幕間: 後島クンは最強戦艦の夢を見る
俺の名前は後島 慎二。
現代から明治へのタイムスリッパーであり、転生者だ。
え、何を言ってるか、分からないって?
俺にも分かんね~よ。
だけど明治にタイムスリップさせられた俺たちは、見事、日本を太平洋戦争で勝利に導いたんだ。
それでお役目ご免てことで、大往生したと思ったら、また明治に送り返された。
それも今度は、海軍軍人に転生させられてだ。
それをやったヤツは、自分のことを高位存在とか呼んでたけど、俺は存在エックスと呼ぶことにした。
だってムカつくんだもん。
それはさておき、明治に転生した俺は、18歳で前世の記憶を取りもどした。
それから仲間を探したら、すぐに正三や四郎、健吾とは連絡がついたんだ。
だけど祐一だけは、話が通じない。
どうやらあいつだけは、まだ記憶を取り戻してないらしい。
つまりまだ、俺たちが動きだす時期じゃないんだろうってことで、様子を見ることにした。
そして日本海海戦を乗りきって、佐世保に入港したら、ようやく祐一から声が掛かったんだ。
「よう、久しぶりだな、慎二」
「おう、祐一じゃねえか。その様子だと、お前も思い出したんだな」
「ああ、戦闘の真っ最中で、びっくりしたよ」
「ハハハ、そいつは災難だったな」
なんか、バルチック艦隊と撃ち合ってる真っ最中に、記憶を取りもどしたんだって。
笑える。
そんな話をするうちに、俺は気になっていたことを訊ねてみる。
「なあ、存在エックスの言ってた協力者って、誰か分かるか?」
「ああ、それならちょっと、心当たりがある。こんな物が、ポケットに入ってたんだ」
そう言いながら祐一は、ポケットから紙を取り出して広げた。
それには筆書きで、6人の有名人の名前と、”未来の夢”って言葉が書いてあった。
どうやらこの言葉がキーワードだろうってことで、俺たちは最も身近な協力者候補に、アタックすることになる。
「未来の、夢だと? なぜそれを知っている?」
ほら、やっぱり当たりだった。
リストに載っていた東郷大将は、最初おどろいていたものの、ちゃんと話を聞いてくれた。
そして思った以上に、協力的だったんだ。
これも存在エックスの、仕業なんかね。
結局、東郷大将の説得に成功した祐一は、今は東京へ行って、伏見宮殿下や松方閣下、山縣閣下をも味方につけようとしている。
たぶん、上手くいくんじゃないかな。
あいつは前から、人を味方に付けるのが上手かったからな。
それなりに弁が立つのも事実だけど、それ以上に真摯さが伝わりやすいんだ。
大抵の人間は誰かを口説くとき、そこに個人なり組織なりの打算が入る。
だけど祐一は、あんまりそういう事を考えない。
どうするのが会社にとっていいのか、国家のためにいいのか、そういうことを真っ先に考える。
普通なら腹黒い奴らに利用されて、馬鹿をみるだけなんだけど、なぜかそうならない。
なんだかんだ文句を言いながら、周りが協力してくれるんだ。
あれが人徳ってやつなのかねぇ?
俺にはマネできねえわ。
ま、今回も主導はあいつに任せて、俺は俺の仕事をしようかね。
俺の仕事といえば、まずは金属関係の技術を高めることだ。
前世では製鉄会社に勤めていたので、その道のことには詳しい。
特に前世の明治では、祐一に頼まれて、エンジン関係の鋳造技術を大きく向上させたもんだ。
昔はシリンダーブロックの歩留まりが、せいぜい5%とか、冗談みたいな世界だったんだぜ。
そこに未来のノウハウをつぎ込むことで、劇的に良品率が向上したんだ。
おかげで俺のことを、”鋳造の魔術師”なんて呼ぶ人もいたぐらいだ。
それから各種鋼材や、特殊合金の開発もやったな~。
史実より10年は先取りしてたと思う。
まあ、未来知識があるから、当然なんだけどな。
何より思い出深いのが、戦艦の開発に関われたことだ。
金剛型にはじまって、長門型、そして大和型と、夢のようだったぜ。
やっぱり戦艦は、男のロマンだよな~。
だけどひとつ心残りだったのが、大和型を46センチ砲にできなかったことだ。
いや、分かるんだよ、みんなの言ってることは。
飛行機や潜水艦が発達した時代に、大艦巨砲は大して役に立たないからね。
他の戦艦と弾薬の互換性がなくなるから、非効率だってのも分かる。
だけどさあ、史実の大和や武蔵は、まさに世界最強だったわけじゃん。
それってほんと、ロマンだよね。
憧れるじゃない。
それが前世では、アメリカのモンタナ級に最強の称号を持っていかれたんだよな~。
それが悔しくて、悔しくて。
まあ、実際に撃ち合ってたら、大和の方が強かったかもしれないけどな。
この世界では、46センチ砲にできないかな~?
でもやっぱ、反対されるんだろうな~。
あ、そうだ。
この世界では平賀さんが、未来の記憶を持つ協力者なんだ。
あの人だったら、俺の言うことを理解してくれるかもしれない。
もしも味方にできたら、心強いよな。
よ~し、こっそりと平賀さん口説いて、46センチ砲を採用しちゃおう。
早くイギリスから戻ってきてくれないかな~。
楽しみだな~。