39.マリアナ沖海戦
昭和15年(1940年)1月下旬 東京 大本営
グアム、台湾への爆撃から2日後、日米それぞれの機動艦隊が激突した。
日本はウェークからマリアナ近海へ展開していた潜水艦から、敵艦隊の存在を把握していた。
しかしアメリカも日本近海に潜水艦を配置していたらしく、連合艦隊の出動をつかまれていたようだ。
そして互いに偵察機を出し合い、敵艦隊の位置をつかもうとした。
そんな偵察合戦に先んじたのは、やはり我が国だった。
【99式艦上偵察機 彩雲】
長さx幅:11.2x12.5m
自重 :3トン
エンジン:中島 誉 空冷星型18気筒(41.6L)
出力 :2200馬力
最大速度:毎時630キロ
航続距離:増槽つき5千km
武装 :7.9ミリ機銃x1
乗員 :3名
その原動力となったのは、99式艦上偵察機 彩雲だった。
史実よりも大排気量で、高い性能と信頼性を両立した誉エンジンを積んだ、海軍のハヤブサである。
その速度性能もさることながら、高性能のレーダーと無線機を装備し、高い偵察能力を有していた。
そんな彩雲の通報を受けて、日本の機動艦隊から、多数の航空機が飛び立った。
97艦戦:80機
99艦攻:235機
彩雲 :5機
この99艦攻とは昨年、制式化したばかりの艦上攻撃機”流星”である。
【99式艦上攻撃機 流星】
長さx幅:11.5x14.4m
自重 :3.7トン
エンジン:中島 誉 空冷複列星型18気筒(41.6L)
出力 :2200馬力
最大速度:毎時580キロ
航続距離:1852km
武装 :12.7ミリ機銃x2
800kg魚雷もしくは800kg爆弾x1
乗員 :2名
彩雲同様に誉エンジンを積み、高い速度性能と、爆撃・雷撃をこなす多用途機だ。
12試 艦上攻撃機として開発を進めていたが、立派に実用性と信頼性を備えたうえで、量産体制に入った。
これにやはり改良で速度性能を増した97艦戦を加え、彩雲に導かれながら、敵機動艦隊に迫ったのだ。
一方、アメリカ艦隊も多数の偵察機を出し、日本機動艦隊の発見に成功していた。
すかさず敵艦隊からも、F4Fワイルドキャット、SBDドーントレス、TBDデバステーターが飛び立った、
その数300機にもおよぶ、大編隊だ。
アメリカ艦隊の方が1時間ほど遅れていたが、こうして日米の機動艦隊は、それぞれに矢を放った。
当然ながら先に攻撃を掛けたのは、日本側である。
まず彩雲に先導された97艦戦が、アメリカ機動艦隊の上空に到達する。
上空にはすでに、多数のF4Fが待ち構えていた。
しかしこの頃のアメリカ艦隊には、さほど高性能なレーダーなどありはしない。
史実でも1940年にイギリスから技術供与を受け、急激に進化したのだ。
艦載レーダーはあったものの、その探知距離は短く、高度の測定もできなかった。
そんな状態のアメリカ艦隊に、97艦戦が殴りこみを掛ける。
たちまちのうちに混戦にもつれ込んだが、煙を上げて落ちていくのは、ほとんど山猫の方だった。
史実よりも開発は早まっているが、この頃のF4Fは制式化されたばかりである。
最高速度が50キロも優速な97艦戦の、敵ではなかった。
1機、また1機と落とされていき、やがてアメリカ艦隊の上空を守るF4Fはいなくなる。
それを見て取った艦攻隊が、敵艦隊の攻撃に取り掛かった。
235機もの艦攻は、爆撃隊と雷撃隊に分かれて、それぞれの侵入コースをたどる。
上空からは500kg爆弾を抱えた機体が、そして低空からは魚雷を抱えた機体が、獣のように敵に迫った。
そして日本攻撃隊は、まず空母の周囲を守る巡洋艦、駆逐艦から始末していった。
最初に火を噴いたのは、99式航空魚雷だ。
前世でも実現した音響誘導魚雷だが、今世ではさらにその性能は高まっている。
【99式音響誘導航空魚雷】
長さx直径:5.3x0.45m
自重 :800kg
駆動方法 :電動モーター
最大速度 :毎時40ノット(74キロ)
航続距離 :5千m
弾頭重量 :200kg
それは敵艦のスクリュー音を追跡する、音響誘導機構を備えている。
しかも最大速度は、前世の35ノットから40ノットへアップしていた。
バッテリー性能を向上させ、推進方法を見直した結果である。
高速な分、誘導制御は困難になっているが、前世の経験も踏まえて、なんとか実用化できた。
まあ、その分、中島が苦労したそうだ。
今世でもちょっと、ノイローゼ気味になったらしい。
そしてこの高性能魚雷が、まず外周部の艦艇に突き刺さった。
前世の誘導魚雷も大したものだったが、撃ち方によっては、命中前に電池切れになる場合もあった。
それが5ノットも優速になり、制御方法も進歩しているおかげで、命中率が増している。
おかげでバタバタと巡洋艦や駆逐艦が脱落していき、空母の守りが薄くなった。
すかさず次の流星が魚雷を放ち、空母のスクリュー付近を破壊する。
これで行き足を失った空母に、さらなる災厄が降りかかった。
爆装している流星の緩降下爆撃によって、500kg爆弾が甲板に突き刺さったのだ。
爆弾は空母の防御甲板を突き抜けて爆発し、致命的な被害を空母に与えていた。
ちなみに流星が緩降下爆撃をしているのは、その高速性ゆえだ。
史実の99艦爆などは、せいぜい時速400キロ前後なので、70度以上の急降下爆撃が可能だった。
それが時速500キロを超えると、降下速度が速くなりすぎるので、45度前後の緩降下爆撃が合理的になるのだ。
史実でも、高速化した艦爆の”彗星”は、緩降下爆撃を行ったという。
ちゃんと訓練してるから爆弾の命中率は悪くないし、高速な分、敵の対空砲火にも当たりにくい。
おかげで爆撃隊の被害は、前世よりも軽減できていた。
こうして、数十分の攻防により、アメリカ艦隊の空母は無力化された。
さらに戦艦部隊にも若干の被害を与えると、攻撃隊は悠々と帰路についたのだ。
しかしその一方で日本艦隊へも、アメリカの攻撃隊が迫っていた。




