年以上先の記憶があるため、それによって国を富ますことができます。ちなみに私以外にも、同年代の同志が4人いるため、広い範囲での貢献が可能です」

「ほう、君のような者が他に4人も。ちなみにそれ以外では、どれぐらい未来の記憶を持つ者がいるのかね?」

「はい、まず海軍に東郷平八郎大将と平賀譲少佐、そして陸軍の閑院宮載仁かんいんのみやことひと殿下が、その対象となります。すでに東郷提督にはご協力いただいておりますが、平賀少佐と閑院宮殿下とはまだ、お話ができておりません」


 すると山縣さんが思い当たった顔をする。


「ああ、たしか閑院宮殿下は、満州軍に参加しているのだったな。海軍の平賀少佐は?」

「今年からイギリス駐在武官となったので、今は欧州です」

「それでは急に呼び出すわけにもいかんか。当面はここにいる者と東郷大将、そして君の同志4人とで動くことになるのだな?」

「はい、そのとおりです」


 そう答えると、松方さんがしばし考えてから、また口を開いた。


「しかし未来を変えるなど、そう簡単にできることではない。たとえ良かれと思っていても、裏目に出ることもあるだろう。そのうえで君は、何をするべきだと思う?」

「まずはロシアとの戦争の後始末です。すでにアメリカから、講和勧告が来ていますよね。史実ではこの後、サガレン(樺太)を占領してから、アメリカで講和交渉が始まります。ご存知のように、ロシアは賠償金を出そうとせず、サガレンの南半分の割譲、そして韓国や満州の権益譲渡で講和します」


 そう言うと、皆がうなずいた。

 ここにいる者たちは、その未来を知っているからだ。


「しかし交渉の持っていき方によっては、サガレンの全てを取ることが可能です。そしてサガレンの北部には、有望な油田があります」

「おお、そういえば、そうだな」

「それはぜひ欲しい」


 松方さんと山縣さんが、身を乗り出すように話に乗ってくる。


「ええ、ですのでお2人には、小村外相と相談して、交渉を有利に進めてほしいのです。詳細については、また後ほど」

「うむ、それは分かった。それで次は?」

「それとロシアから譲渡される満州鉄道の権益ですが、アメリカから共同経営の打診があるはずです。鉄道王のエドワード・ハリマンからですね」

「ああ、そんな話もあったな。しかし小村くんが帰国して、ひっくり返してしまうのではなかったか?」


 松方さんの指摘に、俺はうなずきつつ返す。


「ええ、そうなんです。小村外相の言い分も分からないではないんですが、ここはアメリカから金を引き出した方がいいと思うんです。なにしろ日本は、この戦争でずいぶんと借金を作りましたから」

「そうだね。しかし今は苦しくとも、将来のことを考えれば、日本単独で経営した方がいいのではないかな?」

「いえ、残念ながら、それが対米戦争の遠因になっていくんですよ。なまじ満州に権益を得てしまったがために、日本はそこを植民地化しようとします。一方のアメリカは、大陸の権益に食いこみたいがために、事あるごとに日本に文句を言うようになるんです。そして日本は満州国という傀儡かいらい国家をうち建てた結果、国際社会で孤立し、対米戦争に突き進んでしまいます。そういう意味で満州は、毒まんじゅうでしかないですね」

「むう、そうなのか……」

「ちょっと想像がつかん話だな」


 なかなか納得できない両人に、殿下が声を掛ける。


「私の記憶でも、たしかに満州が引き金になっています。ここは大島を信じてやっていいでしょう」

「ありがとうございます。それに戦争うんぬん以外にも、アメリカを利用する意味は大きいんですよ。満州への投資はアメリカに任せて、我々は国内への投資に集中できますから」

「国内の投資など、限られているのではないか?」

「いえ、日本を強靭化するためには、国内の投資は必須です。皆さんご存知のように、今から9年後に欧州で大戦が起きます。その時に膨大な需要が発生して、日本は未曾有の好景気になります。しかしその裏では製鉄や造船能力などが足りず、営業機会を逃してしまう面も大きいのです。その辺を今から強化しておけば、日本はより多くの儲けを得られます。今回の借金なんて、すぐに返せますよ」


 そう言うと、3人は素直にうなずいてくれた。


「言われてみればそうだな。普通にやっても大儲けできるのだから、備えていればなおさらだ」

「ふむ、たしかに負けのない博打ばくちのようなものだな」

「うむ、満州よりもよほど儲かりそうだ」

「ですよね。そのためには満州を独占するのではなく、アメリカと組むのが必須なんです。そうすれば日本は国内投資に集中できるうえに、アメリカに恩も売れますから」

「う~む、小村くんと相談は必要だが、検討の余地はあるな。しかし国内に投資するにも、原資が足りんのではないかね?」


 そんな松方さんの質問に、俺は重要な提案をする。


「それですが、軍縮でひねり出したいと思います」

「なんだとっ!」

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