34.陸軍装備を開発しよう
昭和12年(1937年)5月 東京砲兵工廠
「よう、陸軍の調子はどうだ?」
「ぼちぼちだね。開発を急いでるとこ」
「アメリカがきな臭いから、急いだほうがいいぞ」
「そんなん、分かってるがな」
所変わって東京砲兵工廠。
俺は今日、陸軍の開発状況を確認に来ていた。
そこでは中島と佐島が、開発担当として出迎えてくれる。
「とりあえず、出来たばかりの戦車を見てよ」
「おう、これが噂の97式中戦車だな」
紹介された先では、でかい戦車が黒煙を噴きながら、疾走していた。
それは史実でいえば、4式中戦車チトに相当するものであろう。
【97式中戦車】
車体長・全幅・全高:6.3x2.9x2.7m
重量 :24トン
最大速度 :50km/h
行動距離 :250km
兵装 :48口径57ミリ砲
7.7ミリ機銃x2
機関 :三菱 空冷V12ディーゼル(37.7L)
出力 :450馬力
懸架方式 :改クリスティー式サスペンション
乗員 :5名
史実では開発が遅れに遅れ、試作だけで終戦を迎えた戦車である。
この世界では戦車オタの中島が、早期から開発を始め、早々と制式化を果たしていた。
史実とは異なり、洗練された鋳造砲塔を持ち、サスペンションも改クリスティー式である。
このまま欧州に持ちこんでも、決して引けを取らないと思われるような戦車だった。
そんな97式中戦車を前に、中島が胸を張る。
「史実を7年は先取りしているよ。もちろん75ミリ砲にも対応済み」
「おう、これならT34にも対抗できると思うで」
「そうか、ご苦労さん。ちなみにエンジンの調子はどうだ?」
「うん、そっちも快調。祐一にも世話になったね」
「まあ、もっぱら頑張ったのは、俺の弟子たちだけどな」
この戦車に限らず、エンジン関係では俺の教えを受けた技術者たちが、活躍していた。
軍務が忙しくて、さすがに細かいところは見ていられないのだ。
先端技術研究所にいた頃に、多くの弟子を育成しておいたので、なんとかなっている感じである。
続いて中島が、非装甲の車両を見せてくれる。
「こっちは4輪駆動の車とトラックの試作車。それぞれトヨタと自動車工業(後のいすゞ)が、頑張ってくれてるよ」
【12試 4輪駆動車】
全長・全幅・全高:3.3x1.6x1.8m
重量 :1.4トン
最高速度 :時速90km
機関 :トヨタ 2.2リッター水冷直4エンジン
出力 :55馬力
乗員 :4名
【12試 6輪自動貨車】
全長・全幅・全高:6.9x2.2x2.4m
重量 :4.8トン
積載量 :4トン
最高速度 :時速60km
機関 :いすゞ 4.4リッター水冷直6エンジン
出力 :100馬力
乗員 :3名
4輪駆動車の方は、ぶっちゃけジープのパクリである。
史実のウィリスMBによく似ていた。
トラックの方も、アメリカの6輪トラックを参考にしているそうだ。
前世の対ソ戦線で、荒野の移動や運搬に苦労したため、今世では早めに手をつけたわけである。
どちらも後1年ぐらいで、ものになるそうだ。
「銃砲の方はどうなんだ?」
「そっちもバッチリや。我が軍の砲戦力は、ドイツやアメリカにも負けへんで」
「そいつは良かった」
佐島が言うように、この世界でも銃砲の開発は進んでいた。
後島が優秀な合金を開発し、佐島が火薬を改良することで、諸外国にも負けない銃砲が生まれている。
もちろんその恩恵は海軍にも及んでいて、優秀な5インチ砲や25ミリ機銃などは、その成果である。
「航空機の開発も、順調なんだよな?」
「うん、飛燕や飛龍の試作が順調で、近年中には制式採用される予定だよ」
【12試 局地戦闘機】
長さx幅:8.7x12m
自重 :2.9トン
エンジン:川崎 マーリン 水冷V12気筒(27L)
出力 :1500馬力
最大速度:610km/h
航続距離:増槽つき1600km
武装 :20ミリ機銃x2、12.7ミリ機銃x2
乗員 :1名
これは史実の飛燕に相当するもので、水冷エンジンを積んだ局地戦闘機である。
前世でもやったように、ロールスロイスのマーリンエンジンを川崎が国産化している。
その速度や上昇力は秀逸で、迎撃戦闘に威力を発揮するだろう。
【12試 重爆撃機】
長さx幅 :18.7x22.5m
自重 :9トン
エンジン :三菱 空冷星型複列18気筒(54.1L)x2
出力 :2千馬力x2
最大速度 :540km/h
航続距離 :3800km
武装 :12.7ミリ機銃x5
爆弾搭載量:1.2トン
乗員 :5名
こっちは史実の飛龍で、双発の重爆撃機である。
この世界でも火星エンジンの18気筒版を2基搭載し、大馬力を実現している。
爆弾搭載量はさほどでもないが、急降下爆撃もできる機体と、長大な航続距離で、活躍が期待されていた。
これらの機体は、もちろん海軍でも利用可能だし、逆に海軍の機体を簡素化し、陸軍が採用することもある。
史実のように陸海でいがみ合ってないので、その辺は実に効率的なのだ。
「そういえばハイオクガソリンの件、ありがとな」
「おう、すでに経験があったからな。大したことあらへん」
そして今世でも、佐島がハイオクガソリンの生産法を確立してくれていた。
おかげで戦時に向けての量産体制が、構築されているところだ。
こうして陸軍の方でも、着々と戦争準備は整いつつあった。
ちなみにこの時代の戦闘機で液冷エンジンにすると、空冷より毎時30キロぐらい速くなったそうです。
液冷は空冷より機首を細くできて、空気抵抗が減りますから。
ちゃんとした技術力がないと、扱いきれませんけどね~。w




