40.マリアナ沖海戦(2)
昭和15年(1940年)1月下旬 マリアナ沖
マリアナ沖で日本の攻撃隊が、アメリカ艦隊をしたたかに打ちのめした。
しかしその一方でアメリカ側の攻撃隊も、日本艦隊に迫っていた。
それは戦闘機80、爆撃機110、攻撃機110という、総勢300機にもなる大部隊だ。
その最高速度はそれぞれ、
F4F:毎時529キロ
SBD:毎時406キロ
TBD:毎時331キロ
などと、我が軍の航空機からすれば見劣りがする。
しかしSBDは450kgの爆弾を、TBDは1トンの魚雷をそれぞれ搭載でき、信頼性も高かった。
F4Fだって、史実では零戦にやられまくった印象があるが、実際はほぼ対等だったという。
搭乗員の敢闘精神だって低くなく、決して馬鹿にできない戦力なのだ。
やはり最初はF4F戦闘機が飛来したが、これを60機の97艦戦が迎え撃つ。
数的には不利だが、性能では97艦戦が大きく上回る。
しかも空母に搭載された高性能レーダーで、敵の動きを把握し、無線で迎撃指示を出していた。
おかげで10分程度の戦闘で、F4Fは蹴散らされてしまう。
それにいくらか遅れて、部隊ごとの米軍艦爆と艦攻が、日本艦隊に迫る。
しかしこちらもレーダーと無線による航空管制により、適切な迎撃が繰り返された。
もちろん、さすがに全てを艦戦だけで討ち取れるはずもない。
ポロポロと取りこぼされた敵艦爆や艦攻が、我が艦隊に向けて攻撃態勢に入った。
しかしそんな敵機を、鬼のような対空射撃が迎え撃つ。
まずは戦艦から駆逐艦までに装備された、5インチ(12.7センチ)砲が火を噴いた。
それは射撃レーダーのデータに基いて、5インチ砲の旋回角、仰角などを計算し、敵機を自動追尾する。
さらに日本でも開発した近接信管が、20メートル以内に敵を感知すれば、砲弾が爆発するのだ。
この近接信管は、史実でVT信管としてアメリカが実用化したことで有名である。
情報欺瞞のためにVT(可変時限)信管と呼ばれているが、それは周辺に金属を感知すると爆発するという、画期的な兵器なのだ。
元々はイギリスで発想されたものの、砲弾発射の衝撃に耐える真空管が実現できず、頓挫していたという。
それをしっかりと実用化させてしまうアメリカの地力には、ただただ驚くほかない。
そんな近接信管を用いた、5インチ砲の命中率は、実に50%を叩き出したという。
史実アメリカ海軍が高い防空能力を発揮したのには、その合理的な迎撃態勢と共に、このVT信管も寄与しているのだ。
ちなみにレーダー射撃もVT信管も持たない日本海軍の命中率は、わずか0.3%だったという。
太平洋戦争後期の日米の防空能力は、これほどに隔絶していたのだ。
道理で日本の航空戦力だけが、一方的に消耗するはずである。
そしてこの世界では、アメリカの航空機にそれが向けられた。
おかげでアメリカ軍の攻撃は、日本艦艇にほとんど届かなかったのだ。
日本側の被害は数発の至近弾による破損と、97艦戦が数機、失われただけに留まっている。
さらに攻撃隊の方も、今世では高性能な流星のおかげか、その被害は格段に少なかった。
その後、攻撃隊を回収した第1・第2機動艦隊は、アメリカ艦隊の生き残りを攻撃するべく、攻撃隊を再発進させた。
しかし空母戦力を全て喪失し、かつ日本海軍の脅威を知った戦艦部隊は、あっさりと戦場を離脱していた。
それらはバラバラに逃走したため、戦艦を仕留めることは、1隻も叶わなかったのだ。
代わりに現場で救助活動に当たっていた、残存巡洋艦と駆逐艦は、早々に白旗を掲げて、降伏の意思を示す。
日本側はこれを受諾し、ここにマリアナ沖海戦は、終結したのだった。
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昭和15年(1940年)2月初旬 東京 ”国策検”
「以上がマリアナ沖海戦および、グアム攻略戦の概要です」
「うむ、ご苦労。海軍も陸軍も、実によくやってくれたな」
「はい、これも献身的に戦ってくれた、将兵のおかげです」
「もちろんだ。大勝利とはいえ、犠牲もあったことだしな」
マリアナ沖海戦とその後の結果について、俺は”国策検”で概要を説明していた。
海戦では戦艦部隊を取り逃がしたものの、マリアナ周辺の制海権を手に入れた。
その絶対的な優位性をもって、連合艦隊はグアムを攻略。
早々にグアムの基地能力を奪い、陸軍1個連隊を上陸させた。
アメリカ軍は多少の抵抗を示したものの、救援が来る見込みはないことを知ると、やがて降伏してきた。
これによって日本はマリアナ沖海戦も含め、総計で1万人近い米兵を捕虜としている。
続けて首相が川島に問う。
「それではフィリピンの状況は、どうかね?」
「はっ、フィリピンは重爆撃機で叩いた後、海軍の協力によって上陸を開始しました。近日中にはマニラ周辺を制圧できる見込みです」
「うむ、そうか。実に頼もしい話だな。しかしフィリピンには、現地人も合わせれば15万人の兵力があるのだろう? 全ての制圧は、容易ではないと思うが?」
「はい、おそらくアメリカ軍は、バターン半島のコレヒドール要塞に籠城すると見ています。ですので我々は周囲を固め、閉じ込めておく予定であります」
「そんなことで大丈夫かね?」
「はっ、無理に攻めて降伏させる必要はありません。無力化が一番です」
川島が言うように、フィリピンの攻略も進んでいた。
99式重爆撃機 飛龍で港湾や飛行場を叩き、無力化したうえで4個師団が上陸。
いずれ敵は史実のように、コレヒドール要塞に籠城するはずなので、そのまま閉じ込める作戦だった。
「そうか。それでは南方航路の方は?」
「はっ、開戦当初、数隻の商船が攻撃を受けましたが、最近は沈静化しています。すでに日本海、東シナ海、南シナ海に通じる海峡には、機雷堰を敷設しており、今後も海防艦によるパトロールと、護送船団方式によって被害を防ぐ予定です」
「うむ、さすがだな」
開戦から1週間ほどの期間で、アメリカ潜水艦によると思われる商船の被害が複数、発生していた。
史実でもそうだったが、アメリカは何の躊躇もなく、日本に無制限潜水艦作戦を仕掛けてきたわけだ。
これを受けて日本は、海防艦によるパトロールを実施し、護送船団方式の準備も進めている。
今後も多数の護衛空母や海防艦を投入して、アメリカの潜水艦に対処していく予定である。
それに加えて、日本海や東シナ海、南シナ海に通じる海峡に、機雷堰を敷設し、米潜水艦の侵入を阻む準備も整った。
そして敷設が困難なバシー海峡(台湾とフィリピンの間)のみ、空と海の戦力で封鎖することによって、3つの海を内海化するのだ。
もちろん、機雷堰のみで潜水艦を排除できるとも思えないので、パトロールや護送船団方式も続ける。
これなら蘭印やビルマ、中華民国、清国、正統ロシアなどから、資源や食料が継続的に輸入でき、長期戦にも対応できるという寸法だ。
「それでは、今後の作戦は、予定どおりかね?」
「はい、ウェークとミッドウェーを取ってから、ハワイを叩きます。ハワイは占領せず、海上封鎖によって無力化します。そのうえでアメリカ本土を爆撃し、停戦交渉を持ちかける作戦です」
「うむ、こちらの期待どおりに、なってくれればいいがな」
「それは小官にも保証しかねることです。しかし日本本土への攻撃を避けるべく、全力を尽くします」
「ああ、よろしく頼む。こちらは外交交渉に、全力を尽くそう」
「はっ、よろしくお願いいたします」
こうしてアメリカ軍の初撃は退けたものの、前世とはまた違った展開になっている。
はたしてどこまでやれば、アメリカは音を上げるのだろうか。
2022/4/1追記
書き忘れてましたが、VT信管自体の命中率向上代は、時限信管の3倍程度と言われてます。
そこにレーダー連動の予測射撃が合わさって、最大50%の命中率を叩き出したとか。
もちろん前提条件などで変化しますから、そんなこともあるんだぐらいの理解でお願いします。




