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未来から吹いた風2 《軍人転生編》  作者: 青雲あゆむ
第4章 太平洋戦争編

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37.最後通牒

昭和15年(1940年)1月 東京


 マニラ沖での海防艦撃沈について、アメリカは年内には行動を起こさなかった。

 大方、クリスマス前に軍を動かしたくはなかったのだろう。

 しかしその代わりに、アメリカ国内で世論を煽りまくっていた。


 海防艦との戦闘(?)で死んだ兵士の氏名を公表し、日本軍のだまし討ちによってやられたと喧伝したのだ。

 これによってアメリカ世論は沸騰し、”日本、討つべし!”、”リメンバー・マニラ!”という強硬論が台頭した。


 一方の日本だが、アメリカ軍の協力を得られないこともあって、調査は進まなかった。

 ただし我が軍は、南方航路のパトロールにおいては、安易な軍事行動は取らず、連絡を密にするよう指示していた。

 そして乏しい通信記録と、被撃沈艦の艦長の人柄などからして、こちらから攻撃することはあり得ない、と結論していた。


 しかしそれでアメリカが、収まるはずがない。

 共同調査を申し入れる日本に対し、非難声明を連発してきた。

 さらに国内世論を煽り、戦争も辞さずという雰囲気を醸成じょうせいしていく。


 そして年が明けて半月で、とうとう最後通牒を突きつけてきたのだ。


「まさかここまで強硬な態度に出るとはな」

「はい、これではまるで、アメリカは戦争をしたがっているとしか思えません」


 突如、招集された”国策検”の場で、俺はアメリカの要求内容を知った。

 その内容はこんなものだ。


1.日本はマニラ沖海戦について公式に謝罪し、賠償金1万ドルを払うこと

2.台湾の一部を、アメリカに租借させること

3.日本の関税障壁を見直すこと

4.回答期限は1週間後の日本時間正午とし、誠意ある回答が得られなかった場合は、宣戦を布告する


 たとえアメリカ側の主張が、完全に事実だったとしても、あり得ないほど高圧的な要求だった。

 これでは日本はまるで、アメリカの属国扱いである。

 そこには真剣に外交をしようとする気配はなく、日本の暴発を待っているとしか思えなかった。


 書面を見ながら、首相の平沼騏一郎ひらぬま きいちろうがため息をつく。


「外相が言うように、このままでは戦争になりかねん。もしもそうなったら、軍部は対応できるかね?」

「はい、幸いにも、師団と装備の増強が間に合いました。仮にアメリカがソ連と組んでも、動員までの時間は稼げると信じます」


 参謀総長になったばかりの川島が、すかさず言葉を返すと、首相は俺を見る。


「ふむ、海軍は?」

「はっ、海軍も充足率を高めておりますので、当面の対処は可能であります」

「そうか。とりあえずは安心したよ。元帥が信頼する2人の言葉だ。私も信じさせてもらうよ」

「「はっ、恐縮です」」


 ちなみにこの場には、伏見宮統合幕僚長もいるが、俺たちに実務を任せると公言しており、ほとんど話に口を出さない。

 そのうえで首相は出席者を見回し、また口を開いた。


「アメリカはこれを、最後通牒だと言っているが、受け入れることなど到底できない。つまりアメリカと戦争をすることになる。その点については、同意してもらえるね?」


 その問いかけに皆がうなずくと、首相が先を続ける。


「うむ、それで問題は、アメリカとやってまともな戦いになるかだ。なにしろあの強大な国と戦うのだ。勝てないまでも、上手く負ける程度にはしたい。その辺、参謀総長はどう考える?」

「はっ、皆さんもご存知のように、我が国は欧州大戦後、国力の増強に励んでまいりました。その結果、我が国は並の列強には、引けを取らない国力を備えております。その事実に加え、さらに国民が力を合わせることで、長期戦にも対応できるでしょう。そのうえで敵の太平洋艦隊を撃滅し、アメリカ本土に攻撃を加えれば、講和も可能であると信じます」


 すると首相が、感心したような顔をする。


「大した自信だ。まるでアメリカと戦争になるのを、知っていたようだな」

「我が国に危害を及ぼす可能性のある国については、様々なパターンを想定し、対策を練っております」

「ふむ、それも当然か……ならば後事を託しても、問題はなさそうだな。知ってのとおり、戦争になる場合は、首相の座を廣田ひろたくんに譲ることになっている。後のことは頼んだぞ」

「「「はっ、お疲れさまでした」」」


 こうして日本はアメリカとの戦争を決意し、平沼内閣はその日のうちに総辞職した。

 そしてそれを受けた廣田弘毅ひろた こうきが、組閣準備に入り、廣田内閣が成立する。

 かくして日本は、本格的に戦争へと動き出したのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後、俺は川島と2人で、密談をしていた。


「やっぱり戦争になっちまったな」

「ああ、しかも前世より、さらに早まってる。なかなか思うようには、ならんものだな」

「まあ、相手があってのことだ。それも仕方ない」

「そうだな。しかしまあ、国力の引き上げには成功している。科学技術に至っては、前世以上だ」

「ああ、そうだな」


 今世でも俺たちは、国力の底上げに尽力し、十分に成功していた。

 昨年の日本の国力は、以下のようになっている。


【1939年の国力】※カッコ内は史実の値


実質GDP:4600億ドル(2709億ドル)

人口   :7600万人 (7236万人)

製鉄能力 :1200万トン(400万トン)

発電能力 :2400万kW(1350万kW)

自動車保有:60万台   (15万台)

石油生産量:240万kL (40万kL)

石油消費量:470万kL (260万kL)


 そのGDPはすでにイギリスを超えており、アメリカの3分の1程度にまでなっている。

 その他の工業力も格段に史実より高くなっていて、資源の入手にも困らない。

 さらに兵器を始めとする科学技術においては、前世よりもさらに先行していた。


「それに今世は、頼もしい同志も多いからな」

「ああ、その点はちょっと、安心できるかもしれないな」


 今世で軍人に転生した俺たちは、前世より積極的に、軍部で同志を増やしてきた。

 その結果、以下のような人たちと、戦略や戦術を共有しているのだ。


【陸軍】

大将:永田鉄山

中将:今村均、山下奉文、本間雅晴、石原莞爾

少将:宮崎繁三郎、栗林忠道、


【海軍】

大将:堀悌吉

中将:小沢治三郎、塚原二四三、三川軍一、山口多聞、角田覚治

少将:大西瀧治郎、岡敬純、田中頼三、西村祥治、木村昌福


 彼らは大規模な軍縮をやった今世でも、比較的順調に出世している。

 (他の軍人は史実に比べ、4~5年ほど出世が遅れている)

 つまり軍部の主流派であり、これからの戦争も彼らが主導する形になる。


 実際に今回の戦争に向けて、以下の人事が発令されていた。


兵部大臣   :永田鉄山大将

統合幕僚長  :伏見宮博恭元帥

参謀総長   :川島健吾大将

参謀次長   :石原莞爾中将

軍令部総長  :大島祐一大将

軍令部次長  :小沢治三郎中将

海軍航空本部長:塚原二四三中将


連合艦隊司令長官   :三川軍一中将

満州方面司令官    :今村均中将

ロシア方面司令官   :本間雅晴中将

フィリピン攻略軍司令官:山下奉文中将

グアム攻略軍司令官  :栗林忠道少将


 その他の人材も、それぞれ基地や艦隊の司令官になっており、現状では最強の布陣であろう。

 そんな中で、俺と川島は52歳にして大将に昇進し、それぞれ軍令部総長と参謀総長になった。

 これは閑院宮殿下や伏見宮殿下の後押しもあるが、地道に実績と人脈を作ってきた結果でもある。


 こうして日本の戦争準備が進む中、とうとう日米開戦の火蓋が切られるのだった。

ちなみに太平洋戦争末期で、小沢治三郎中将が連合艦隊司令長官に就任した時、彼よりハンモックナンバーが高い人を、軒並み指揮下から外したそうです。

ナンバーが低い者は、高い者を指揮できないと、軍令承行令に定められているからだとか。

ニミッツを大抜擢して戦ったアメリカ海軍とは、大違いです。

敗戦間際でもそんなことやってるんだから、勝てるわけないわなぁ。

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