幕間: 開戦への想い
【後島 慎二】
くそ、とうとうアメリカとの戦争が始まるな。
さんざん覚悟してきたとはいえ、嫌なもんだぜ。
それにしてもアメリカが、あんなに強引な手段に出るとはなぁ。
日本の海防艦がアメリカ艦を攻撃しただなんて、トンキン湾かよ。
完全に奴らの言いがかりだ。
こうなったらもう、外交もクソもない。
正面から迎え撃つまでだ。
なにしろ我が帝国海軍は、史実よりも格段に強くなってるからな。
多数の航空機を搭載し、高い生存性を持つ空母群に、対空性能を大幅に向上させた戦艦たち。
高い対空性能と高速性を併せ持つ巡洋艦に、バランスの取れた駆逐艦ども。
さらに今世の潜水艦は、アメリカ艦以上の攻撃力と居住性を備えている。
航空機や魚雷の性能も高いから、まず負けはないだろう。
とはいえ、戦争をするからには犠牲は避けられない。
死傷者を少しでも減らすよう、俺もがんばらなくちゃな。
ひとつ心残りなのは、46センチ砲戦艦を見られなかったことだよなぁ。
さすがに平賀さんを巻きこむことも、できなかったし。
今世でもモンタナ級は18インチ砲らしいから、また世界最強の座を持ってかれるのかな?
いやいや、大和や武蔵の、レーダー照準の41センチ砲だって、決して劣らないはすだ。
願わくば、そんな戦艦の晴れ姿を見てみたいもんだなあ。
まあ、どのみち俺は、前線に行けないんだけどね。
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【中島 正三】
とうとう太平洋戦争が始まることになった。
それもアメリカの謀略による、だまし討ちがきっかけだ。
うすうす予想はしていたけど、まさかそこまで恥知らずなことをするなんて。
こんな時のために、僕たちは日本を強靭化させてきたんだ。
だけどそれがむしろ、アメリカの嫉妬と疑心を買ってしまっただなんて、皮肉だな。
でもこうなったからには、僕も腹をくくるしかない。
だってそうしなきゃ、大勢の日本人が死んでしまうんだ。
同胞を守るためなら、僕も鬼になるしかない。
もっとも、僕自身が前線で戦うわけじゃないけどね。
僕が作った兵器が、アメリカ人を殺すんだ。
今世でもいろいろと苦労したなぁ。
原さんと一緒に強力な戦車を作ったし、レーダーや近接信管、高性能通信機も開発した。
他にも誘導魚雷や高出力バッテリー、高性能モーターとかも作ったな。
特に誘導魚雷は、やっぱり苦労したなぁ。
前世でもやったけど、今世のはさらに高性能だからね。
ぶっちゃけ、何度、夢に出てきたことか。
その甲斐あって、優秀な魚雷になったけど、あれが大勢のアメリカ人を殺すんだ。
ああ、嫌だ嫌だ。
僕が大量殺人の、片棒をかつぐだなんて。
でもこれも、先に殴りかかってきたアメリカが悪いんだ。
申し訳ないけど、死んでもらうよ。
恨むんなら、ルーズベルトを恨むんだね。
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【佐島 四郎】
いよいよ戦争になるか。
そうならんよう、さんざん祈っとったけど、ままならんもんやな。
結局、アメリカっちゅう国は、潜在的な敵を放置は、でけんということやろうな。
それならそれで、受けて立ってやろうやないか。
俺らが鍛えてきた日本は、そんな甘っちょろい国やないでえ。
祐一が育てたエンジンと航空機は、すでに欧米にも劣らん。
慎二が開発した金属材料は、全ての兵器を強化しとる。
正三が生み出す電気技術なんて、敵から見たら反則やろうな。
俺だって様々な化学製品を作ったし、ハイオクガソリンの生産体制も確立済みや。
これらの技術力と工業力は、決してアメリカにもひけを取らんやろう。
そして誰より恐ろしいのが、健吾のやつや。
あいつ、金儲けをやっとるふりして、世界中に諜報網を築いたからな。
そこから得られる情報だけでなく、いざという時に非合法な工作だって可能ときた。
おまけにあいつは、ただスパイ活動に酔ってるだけやないんや。
ちゃ~んと世界の情勢を分析して、戦争の終わらせ方まで考えとる。
あいつがおるから、俺も戦争に賛成できるようなもんや。
頼むで、健吾。
なるべく早く、戦争を終わらせたっとくれ。
でないと正三が責任感じすぎて、ダメになるかもしれん。
自衛のためとはいえ、人を殺すんやからな。
嫌な世界や。
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【川島 健吾】
いよいよ太平洋戦争が始まるか。
俺はさんざん、情報を集めてきたから、こうなるのは分かりきっていた。
まあ、あそこまで恥知らずな手段を取る可能性は、低いと思っていたがな。
おおかた、日本に隙がないんで、捏造するしかなかったんだろうな。
しかしいくらアメリカとはいえ、日本を舐めすぎだ。
この代償は、高くつくぞ。
それにしても、俺が大将で、参謀総長か。
そうなるように準備してきたとはいえ、実際になってみると感慨深いものがあるな。
それと同時に、とてもやりがいのある仕事だ。
なにしろ俺と祐一が、帝国軍の実質的な指揮権を握るってことだからな。
幸いにも海軍は精強で、装備も充実している。
おかげでそっち側は、祐一に任せていられる。
しかし太平洋戦争といえど、陸軍が暇になるわけじゃない。
ルーズベルトはソ連に親近感を抱いているから、間違いなくこの戦争に引きこむはずだ。
実際に前世でも、やられたことだからな。
しかし今世でも極東同盟は結成できているので、十分に対応は可能だ。
正統ロシアへの技術供与や合同演習によって、それなりに国境は固めているからな。
そして大陸への迅速な兵力移動も、長年にわたって練り上げてきた。
優秀な指揮官も揃ってるから、前線の指揮も問題ないだろう。
それよりも重要なのは、いかにこの戦争を終らせるかだ。
おそらく海軍は、前世のように優勢に戦闘を進められるだろう。
しかし我が国には西海岸どころか、ハワイすら占領・維持する能力はない。
そんなもん、金と物資の無駄遣いにしかならないからな。
そうすると、いくら戦闘で勝っても、アメリカを追い詰める手段に乏しい。
もちろん、前世みたいに西海岸の爆撃とかはするけどな。
おそらくそれだけでは、講和交渉もできないだろう。
そして前世のような、ルーズベルトの急死なんかに期待するのも危険だ。
あれはたまたまの僥倖だったからな。
まあ、アメリカで工作する仕込みは、バッチリしてある。
状況を見ながら、謀略を展開してやろうじゃないか。
幸いにも、石原莞爾のやつがこういうの大好きなんだよな。
おかげで俺の負担が減って、助かっている。
そして今世では、戦後のアメリカの弱体化を狙っていくつもりだ。
これも陸軍の指揮権を、一手に握れるからこそだな。
ククク、ルーズベルトめ。
今に目にもの、見せてやろうじゃないか。




