38.日米開戦
昭和15年(1940年)1月下旬 東京 大本営
アメリカの最後通牒から1週間、日本は戦争準備を進めるだけで、回答を返さなかった。
これをもって1月22日正午、日米は交戦状態に突入する。
先手を打ったのは、もちろんアメリカだ。
「テニアン島がアメリカ軍から攻撃を受けています!」
「台湾南部の飛行場に、爆撃機が飛来しました!」
そんな情報が市ヶ谷の大本営に、続々と寄せられる。
アメリカはまず、マリアナ諸島のテニアンへ殴りこみを掛けてきた。
こちらはグアムを飛び立った爆撃隊が、テニアンの港湾や飛行場を狙ったのだ。
これに対し、日本は敢然と立ち向かう。
テニアン、サイパンの飛行場から、多数の戦闘機が飛び立ち、迎撃に当たったのだ。
そこで活躍したのは、97式戦闘機と飛燕である。
97式戦闘機は97艦戦の陸上版で、艦載装備を省いた代わりに、防弾装備を強化している。
制式化後も順調に改良を重ね、最高速度は時速580キロを超えていた。
そして飛燕は12試局地戦闘機の制式版で、昨年に制式化したばかりの新鋭機だ。
【99式 局地戦闘機 飛燕】
長さx幅 :8.7x12m
自重 :2.9トン
エンジン :川崎 マーリン 水冷V12気筒エンジン(27L)
出力 :1600馬力
最大速度 :毎時630キロ
航続距離 :増槽つき1600km
武装 :20ミリ機銃x2、12.7ミリ機銃x2
乗員 :1名
空気抵抗の少ない液冷エンジンの特性をいかし、高い速度性能と上昇性能を誇る。
その武装は97式よりも強力で、大型爆撃機にも有効である。
対するB17爆撃機は、自重16トン、爆弾搭載量4.5トンというモンスターであり、多数の機銃を備えた空飛ぶ要塞だ。
それが護衛戦闘機も含め、実に百機による殴りこみを掛けてきたが、それ以上の戦闘機で歓迎してやった。
我が軍はまず、テニアンに設置したレーダーで、敵の襲来を察知していた。
そして高性能な無線機によって、迎撃戦闘を指示する。
これによってアメリカ軍は多数の被害を出しながら、さしたる戦果を得られずに撤退した。
もちろんテニアン島は一部の建物や飛行場に、被害は受けたものの、すぐに復旧可能なレベルである。
同じようなことは、台湾の南部でも発生していた。
フィリピンのアメリカ軍基地から飛来した爆撃機が、攻撃を仕掛けてきたのだ。
しかしこちらも準備万端。
多数の飛燕や97戦により、盛大な歓迎を受けた。
結局、こちらも大した成果を得ぬまま、ほうほうの体で逃げ出した形だ。
「どうやらテニアンも台湾も、撃退には成功したようだな」
「ああ、一応な。しかしマリアナ近海には、敵の艦隊が来ているらしい。まだ油断はできない」
アメリカは最後通牒を突きつけるのと並行して、グアム近郊に太平洋艦隊を送ったらしい。
その陣容はまだ不明だが、戦艦、空母を含む大艦隊の模様である。
「それはこっちも一緒だろ? 正面から殴り合って、負けるとは思えないがな」
「それは敵の陣容しだいだな。今、確認を急いでるとこだ」
「ま、それもそうだな。朗報を待とう」
防衛戦が一段落したところで、俺は川島と言葉を交わしていた。
川島は楽観しているようだが、こっちは気が気ではない。
なにしろ前世に比べて、敵艦隊の来襲がメチャクチャ早いのだ。
こちらもそれなりに準備を整えていたとはいえ、安心はできない。
おかげで俺は、新情報が入るまで、胃の痛い思いをしていた。
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「敵艦隊の陣容が、ほぼ判明しました!」
「おおっ、分かったか。どうなっている?」
「はっ、こちらに」
翌日になってようやく、敵艦隊の陣容が判明した。
それはウェークからマリアナに繰り出していた潜水艦の報告を、まとめたものだ。
その結果はまさに、驚愕すべきものだった。
戦艦:モンタナ、オハイオ
サウスダコタ、インディアナ、マサチューセッツ、アラバマ
旧型戦艦6隻
空母:レキシントン(93機)、サラトガ(93機)、レンジャー(76機)
エンタープライズ(90機)、ヨークタウン(90機):総計442機
敵はなんと、6万5千トンのモンタナ級戦艦2隻に、3万9千トンのサウスダコタ級戦艦4隻と、空母5隻を伴っているようなのだ。
さらに旧型戦艦6隻と、多数の補助艦艇もいるという。
アメリカは今ある新鋭戦艦と空母の全てを投入しているわけで、まさに乾坤一擲の勝負を掛けてきたと言えよう。
「むう、なんて陣容だ。新型戦艦と空母の全てを、太平洋に回してきやがった」
「これは、想像以上だな」
「ああ、だがこっちだって、決して劣るもんじゃない」
帝国海軍はこの事態を想定して、以下の艦隊を編成していた。
【第1機動艦隊】
司令官:角田覚治中将
戦艦:長門、陸奥、土佐、加賀
空母:翔鶴、蒼龍、鳳翔
(艦戦80、艦攻130機、偵察15 計225機)
重巡2隻、軽巡4隻、駆逐艦16隻
【第2機動艦隊】
司令官:山口多聞中将
戦艦:金剛、比叡、霧島、榛名
空母:瑞鶴、飛龍
(艦戦60、艦攻105機、偵察10 計175機)
重巡2隻、軽巡4隻、駆逐艦16隻
今回は角田少将と山口少将を、中将に臨時昇進させて、それぞれ艦隊を任せていた。
こちらも今だせる戦艦と空母の全てであり、まさに連合艦隊の総力を結集している。
数的には劣勢のようだが、その性能を加味すれば、決して見劣りはしないだろう。
こうして日米による空母機動艦隊の激突が、まさに始まろうとしていた。